Research projects

細胞分裂周期と核内倍加周期を制御する分子メカニズム

多細胞生物の体は様々な大きさの細胞によって構成される

 高等植物は地上部の茎の頂点(茎頂)と根の先端(根端)にメリステムと呼ばれる分裂組織を持ち、花や葉、根等の器官の形成や生長に必要な新しい細胞を生産、供給しています。こうしたメリステムでの細胞増殖は、遺伝情報を格納している染色体の複製と細胞分裂が交互に繰り返される、細胞分裂周期 (mitotic cell cycle) を経て行われます。多くの植物細胞は数回の細胞分裂を行った後、細胞分裂を経ないで染色体の複製だけが繰り返される核内倍加周期 (endoreduplication cycle / endocycle) を開始し、細胞内のDNA量 (核相 / ploidy) を増加させます。シロイヌナズナでは、通常は両親から一つずつ染色体を受け継いだ2Cである核相が、核内倍加により32C程度まで増大します。核相が増大すると、それに比例するように細胞が肥大成長します。この核内倍加の程度により、一つの期間には様々なサイズを持った細胞が混在することになります。個々の細胞はその役割に合わせて適切な大きさを獲得すると考えられており、正常な個体形成には、細胞分裂周期から核内倍加周期への移行が精密に制御されている必要があります。

 私たちは、植物細胞の核内倍加周期への移行を制御する遺伝子の探索や、それらの遺伝子がどのように機能しているかを研究しています。また、こうした細胞周期制御が細胞の発生、分化過程にどう関与するかを明らかにしようとしています。核内倍加周期への移行を抑制する因子の単離を目指した突然変異体スクリーニングを行い、新規突然変異体high ploidy (hpy)を単離しました。その中の一つであるhpy2は、タンパク質の翻訳後修飾を行うSUMO E3 ligaseをコードする遺伝子の機能に異常が生じていることを明らかとし、SUMOによる翻訳後修飾制御が細胞分化と核内倍加周期への移行の制御に必要であることを解明しました。


プレスリリース

細胞分裂の調節に必須の新しい「HPY2」遺伝子を発見 (理化学研究所)


CRISPR-Cas9による植物ゲノム編集

ゲノム編集と呼ばれる、特定の遺伝子を狙って破壊や書き換えを行う技術が注目を浴びています。その中でも、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)は2013年に確立されて以来、多くの生物種で成功例が報告され、2020年にはノーベル化学賞の対象となりました。ゲノム編集によって、特定の遺伝子を破壊し生物個体や細胞にどのような影響が表れるのかといった研究を行うことができるようになってきました。

私たちは植物のペプチドホルモンの一種である「CLEペプチド」を標的としてゲノム編集を行い、遺伝子破壊系統コレクションを確立しました。この遺伝子破壊系統コレクションを用いた研究から、CLEペプチドの生理活性を探る研究を行い、驚くほどに多様な生理現象に関わっていることを発見しました。

さらに、このゲノム編集技術を活用して機能未知遺伝子の遺伝子破壊系統を作出し、その隠された生理活性を解明する研究を行っています。


プレスリリース

植物の重要な機能を担う「ペプチドホルモン」の 解明に役立つ遺伝研究材料コレクションを作成

CRISPR/Cas9によって作り出したシロイヌナズナ突然変異体

新規低分子化合物の探索と除草剤開発の研究

除草剤を含む様々な農薬は近代農業において重要な役割を果たしてきました。これまでに多くの除草剤が開発されて農作物の生産性向上に貢献してきましたが、除草剤耐性雑草が出現するとこれを防除するための新たな除草剤が必要になるため、常に新たな候補化合物の探索が行われています。

私たちは谷時雄教授、澤進一郎教授、檜垣匠准教授(当時)、石川勇人教授(現所属・千葉大学大学院薬学研究院)らとの共同研究により、土壌に含まれる放線菌の培養上清から新規N-アルコキシピロール化合物であるクマモナミドを単離することに成功しました。さらに類縁化合物であるKANDが強力な殺草性を持ち、植物細胞に必須な微小管を壊して細胞分裂を阻害することを解明しました。クマモナミドやKANDの作用は既知の除草剤とは大きく異なることから、新たな除草剤開発につながる有用な化合物であると結論付けました。



プレスリリース

新たな除草剤候補化合物クマモナミドを発見

クマモナミドの構造式と植物への成長阻害効果