ここでは、学生を中心とする各主体による公開質問状およびその応答を掲載いたします。
※四学部: 工学部新入生歓迎実行委員会、文学部学友会委員会、農学部学生自治会常任委員会、理学部学生自治会評議会
京都大学職員組合学生部:総長候補への公開質問状
私たち「京都大学職員組合 学生部」は、TA・RA・OAを中心に、学生労働者の環境・待遇改善に向けて活動しております。
この度、次期総長候補となられた方々に、上記の学部自治会執行部と連名の上、下記の項目について質問状を作成いたしました。次期総⻑候補者の⽅々のご⾒解をぜひうかがわせていただきたく思います。
質問1【学生向け情報公開】
2016年2月まで、大学当局内の情報を学生に公開し、意見交換を行う場として、情報公開連絡会が毎月開催されていましたが、川添信介理事(当時)により中断されて以降、今に至るまで開催されていません。京大職組学生部としては、本学の基本理念である社会的な説明責任を果たすためにも、構成員たる学生に十分な情報公開の機会を設けることは重要であると考えます。
そうした中で、情報公開連絡会、ないしそれに準じた情報公開の機会を再開することについては、どのようにお考えですか。
質問2【対話に関する考え】
本学は基本理念として対話の重視を定めていますが、最近は学生を含む当事者との対話が十全ではない事例が散見されます。直近では、学部生向け授業料減免制度の新入生適用除外や、学生寄宿舎吉田寮の建て替え・跡地「有効活用」方針について、学生を含む当事者への意見聴取の機会すらなく発表されるという事案がありました。現在大学当局は、学生意見箱を通じた情報発信を対話の手段とみなしているようですが (※1)、これは全く直接的なコミュニケーション手段でなく、到底本質的な対話となりえません。
京大職組学生部としては、本学が抱える諸問題について、本学の基本理念に沿い、学生を含む当事者との直接的な対話を重視すべきと考えます。この点について、どのようにお考えですか。
※1 学生意見箱(2025.2.11)「学生と大学上層部との対話の再開に向けて」(https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/inline-files/A06043-2cb4cd5b2ecc6e6828e5913409098313.pdf)
質問3【院生向け経済支援】
仮に国際卓越研究大学に認定された場合、博士後期課程大学院生向けの経済支援(いわゆる「SPRINGプログラム」)が打ち切りないし大幅に縮小されるのではないかという懸念があります。現に東北大学では、博士後期課程の院生への経済支援が一律支給となったものの、支給額が月額10万円となっており、実質的な減額が生じています。本学における国際卓越研究大学下での院生への経済支援について、どのようにお考えですか。
質問4【雇用に関する問題】
TA・RA・OAなど、本学は学生・院生を様々な形態で雇用しており、とりわけ大学院生の生活を実質的に支える役割を果たしています。一方、国際卓越研究大に認定された場合、大学ファンドの運用益に基づき助成金が配分されるため、財源が現在より不安定化することとなります。そうした中で、どのような雇用の安定化策をお考えですか。
※職員組合のサイトもご参照ください(https://www.kyodai-union.gr.jp/koukaishitsumon-4/)。
(浅野 耕太 候補より 冒頭に以下の通りご記述いただきました)
最初に、学生・大学院生が京都大学の重要な構成員であり、皆さんが本学の教育研究環境のあり方について意見を述べることは、大学にとって重要な意味をもつと考えています。そのうえで、現在私は本学全体の意思決定に関与できる立場におらず、個別事案について何かを約束することはできません。一教員として、情報公開、対話、学生支援、雇用・処遇のあり方について、現在の限られた知識の中でどう考えているかを述べたいと思います
質問1の回答:
浅野 耕太 候補
情報公開連絡会、またはそれに類する情報公開の機会については、学生が大学の重要な構成員であることからも検討すべき内容と考えます。大学運営に関する情報は、教職員のみならず学生にも関わるものであり、特に教育環境、授業料・奨学金、学生支援、施設整備、キャンパス利用など、学生生活に直接関わる事項については、適切な時期に、わかりやすい形で説明される必要があります。
もっとも、大学運営に関する情報には、個人情報、人事、契約、交渉過程、法務上の問題など、公開に慎重な取扱いを要するものも含まれます。したがって、過去の制度をそのまま復活させることにこだわらず、現在の大学運営に即して、どのような情報を、どの段階で、どのような方法で学生に共有するのが適切かを整理・検討する必要があります。
その意味で、学生に対する定期的な説明と意見聴取の機会を設けることは、大学の円滑な運営を進めるうえで重要であり、情報公開連絡会に準じる仕組みを含め、学生に対する定期的な説明と意見聴取のあり方について、前向きに検討すべきと考えます。
椹木 哲夫 候補
学生に対する透明性のある情報公開と意見交換の場は、本学の「開かれた対話」の根幹であり、極めて重要であると考えています。かつての「情報公開連絡会」が中断された理由については存じませんが、大学と学生の間にある情報の非対称性は何とかして解消していきたいと考えています。一方で、過去の形式をそのまま復活させるのではなく、現代に合わせた「変化を伴う継承」を図っていきたい考えです。一部の代表者だけでなく、より多くの学生がアクセスしやすく、双方向の対話が実質的に機能する「新しい情報公開と対話のプラットフォーム」を設計していきたいと考えています。
立川 康人 候補
学生意見箱を通じて学生の皆様のご意見を伺う窓口を設けています。頂いたご意見を単なる要望として扱うのではなく、大学の運営や判断における貴重な参考資料として受け止めるとともに、適切な情報発信に努めたいと思います。
質問2の回答:
浅野 耕太 候補
学生を含む当事者との対話は、京都大学の運営において重要です。学生に関わる制度変更や施設整備、授業料・減免制度、寄宿舎、学生支援などについて、よりよい決定を行うためには、決定後に周知するだけでなく、可能な範囲で、検討段階から学生の意見を把握しうるチャネルを整えておくことが望ましいと考えます。
ただし、大学における「対話」は、特定の団体との交渉によってのみ成り立つべきではありません。学生自治会や学生団体から寄せられる意見は、学生の声の一部として真摯に受け止める必要がありますが、大学には、普段は声を上げにくい学生、留学生、障害のある学生、経済的困難を抱える学生、研究室・部局ごとに異なる状況に置かれた学生など、多様な学生がおり、それらの意見を広く把握する必要があると考えます。 そのためには、まずは学生意見箱のような制度を一つの窓口として活用しつつ、それだけに依存するのではなく、テーマに応じて、説明会、アンケート、オンラインでの意見聴取、部局単位での懇談、学生代表を含む意見交換の場など、複数の方法を組み合わせることが重要です。対話とは、特定の形式を固定的に採用することではなく、学生に関わる課題について、できるだけ広く、継続的に、かつ透明性のある形で意見を聴き、大学運営に反映していく過程であると考えます。その場合にも、大学としての意思決定責任、個人情報・法務・施設管理上の制約、教育研究への影響を踏まえ、課題に応じた適切な手続きと範囲を設定する必要があります。
椹木 哲夫 候補
京都大学における「対話の自由」とは、本学の基本理念である「自由の学風」を基盤とし、多様な価値観を持つ構成員が独立した対等な立場で、未完成のアイデアを日常的にぶつけ合い、互いに批判・触発し合う「知の共有プロセス」を意味します。それは単なる情報交換にとどまらず、対話によって既存のパラダイムをゆさぶり、学術の深化や破壊的イノベーションを生み出す源泉となるものと考えます。
立川 康人 候補
広く学内のご意見をお聞きすることは重要です。窓口として設けている学生意見箱に寄せられたご意見については関係部署と確実に共有し、改善を検討するプロセスに活かしていく所存です。
質問3の回答:
浅野 耕太 候補
博士後期課程の大学院生への経済支援は、京都大学が研究大学として発展するための基盤です。このことは国際卓越研究大学の枠組みでも維持されるべき重要な事項であると考えます。博士課程学生は、単に教育を受ける立場にあるだけでなく、将来の研究を担う存在であり、現在、そして未来の教育研究活動の主体でもあります。
国際卓越研究大学に認定された場合、既存の博士課程学生支援制度との関係や移行措置について、学生に不安が生じないよう、可能な限り迅速に説明する必要があります。その際に制度変更によって、支援の空白や急激な不利益が生じることは極力避けなければなりません。
具体的な支援制度については、国の制度設計や財源の見通しを踏まえて慎重に検討する必要がありますが、本学としては博士課程学生が経済的不安によって研究を断念することのないよう、生活支援、研究費支援、TA・RA 制度、授業料免除等を組み合わせた総合的な支援体制を充実させるべきと考えます
椹木 哲夫 候補
組合からの公開質問状の質問4 で回答(※)しています。
※学生・大学院生を取り巻く経済的・制度的な環境が厳しさを増す中、本学独自の教育環境の拡充と、次代の人材を持続的に育成していくことは必須と考えています。ここでは大学院教育に限定して回答します。まず、国からの支援にのみ依存するのではなく、ファンドレイジングを強化して独自の基金を形成し、その運用益を大学院生や若手研究者の支援に直接還元する仕組みを確立することで、資金と価値の好循環による独自の経済的支援を実現したいと考えています。次に、デパートメント群の現場との協議により、「グラジュエート・ディビジョン」の導入によって大学院教育を一元管理し、特定の教員による囲い込みを防ぐことで、学生が学部の壁を超えて最適な指導者と環境を自由に選択できる流動性を確保し、自由な学びを保障して本学の「自学自習」を現代にアップデートしていく考えです。さらに、博士課程教育においては、これまでの指導教員個人の裁量に依存した密室状態から脱却し、複数指導体制などを導入することで、博士教育・研究倫理・ガバナンスを組織全体のシステムとして再設計し、「組織的責任」へと転換を図っていきたいと考えています。
立川 康人 候補
国際卓越研究大学に認定された場合、各種制度を移行する必要が出て参りますが、大学院生の皆様が経済的な不安を抱えることなく研究に専念できる環境を守ることは、大学全体の発展のために重要なことと認識しています。政府による各種支援制度を最大限活用しつつ、民間企業からの寄附金等を活用した奨学制度を組み合わせて、本学の大学院生の研究環境の拡充に取り組んで参りたいと思います。
質問4の回答:
浅野 耕太 候補
TA・RA・OA 等は、教育研究活動を支える重要な制度であると同時に、大学院生等にとっては、経済的支援、教育経験、研究経験、キャリア形成の機会でもあります。そのため、業務内容、勤務時間、報酬、責任の範囲が明確であり、学生自身の学修・研究を損なわない形で運用される必要があります。
国際卓越研究大学の枠組みのもとで財源が変化する場合にも、TA・RA・OA 等の制度が不安定化し、学生の生活や研究継続に悪影響を及ぼすことは避けるべきです。短期的な財源に過度に依存するのではなく、教育研究上必要な業務を安定的に支える仕組みを整えなければなりません。
また、TA ・RA・OA 等は、教育研究の助力者であるとともに、教育研究に直接的に参画する機会として位置づけ、適正な報酬、明確な業務内容、相談窓口、ハラスメント防止、過重労働の防止を含む運用改善を確実に進めるべきです。そのため、学生の生活支援と教育研究上の経験蓄積の双方を保障する制度として、安定的かつ透明な運用を行うことが重要です
椹木 哲夫 候補
TA・RA・OA は本学の教育研究を支える不可欠な力であり、その雇用の安定は極めて重要であると認識しています。大学ファンドの運用益変動による財源の不安定化を防ぐため、いくつかの施策に取り組んでいきたいと考えています。まず、国からの助成金だけに依存せず、独自のファンドレイジング等により安定した基金を形成し、その運用益を学生雇用の財源として持続的に還元することで、独自基金による安定財源の確保を図りたい考えです。
立川 康人 候補
TA、RA や OA を用いた学生や大学院生の雇用は、本学の教育・研究を進めるために欠かせません。また、これらが大学院生の生活を実質的に支える重要な役割を果たしていることを認識しています。外部資金を含めて複数の財源を組み合わせて管理し、TA、RA や OA 等の雇用が不安定にならないような対策を考えて参りたいと思います
京都大学の福利厚生施設である吉田寮は、寮生全員で構成する吉田寮自治会が自治・自主管理による運営を行なってきました。吉田寮に関する重要なことがらは吉田寮自治会と京都大学執行部との対話を通じて決めてきたという長年の経緯も踏まえ、今回の京都大学総長選に際して、候補者各位のお考えを質問させていただきたいと思います。
【質問1】
吉田寮に関する決定は従来、京都大学の執行部や担当部署と吉田寮に住む当事者の間での合意形成を経て行われてきました。2018年に行われた話し合いを最後に、両者の間での話し合いが行われない状況が続いていますが、私たち当事者としては対話による問題解決が望ましいと考えています。
これについて、どのようにお考えでしょうか?
【質問2】
京都大学執行部は従来、副学長情報公開連絡会を通じて学内構成員である学生への情報共有と意見交換を行なってきました。2016年に開かれたのを最後に、副学長情報公開連絡会は廃止され、代替として学生意見箱が導入されましたが、学生意見箱は公開の場での逐次的なやり取りではなく、対話の場として十分に機能しているとは言えません。例えば、回答する側が回答対象の意見を恣意的に選別することも可能であり、また回答に対して再度意見を述べて議論を深めるのにも不向きであるといった問題があります。
私たちとしては、副学長情報公開連絡会、もしくはそれに相当するものを再開することが望ましいと考えますが、どのようにお考えでしょうか?
【質問3】
京都大学に通う学生の中には、様々な経済的困窮を抱えた人がいます。特に、近年の物価高により賃料や生活費が高騰し、学術研究活動に支障をきたす学生も実際に存在します。これまで、京都大学独自の授業料免除制度が運用されてきましたが、2026年度以降の入学者に対しては打ち切るという措置が、学生・教職員らの反対意見があったにもかかわらず取られました。
こうした状況で、学生が安心して学術研究活動に専念できるように、京都大学としてなすことのできる学生支援の拡充について、どのようにお考えでしょうか?
【質問1】 基本的に学生と大学の関係は、相互の信頼に基づく対話によって構築されることが望ましいと考えています。吉田寮との関係についても10年ほど前までは、意見の相違はあれ、対話が行われてきました。その後、対話ではなく法的な訴訟によって対峙する関係になってしまったことは大変残念に思います。
現在私は全学の意思決定に関わる立場になく、公式ウェブサイト等で公開されている以上の情報を有しているわけではありませんが、これまでのプロセスが十分な対話に基づいたものとは言えないとされても仕方がないと感じております。厳しい対立の中では対話が機能しないことへの警戒が大学側にあったのかもしれませんが、大学側が土地や施設の利用方針、その中での寮の位置付け方について十分な説明を尽くし、吉田寮側の当事者との対話を行う道は常に開かれているべきであったと考えます。和解を経た今だからこそ、改めて相互の信頼関係を再構築し、対話による解決の糸口を模索していく必要があると考えています。
【質問2】
学生との対話の場を設けるということは、大学運営において極めて大事なことだと考えます。私は、平成22年(2010年)から平成26年(2014年)まで松本総長時代に総長室副室長、総長首席学事補佐を務め、本学の執行部に身を置いていました。この間、吉田寮とは意見の相違はありながらも、情報公開連絡会などの対話の場は維持されていました。学生は大学を構成する重要な一員であり、その声に耳を傾けることは大学の発展に不可欠です。情報公開連絡会、あるいはそれに類した、現代の学生のニーズに即した新しい形態の意見交換・情報公開の機会については、その復活や新設を前向きに検討すべき内容であると考えます。
【質問3】
学生・大学院生は、留学生も含めて、大学の将来を担うかけがえのない存在です。京都大学が国際的な研究大学であり続けるためには、学生・大学院生が経済的な不安なく、学問や研究に集中できる環境を整えることが不可欠です。
現在の物価高騰などの社会情勢を鑑みると、教育・研究環境の拡充には、授業料の問題だけでなく、奨学金、授業料免除、博士課程学生への生活支援、研究費支援、TA・RA制度の拡充、学生寮などによる住環境の整備、メンタルヘルス支援、留学生支援などを総合的にパッケージとして考える必要があります。また、制度変更を行う際にも、学生生活に急激な不利益が生じないよう、大学として責任ある移行措置を講じるべきです。
現在、大学が積極的に進めようとしている全学的な学生総合支援の具体的な進捗や財政状況のすべてを詳細に把握しているわけではありませんが、今後これらを精査・検証したうえで、真に実効性のある具体的な生活・研究支援の拡充策を打ち出していきたいと考えています。
回答なし
(吉田寮自治会宛てに、以下の通り返信をいただきました。
「先月下旬、貴自治会より公開質問状を拝受いたしました。
現在、総長選考期間中であり、有権者である教職員の皆様には、すでに第一次総長候補者としての所信をお伝えしております。
今回の選考プロセスの公平性に鑑み、大変恐縮ではございますが、いただきました【質問1】から【質問3】に関する個別の回答につきましては、差し控えさせていただきたく存じます。
悪しからずご了承いただけますようお願い申し上げます。」)
回答なし
(吉田寮自治会宛てに、以下の通り返信をいただきました。
「貴会からの公開質問に関しては、回答を差し控えさせていただきます。なお、投票資格者となる教職員の方々には第一次総長候補者としての所信をお伝えしております。」)
〇質問1:パレスチナ・ガザ地区の学生受入について
本会は2025年4月、「パレスチナ自治区ガザ地区の学生・傷病者にかかる京都大学法人への要請」を京都大学法人宛に提出し、京都大学が、ウクライナからの学生受入れと同様の措置を、ガザ地区からの学生に対して行うことを求めました[i]。ガザ地区をめぐるこの度の紛争では、国際刑事裁判所が軍事指導者に逮捕状を出す[ii]など、ウクライナ問題との類似性が見られます。また、ガザ地区では80%以上の学校施設が攻撃を受けた、あるいは破壊されたという国連専門家の報告があり[iii]、教育をめぐる事態は極めて深刻です。
京都大学は、日本の中でも相当高い教育・研究環境を提供できる大学であり、将来の国際関係構築を見据えた人材の受け入れが可能な環境にあります。一方、現総長のもとでは本要請に対する応答はありませんでした。
総長候補各位におかれましては、ウクライナからの学生受入れ[iv]と同様の措置をガザ地区の学生にも適用することを検討していただきたいと考えます。本問題について、現時点でお考えがございましたら、お聞かせいただきたく思います。
〇質問2:琉球等遺骨問題について
京都大学には、19世紀以降に北海道、サハリン、クリル諸島や琉球・沖縄、奄美、台湾、朝鮮半島、中国東北部、東南アジア等から地域コミュニティの許可なく持ち出した遺骨・副葬品が、現在でも収蔵されています[v]。
2023年9月の高裁判決では、琉球遺骨返還を求める原告団の訴えは退けられました。一方、当該判決文内においても、「遺骨は、ふるさとで静かに眠る権利があると信じる」「持ち出された先住民の遺骨は、ふるさとに帰すべきである」「日本人類学会から提出された、将来にわたり保存継承され研究に供されることを要望する書面に重きを置くことが相当とは思われない」との付言がありました。[vi][vii]
京大法人は2025年11月に遺骨返還手続きに関する公式ガイドラインを公表、同年5月に京都大学が保管していた今帰仁村の「百按司墓」の遺骨を教育委員会に移管したことも明らかにしました[viii]。ですが、今にいたるまで、琉球遺骨返還を求める原告団に対しても、アイヌや奄美の遺骨返還を求めてきた人びとに対しても、謝罪をしていないのはもちろん、面会して説明することすら拒否してきました[ix]。国際的にも先住民族の遺骨返還がスタンダートとなり(e.g. 米、豪)[x][xi]、国内の東京大や北海道大でも遺骨返還作業が進められている現状において[xii][xiii]、遺骨返還問題に臨む京都大学の姿勢は、研究倫理の面で著しく後れを取っていると言わざるを得ません。
本会としては、学問と植民地主義をめぐる問題として考えたときに、京都大学の対応は研究倫理を著しく損なうものであり、関係者に対する説明責任を果たすことが最低限必要であると考えております。本問題について、現時点でお考えがございましたら、お聞かせいただきたく思います。
<質問1 参考資料>
[i] 京都大学中東問題を考える有志学習会, 2025年「パレスチナ自治区ガザ地区の学生・傷病者にかかる京都大学法人への要請」(https://ku-midwest-study.jimdosite.com/).
[ii] International Criminal Court, 2024, Situation in the State of Palestine: ICC Pre-Trial Chamber I rejects the State of Israel’s challenges to jurisdiction and issues warrants of arrest for Benjamin Netanyahu and Yoav Gallant, (https://www.icc-cpi.int/news/situation-state-palestine-icc-pre-trial-chamber-i-rejects-state-israels-challenges).
[iii] UN Independent Human Rights Experts, 2024, UN experts deeply concerned over ‘scholasticide’ in Gaza, (https://www.ohchr.org/en/press-releases/2024/04/un-e xperts-deeply-concerned-over-scholasticide-gaza).
[iv] 京都大学, 2022年 「ウクライナ情勢に係る本学の方針」 (https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2022-03-08).
<質問2 参考資料>
[v] 京都大学新聞, 2020年11月16日「遺骨問題 「真相究明、返還を」 国内外の研究者ら 要望書」(https://www.kyoto-up.org/archives/3080).
[vi] 大阪高判令和5年9月22日(2023WLJPCA09229001).
[vii] 京都大学新聞, 2020年10月1日「琉球遺骨返還運動〈控訴審判決を受けて〉 訴訟の限界に挑む」(https://www.kyoto-up.org/archives/7015).
[viii] 京都大学新聞, 2025年6月16日「京大 琉球民族の遺骨を移管 子孫ら「墓への返還求める」」(https://www.kyoto-up.org/archives/11455).
[ix] 京都大学新聞, 2025年12月1日「京大 琉球遺骨移管協議に応じず 請求団体は抗議 再請求へ」(https://www.kyoto-up.org/archives/12209).
[x] 中村尚弘. (2017). アイヌ民族の遺骨返還の課題: アメリカ合衆国との比較を通じて. 北海道民族学= Hokkaido journal of ethnology, (13), 31-40.
[xi] Australian Government Department of Communications and the Arts , 2016 “Australian Government Policy on Indigenous Repatriation”(https://www.arts.gov.au/publications/australian-government-policy-indigenous-repatriation).
[xii] 東京大学, 2025年 「遺骨返還等タスクフォースの設置について」 (https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z1304_00143.html).
[xiii] 北海道大学, 2019年「本学が保管するアイヌ遺骨に関する声明(2019年11月5日)」(https://www.hokudai.ac.jp/pr/johokokai/ainu/post-33.html).
浅野耕太 候補・椹木哲夫 候補よりご回答をいただきました。
本学には国際交流を所掌する理事や副学長がおり、そのもとで事務組織が実際の対応を行っています。私はその体制の内部にはおりませんので、一教員としてコメントさせていただくことをご留意ください。
武力紛争や人道的危機によって、学生が学修・研究の機会を奪われることは、教育研究機関として重く受け止めるべき問題であると考えます。京都大学としても、教育研究機関としての責任および人道的観点から、どのような支援が可能であるかを検討する必要があります。一方で、具体的な受入れ措置については、現地からの渡航可能性、安全確保、在留資格、生活支援、学修環境、財源、国や関係機関との連携など、確認すべき事項があります。過去に実施された支援の経験も参照しつつ、それぞれの状況に即した実施可能な支援のあり方を慎重に検討することが重要です。
支援の迅速性が重要であることはいうまでもありません。同時に、受入れ後の生活、学修、研究、心理的支援までを見通し、学生が安心して学び続けられる持続可能な支援体制を整える必要があります。この点で、現時点で特定の制度や措置の実施を直ちに約束することはできませんが、学修・研究の継続が困難となっている学生に対して、京都大学としてどのような支援が可能であるかを検討することがまず第一歩と考えます。
本学にはコンプライアンスや研究公正を所掌する副学長や理事がおり、そのもとで事務組織が実際の対応を行っています。私はその体制の内部にはおりませんので、一教員としてコメントさせていただくことをご留意ください。
大学の研究活動は、現在および将来に対してのみならず、過去に行われた研究活動についても一定の社会的責任を負うものと考えます。
一般論としては本学が保管する人骨資料については、その取得・保管に至った経緯や方法について、研究倫理等の見地から検討する必要があります。また、人骨資料の移管・返還の可否については、歴史的経緯、研究倫理、法的関係を踏まえ、大学として慎重かつ誠実に対応すべき重要な課題であると考えます。
なお、個別の案件については、遺骨の由来、取得の経緯、保管・移管の経緯、関係者の意向、法的関係などを確認したうえで判断する必要があります。そのため、私としては、現時点で個別案件に関する法的・倫理的評価や具体的な対応を断定することは差し控えたいと思います。
そのうえで、大学には、関係資料を確認し、事実関係を調査し、関係する方々に対して必要な説明を行い、対話を重ねることが望ましいように思います。過去の研究活動を検証するにあたっては、現在の研究倫理上の観点に加え、当時の歴史的文脈、研究環境、取得・保管の経緯についても丁寧に確認する必要があります。このことは研究の自由や学問の自律性を損なうものではないと考えます。むしろ、現在および将来の研究活動に対する社会的信頼を支えるために必要な営みであると考えます。
今後の対応にあたっては、関係する事実関係と法的整理を慎重に確認し、研究倫理および関係者の尊厳を踏まえ、大学として説明可能な手続きに基づいて判断することが重要であると考えます。
本学は「社会の安寧と人類の幸福、平和へ貢献すること」を研究活動の基本目的として定めています。紛争や危機的な状況に置かれた地域の学生に対して、教育と研究の機会を保障し、安全な学びの場を提供することは、私が目指す「多様な知が集まる国際的な知の拠点」としての重要な責務であると考えています。紛争地域で困難に直面している学生に対しても、国籍や地域による区別なく、DEIB(多様性・公平性・包摂性・帰属意識)の理念に基づいた公平な支援の枠組みを検討していくべきだと考えています。
大学における過去の研究活動が、現代の人権意識や倫理規範に照らして深刻な批判を受け、司法判断が下されている昨今の情勢について、真摯に受け止めています。京都大学が社会からの信頼を維持し、「国際的な知の拠点」であり続けるためには、過去の研究の負の側面から目を背けることなく、未来に向けた高度な研究倫理をシステムとして組織に組み込んでいきたいと考えています。
2025年11月、京大独自の授業料免除制度(独自制度)に関して、来年度以降の入学者を対象外にする、つまり独自制度を段階的に廃止すると、京大は発表しました。独自制度とは、「修学支援新制度」という国による学部生向けの経済支援を補填するものでした。新制度の申請資格を満たさない学生や、新制度において、3分の2免除・3分の1免除となった学生に対して、全額免除・半額免除となるよう差額を補填していました。
廃止の発表は、一部学部の特色入試の出願が終わり、一般入試も迫る11月に、廃止に関する文書をウェブサイトの授業料免除のページに掲載するのみというものでした。また、学生や受験生への説明会や「対話」の場を設けることもなく、廃止の判断根拠となった統計データも明らかにしておりません。
1.1 独自制度の廃止についてどのようにお考えでしょうか。廃止を撤回するつもりはありますでしょうか。
1.2 独自制度廃止の決定・発表の時期やプロセスに関して、どのようにお考えでしょうか。
2024年に東大が学費の値上げを決定して以降、全国の国立大学での学費値上げの検討・決定が相次いでいます。留学生の学費については、上限が2024年に撤廃され、留学生のみの学費を値上げしたり、値上げ額を上乗せしたりするなどの別の扱いをする国立大学もあらわれております。
2.1 京大の学費額について、どのようにお考えでしょうか。学費額を値上げすべきというお考えはございますでしょうか。
2.2 学費の値上げにおいて留学生のみを別の扱いをするということに関して、どのようにお考えでしょうか。京大において、そのような扱いは許容されるというお考えはございますでしょうか。
国・京大による経済支援の現状をどのように評価していて、これからどのような方向にすべきだと、学士・修士・博士それぞれの課程に関して、お考えでしょうか。現状の経済支援は十分だと評価致しますか。
仮に、授業料免除などの経済支援や学費額を変更しようとした場合、どのようなプロセスを踏むべきだとお考えでしょうか。学生や受験生への決定プロセスに関する情報公開、説明会や「対話」の場の設定などによって、学生の意見を聞き、意思決定に反映することは必要だとお考えでしょうか。
浅野耕太 候補よりご回答をいただきました。
①現在私は部局長や大学全体の執行部のメンバーというわけではないので、制度変更の詳細な経緯についての知識を持ち合わせていません。それゆえ、本学全体の意思決定に直接関与していない一教員として回答させていただきます。(以下の質問すべてにおいても同様。)
京都大学独自の学費免除制度を利用する学生は、2024 年度において 900 名近くいたと伺いました。そうであるならば、制度廃止による学生への影響は大きいといわざるを得ません。多子世帯の学費無償といった新たな国の制度も導入されてはいるものの、こうした制度によって支援を得られない学生も多数いるものと容易に想像できます。
但し、現行の京大独自の免除制度廃止を撤回するかどうかについては、制度変更に至った経緯や財政的根拠、影響を受ける学生の範囲を十分に確認したうえで判断すべき問題であると考えられることから、現時点で結論を申し上げることは差し控えたいと思います。
また、今回廃止された免除制度にかかる予算は、大学院生向けの支援に充てられるという形で廃止決定がなされたと伺いました。それにあたっては相応の分配変更の理由があってのこととも思われますが、学生間に無用の軋轢の種を生じさせた可能性もあります。京都大学がこれまでも闊達な対話を尊重してきた伝統を考えるとそうした制度変更には、十分な説明や周知がはかられてもよかったのでないかと思われます。
②国立大学法人の学費については文科省の定めた額を基準として、運営状況などに応じて一部値上げが認められていますが、湊総長の下、本学では値上げの検討はなされてきませんでした。学生・大学院生は、留学生も含めて、大学の将来を担う存在です。授業料や留学生学費の値上げが他大学で議論される中、京都大学としては、経済的理由によって学修・研究の機会が狭められないように、従来の路線を踏襲すべきと考えます。しかし、今後の運営状況や社会情勢の変化によっては、この方針を堅持することが難しい場合もあるかもしれませんが、仮に値上げを行う場合は、それによって就学困難となる学生に向けて、支援制度の多様化と拡充も同時に検討すべきではないでしょうか。
留学生の学費についても、留学生のみを一律に異なる扱いとすることには慎重であるべきと考えます。留学生も本学で共に学び研究する重要な構成員です。仮に制度上の見直しを検討する場合には、その必要性を十分に説明するとともに、学修・研究の機会に格差が生じないよう、支援策を含めて慎重に検討する必要を感じます。
③経済支援制度に関して、学士については、今回の免除制度の廃止に伴って、支援は手薄になったといわざるを得ません。京都大学での修士課程・博士課程の支援拡充についてはこの間進められていますが、支援すべき学生にとって十分な支えとなっているかについては継続的に確認し、支援制度を今後ますます充実させていくべきと思われます。
とりわけ、修士課程については研究継続と進路選択を支える支援を、博士課程については生活支援、研究費支援、TA・RA 制度、キャリア形成支援を含む総合的な支援を、それぞれの課程の性格に応じて検討する必要があると思います。
④授業料免除制度などの急激な制度変更は、学生・受験生にとって影響が大きく、あまり望ましくありません。加えて、決定プロセスにおいて、学生との対話の場や学生・社会の意見の聴取の機会の実現を、今後は考えていくべきではないかと思います。