公募シンポジウム

講演タイトルには暫定的なものが含まれます




S-B1: 生物や生態系全体の動態をとらえる網羅的実験の新展開

オーガナイザー:細田一史(大阪大学)

生物はその内部に無数の分子によるネットワークを持つ。また外部要因として無数の生物種や環境因子があり、生物はこの相互作用ネットワークの中で絶えず変化しながら生きている。例えば、ある森林においてある昆虫が森林群集全体に影響を与えているとき、群集全体もその昆虫の表現型や個体群動態に影響を与えている、というケースはよくあるだろう。このとき、この複雑なネットワークでは各部分と全体が完全には切り分けられない。これまでの研究では、ある局所部分に注目することにより系の理解を進めることに成功してきたが、今後さらなる理解へと発展させるには、系全体の動態を網羅的に捉え、局所部分と全体の動態の関係性を知ることが不可欠だろう。しかし、生体内のプロセスを考慮しない単純な2種の捕食被食系などとは異なり、多くのモノが変化するより現実的な系では、これまでのような理論研究でその動態を捉えることは非常に難しい。なぜなら、計算機上で動態を再現しようにも、少ない仮定では数学的に可能な系の数は天文学的数字となる上に、結局どれが現実の系を適切に表しているかの答えは得られないからである。この問題の解決策として、まず、現実の系を網羅的に捉えた後に、その系の特徴を浮き彫りにするという戦略がある。系全体の挙動を網羅的に捉える実験研究が盛んになることで、各生物や生態系がなぜ、どのような相違点や共通点を持っているのかを構造から原理的に説明する理論の構築につながるだろう。十年前には現実の系を網羅的に捉えることは技術的に困難だったが、今は可能になってきている。本シンポジウムでは、理論と容易につながる四つの実験研究例をもとに、現状でどのような技術を用いて生物や生態系の動態を網羅的に捉えられているのかをまとめる。四つの研究は、1~2種の少数種系において生体内分子レベルや時空間的動態まで捉える研究が二つ、多種の群集動態を網羅的に捉える研究が二つで構成される。またこれら少数種および多種を扱う研究それぞれで、より現実的であり自然に近い実験系と、自然とは異なる人工系を大規模に構築する実験系での研究が一つずつ含まれる。いずれの研究も技術を駆使して系全体の動態を網羅的に捉える研究であり、その技術や知見は他の系にも応用可能である。これらの研究を基に、今後どのような研究を進めると生物や生態系の新しい理解につながるのかを考える機会にしたい。


1.1000個以上の大規模人工生態系実験による個体群動態の網羅的解析

細田一史(大阪大学)

2.網羅的モニタリングと時系列解析に基づいた野外生態系の動態制御

潮 雅之(京都大学・JST)

3.大腸菌の大規模実験室進化とオミクス解析による適応進化動態の解析

堀之内貴明(理化学研究所)

4.植物-病原細菌相互作用の時空間的動態

別役重之(筑波大学・JST)

S-B2: Hybridization revisited: toward the integration of ecological and evolutionary perspectives

オーガナイザー:京極大助・野村康之(龍谷大学)

Hybridization has a broad range of consequences for both ecological and evolutionary processes. Hybridization can genetically homogenize incipient species, which hinders lineage divergence and speciation. Yet, the fitness cost of hybridization at individual level can select for signal divergence. Furthermore, introgression can increase genetic variance for subsequent adaptation and/or diversification. Hybridization can thus play substantial, conflicting roles in adaptation and speciation. Meanwhile, maladaptive hybridization represents reproductive resources (e.g. gametes) invested into matings that may not contribute to recruitment. Hybridization thus also has demographic consequences, hindering species coexistence. Each of these effects of hybridization is well appreciated, but they—particularly ecological and evolutionary ones—have been largely studied in isolation from each other. In reality, ecological and evolutionary effects of hybridization can interact with each other. Integrating the ecological and evolutionary perspectives of hybridization would thus provide additional insights. In this symposium, we invite four speakers to provide case studies of hybridizing systems. Starting from the case studies, we would like to discuss the future directions to develop a unified conceptual framework to understand the ecological and evolutionary significance of hybridization.

1.イントロダクション

京極大助(龍谷大学)

2.雑種形成により生じた新たな形質とそれが集団構造へもたらす影響

野村康之(龍谷大学)

3.非対称な交雑とそれに引き続くF1雑種不稔を介した種の置き換わり

中野繭(信州大学)

4.適応的なオスの繁殖形質が非対称的な遺伝子浸透を促す?雑種の繁殖成功度とその規定要因

福井翔(北海道区水産研究所)

5.F1雑種の表現型多様性は親種よりも小さい:オス性的形質でのメタ解析

渥美圭佑(北海道大学)

S-B3:画像ベースの生態学―深層学習による技術発展の定量的活用をめざして―

渡部俊太郎(京都大学)

生物の分布や個体数の把握は生態学や環境科学、自然資源管理などにおける最も基礎的な作業の一つである。こうした作業はこれまで、専門家による目視と手作業によって行われてきた。目視と手作業に基づく情報取得の課題の一つとして、比較的広い範囲を高い時空間解像度で調査することが難しくなることがあげられる。こうした課題を克服するため、画像情報から生物の種や機能群などをコンピューターのアルゴリスムで自動識別することが古くから試みられてきた。しかし、生態学や環境科学の分野では人工衛星やカメラトラップ、ドローンなど様々な手法で得られる画像の質・量が向上し続けてきた一方で、画像分類・識別の技術の開発と応用は立ち遅れの状況にあった。近年、人工知能技術の一種である深層学習の技術が実用化されたことに伴い、こうした状況が改善され、大量の画像情報を高い精度で画像分類・識別することができるようになりつつある。さらに近年ではこうした技術をさらに発展させ、形態や行動の情報取得や分布や個体数の推定に繋げる道も開けつつある。画像データは今後、時空間的に解像度の高い生物多様性のモニタリングを実現させるための重要な情報源となるかもしれない。この集会では、画像データを生態学などのマクロな生物学にどのように応用するのかについて、とくに画像データの定量的データとしての活用という点にフォーカスしながら考えたい。演者の方々には①画像定量と深層学習によって学習された内容の解釈 ②リモートセンシングへの応用 ③市民科学との融合 の視点で話題を提供していただく。増加する画像データからどのようにすれば生態学的に有用な情報を抽出できるのか、さらに今後どのような研究展開が期待できるか議論したい。


1.導入–深層学習の技術的背景と生態学分野における応用事例–

渡部俊太郎(京都大学)

2.深層学習の利活用による植物表現型定量および特徴量解析

戸田陽介(名古屋大学)

3.深層学習とドローンによる新たな森林リモートセンシング技術の可能性

大西信徳(京都大学)

4.深層学習による市民が撮影したハナバチの写真の種同定

大野ゆかり(東北大学)


S-B4:外国で多くを学び、研究を楽しむために:「日本vs外国」なる二値比較を越えて

オーガナイザー:入谷亮介(理化学研究所)

科学の知見に国境はない。ゆえに、研究者のキャリアにおいて、国外へ出て見識を広めること(インプット)、そして発表や議論・交流・共同研究を行なうこと(アウトプット)は、科学的営みにおいて必須である。渡航の、キャリアステージにおける段階(学部/修士/博士/それ以降)や期間・目的(学会発表/短期滞在/居住を含む長期滞在)は、研究者や分野ごとに多様である。どの国への渡航であっても、精神・経済・言語・文化といった要素が、障壁として立ちはだかる。そのハードルを少しでも低くし、若手研究者の国外で研究活動を積極的に促すためには、過去にそうした経験をもつ研究者からの、フィードバックが非常に有益である。また、それを通じて国外の「常識」を共有することで、日本のアカデミアにおける問題点・秀逸な点の客観的把握につながる。こうした見識の共有は最終的に、アカデミアを構成する個体群レベルで、社会に寄与し、アカデミアというシステムの長期的維持にもつなげられるであろう。本シンポジウムでは、多様なステージで国外滞在経験をもつ研究者による講演を通じて、国内・国外の実際や“常識”の違いを、様々な視点から提供・考察する。特に、国際学会での雰囲気、ポスドク/PhDポジションの獲得、グラントの獲得、国内・国外ジョブへの応募、共同研究のありかた、といった実務的な側面を、ハイライトする。本シンポジウムを通じて、多くの方に、ひとりひとりの個人の経験を個体群レベルでの見識として認識・参照してもらいたい。ひいては、budding ecologistsたちが国外へ渡航することの意義・楽しさ・tipsが伝わり、多くの研究者の積極的な渡航を促すことにつなげることが、本企画集会のねらいである。

1.海外での調査研究とそのフィードバック

黒川紘子(森林総合研究所)

2.アメリカの研究環境と就職活動

照井慧(University of North Carolina)

3.海外の大学院に行く- 分散とそのコスト&ベネフィット

三村真紀子(岡山大学)

4.ネットワークよりフットワーク:国内からスタートする国際的経験

入谷亮介(理化学研究所)