松原貴子先生(第26回日本ペインリハビリテーション学会学術大会大会長)のペインリハビリテーションについて尋ねてみました。
-ここから少し私たちの臨床での悩みを相談させてください。
松原先生が患者さんと触れ合うと,あっという間に家族の方も含めて患者さんとの関係性を作り上げていくのをよく目にします。そういった場面を見ると,痛みのリハビリテーションはアートの部分がすごく重要で,標準化はしきれないように感じるのですが,松原先生はどのようにお考えですか?
松原:患者との関わり方については,言語化して伝えることが難しいですよね。患者との関わり方の知識はあっても,それが実践できないことも多い。そのコツは何ですか?実際はどのように行うのですか?という具体的な方法論は教科書にも書かれていませんし,図にしても伝わりません。
これはあくまでも私のスタイルなので,皆さんがそのスタイルを真似する必要はないんです。ただ,少しでも参考にしてもらえるのであれば,私は医療コミュニケーションの考え方を大切にしています。この医療コミュニケーションとその重要性については,第26回学術大会でもご講演いただく認知行動療法のスペシャリスト,堀越勝先生(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)に教えていただきました。
慢性疼痛患者は自身の痛みを言語化したり表現するのが難しいことから,痛みそのものに加えて,誰にも理解してもらえないことと二重に苦しんでいる方が多いです。ですので,痛みとその苦しみ・辛さを表現しやすいようにこちらからヒントを出しながら,悶々としていた感情を言葉にしてもらうんです。痛みの言葉を紡ぐ作業を手伝いながら,表れた言葉の意味を医療者が受け止め理解する。そうすると,「痛みを分かってもらえてすっきりしました」「ずっと痛かったのにすごく楽になった・安心した」とおっしゃって,流涙・ 号泣されたのちに,スッキリ笑顔で帰っていかれる方が多いです。患者の痛みやおかれている環境がどのようなものなのかを医療者が理解しようとすることが患者の安心感につながる,つまり“Reassurance”の重要な概念であると考えています。痛みを言語化してもらって,一緒に理解していく作業が疼痛医療の第一歩!そのための手段が医療コミュニケーションだと思います。運動療法や徒手療法,物理療法などはその次にくるもので,まずはコミュニケーションが成立しないと各治療法の効果は発揮されないと思います。
私が普段話す大阪弁(中河内弁)も,私にとってのコミュニケーションツールのひとつですが,人それぞれコミュニケーションツールがあると思います。それが方言の方もいれば,声が大きいという方もいる。私がすごく憧れる,ゆっくり物静かな語りが得意な人もいると思います。すべてに共通して大切なことは,堀越先生もおっしゃっている“相手の心の扉をノック”するということです。ノックして,どの程度まで扉を開けていいかを探りながら,入ってきてほしくないと感じる患者にはあえて遠く(扉の外)から話しかけるようにしています。
-少し話は変わりますが,松原先生が普段の臨床で医師や看護師,多職種の医療者と話されているとき,自信をもって話されている印象を受けるのですが,どのようなことを意識されていますか?
松原:自信じゃないなぁ…信念かな。対等に議論しているのがそう見えるのかな(笑)。これは,短期研修で行った,シドニー大学ペインセンター(Royal North Shore Hospital, Pain Management Center)の経験が活きています。シドニー大学では,疼痛診療に携わる多職種チームのメンバー(医療者だけでなく,教育・社会的支援スタッフを含む)それぞれの専門性を活かして,対等な立場でカンファレンスをして診断や治療方針を決めていきます。もちろん知識量や経験の差はありますが,それによる順位付けはなされていませんでした。経験が浅い者の意見も尊重されます。私にも意見が求められ,出された意見をもとに議論した結果,私の評価や診断,治療方針が採用されることもありました。その時に,自分の考えをきちんと信念をもって伝えることの重要性と重大さを痛感し,今もそれを続けているってことです。
対等なコミュニケーション,これは患者との関わりでも同様です。相手が高齢者でも小学生でも,相手を尊重し,対等な立場で接することを心がけています。これは自分が臨床実習生であった時の自分への誓いなんです(^^;
第3弾は,後輩インタビュアーの“ペインリハ悩み相談室”の続編です。実臨床のコツやヒントが続々と。こうご期待!