近年、地方部を中心に少子高齢化・都市部への転出による人口減少が進み、地域の活力やまちの機能の衰退に繋がっている事例が多く発生しています。この問題に対するわかりやすい解決策は、「移住により転入人口が増えること」ですが、人々が移住に踏み切ることは容易ではなく、また、地域のキャパシティを超えた人口流入は、生活環境の悪化や地域に既に存在しているコミュニティとの摩擦などの様々な問題を引き起こしかねません。一方で、個人が複数の多様なコミュニティに属することがごく当然である時代になってきたことで、『関係人口』という人々が着目されるようになってきました。これは、これまでの観光や移住とは違う切り口から人々と地域をつなぎ、地域外の人でも地域の活力形成を担うことができる考え方です。
岐阜県飛騨市はその様な関係人口を増やし、関係を深める様々な取り組みを通して、地域の活力増進や、地域課題の解決に先進的に取り組んでいる自治体です。その一環として、当研究室教員の関口が、自治体・企業・研究機関が連携する未来のコミュニティ研究室in飛騨という組織に所属しています。そこでは、地域の人々や関係人口の方々にフォーカスして、「関係人口となり関係が深まるプロセス」や「人と地域の居心地のいい関係性」、「まちの魅力の可視化」について研究・実証を行っています。 本研究室では、このうち「まちの魅力の可視化」に関する研究プロジェクトを主導しています。これまでに、地域住民や関係人口の方々による、まち歩きを通した「地域らしさ」の発掘や、それらを将来につないでいくための方策として「地域らしさカルタ」づくりの企画・運営に取り組んでいます。まちあるきイベントを通して地域内外の方々が発見してくれた地域らしさに繋がるモノ・コトの特徴や、それら各要素相互の関係性について研究を進めています。これまでのイベントで得られた地域資源の写真や作られたカルタはこちら(飛騨スタグラム、山口大学杉野先生と作成)で見ることができます。
【関連の成果】
卒業・修士研究
・田路 達也:飛騨古川地域における地域らしさの構成要素の抽出とその形成プロセス -まちあるきイベントに基づく事例研究- ※日本建築学会 優秀卒業論文賞、地域活性学会 優秀卒業論文賞
学会論文・発表
・関口達也, 田路達也, 杉野弘明, 上田昌子(2023)「まち歩きイベントを通した「地域らしさ」の構成要素の抽出とその特徴分析 - イベントが参加者にもたらす効果の検証を交えて-」, 観光情報学会第24回研究発表会講演論文集, pp.18-21
・杉野弘明, 関口達也, 田路達也, 上田昌子(2023)「 「地域らしい」色を探る:非階層クラスタリング手法を用いた色と画像の分析から」, 観光情報学会第24回研究発表会講演論文集, pp.22-25
・田路達也, 関口達也, 杉野弘明, 上田昌子(2023)「フィールド調査アプリを活用した「地域らしさ」の構成要素の発掘とその特徴分析 -飛騨古川地域でのまちあるきイベントを事例として-」, 地理情報システム学会講演論文集, 32, P2-14
・田路達也, 関口達也(2024)「飛騨古川地域における地域らしさの構成要素の抽出とその形成プロセス 」, 地域活性学会第16回研究大会研究発表予稿集, pp.339-342
・立石直登, 関口達也(2025)「「地域らしさカルタ」作りにみる地域内外の参加者の視点や意識の比較 」, 地域活性学会第17回研究大会研究発表予稿集, pp. 55-58 ※地域活性学会 奨励賞
ニュータウンは、日本の高度経済成長期に大都市圏への急激な人口流入に対応するために、全国の大都市郊外部に多く計画・開発されました。新しく開発された地域には、豊かな住環境を享受できることもあり、当時のファミリー世代が多く一斉入居しました。そこから約40~50年が経過した近年では、複数の問題が散見されるようになってきています。例えば、開発当時に供給された建物の老朽化や、当時の入居者の子・孫世代が都市部等の他地域に居を構えることで、地域に親世代のみが多く残ってしまうことによる地域での一斉の高齢化などです。その様な状況では、買い物や通院といった日常の問題が発生しやすくなります。特に、地域住民の方々の買い物先、また日常の「居場所」にもなる商業施設は、地域の人口減少や施設の老朽化の中で、撤退という判断を余儀なくされる例も散見されます。そのため、多くのニュータウンでは、この様な高経年化による問題に対応するため、住民の人口構成の適正化や、既存住民の生活環境の差異整備などの「再生」に取り組んでいます。
これまでにも、上記のような背景を持つ、大都市近郊外のニュータウンや住宅団地における買い物等の日常生活の問題について、調査・研究を行ってきました。2024年度からは兵庫県のあるニュータウンにおいて、他大学・機関の先生方と調査研究を始めました。そこでは、開発初期から地域方々の生活を支えていた核店舗が建物の老朽化のために一定期間閉店をしてしまうことになりました。その時に、地域住民の生活はどう変わり、どのような困り事があるのか、アンケートやヒアリングによる調査を行い、地域の核施設がもたらす影響や問題の構造を明らかにして、ニュータウン再生の一助になることを目指しています。
空き家問題は、人口減少・少子高齢化が深刻になっている日本において、深刻な社会問題の一つになっています。問題としての程度は、対象とする地域の特性(都市規模・人口構造など)により様々に異なりますが、現状ではそこまで深刻な問題になっていない地域でも、今後の人口動向を踏まえると問題が深刻化していくことが予想され、事前に空き家対策のための計画策定を行い、問題の発生や進行を未然に防ぐ必要があります。
本研究では、京都府立大学地域貢献型特別研究(ACTR) の枠組みの中で、他学科・学部の研究室・教員や宇治市や長岡京市とのと協働により共同研究を進めています。
本研究室では、空き家の物件情報や位置情報に基づく周辺環境データ、空き家物件の所有者や地域住民へのアンケート調査の結果を組み合わせて、空き家が発生しやすい地域・物件の特性把握や、利活用に繋がりやすい物件の特性把握を試みる予定です。
関連卒業・修士研究
・森 崇太:京都府宇治市における空き家問題の発生・深刻化の要因に関する研究 -地域環境・建物・所有者に注目して-