松原貴子先生(第26回日本ペインリハビリテーション学会学術大会大会長)のペインリハビリテーションについて尋ねてみました。(続編)
-先生の臨床を見ていると,認知行動療法を応用しながら関わる方と,いわゆる一般的なリハビリテーションで関わる方がいらっしゃいますが,それはどのように区別されていますか?
松原:やはり,まずはコミュニケーション!患者自身が心の扉を開けてくれていたら良いのですが,扉を開けたくない人に,こちらが良かれと思った治療法を押し付けても,それは逆効果です。
はじめに,この人(患者)は何が辛いのか,どうなりたいかをまず言語化してもらうプロセスとしてコミュニケーションをはかり,具体的な目標や夢が聞けたら,それに向けてのリハビリテーションプログラムを一緒に計画します。“Shared decision-making(共同意思決定)”ですね。その中で,痛みを整理していく過程を手伝うのが良いのか(認知療法),不適切な行動やライフスタイルも並行して修正した方がいいのか(認知行動療法),身体機能を評価して機能障害を改善させるような介入を導入できるのか(スタンダードなリハビリテーション),大きくこれらの三つに分けて評価・治療を検討しています。また,どのタイプであっても最後には共同意思決定によって介入方法を決めていくようにしています。もちろん,痛みを表現できない,つまり患者自身が自分の痛みを整理できていない場合,まずは一緒に整理していく作業をします。整理できてない患者さんに無理やり「この運動をやってみましょう」「これぐらい大丈夫です」と運動指導をしてもうまくいきません。それはインフォームドコンセント,特に同意が得られていないわけですから。
-運動指導をしてもなかなか実施できない患者に対してはどのような介入・指導を行っていますか?
松原:運動してくれない患者さん,困りますよねぇ…そのような場合は,“運動療法という薬を処方します”と説明します。その薬を飲んでくれない,つまり運動してくれなかったら,それが有効なのか無効なのかわからないので治療効果の判定ができないと伝えています。もしも,それをお互いに共同意思決定したのであれば,「(それでは○○さんが考えたプログラムを)がんばってやってみましょう!」と伝えます。また,決定したプログラムは,必ず実際に実用性を確認するようにしています。「本当に効くんですか?」「できるかどうかわかりません」のように不安や効力感の低下があれば,効果は期待できません。例えば,ウォーキングをやると決めたなら,一緒に院内を歩き歩容のチェックや課題歩行の提案を行ったうえで,痛みやバイタルサイン,歩行量などを確認します。痛くても休憩しながら動けるのであれば,その負荷量の範囲内でホームエクササイズとして取り組んでいただきます。このように,“痛みがあってもできる活動”を実際に確認する作業は非常に重要で,身体機能評価やパフォーマンス評価とともにとても大事だと考えています。
-運動に対して不安や恐怖心が非常に強い患者もいらっしゃいますよね?
松原:そのような場合,「運動」にこだわる必要はないと考えていて,「身体活動(生活活動)」を促すようにしています。1日に行う生活活動を決め,1週間や1か月でどの程度活動できたのかを行動日誌に記録してもらいます。まったく活動できない日もありますが,できている日もあることを指摘し,活動性を整理していきます。運動への抵抗が強い人も生活活動はしないと生活できませんから,それをポイント制のようにしながら活動を促しています。15分のウォーキングよりも,自分で食事の支度や家事をすることの方が大事ですからね。認知行動療法で行動を修正する場合も,やはり生活活動に着目することが多いです。
逆に,もうすでに頑張っていて活動が過剰な患者もたまにいますよね。ただ,運動のやりすぎを止める指導はすごく難しいんです。「体力落ちたらどうしてくれるの」と言われることもありますので,頻度を増やすことでトータルの運動量を担保して,1回の負荷量を減らすような工夫をします。FITTの法則(運動の頻度・強度・時間・種類)の中でも,やはり頻度は重要で,ペ-シングの管理はすごく丁寧に行います。
また,運動を継続してもらうには,その人の目標に繋がる運動プログラムを計画します。その方がモチベーションや運動アドヒアランスの向上にもつながるので。また,その運動の目的と意味を患者さんが理解できていないと,運動は有効な薬になりません。そのため,運動プログラムの効能を十分に理解できるかどうかは重要なポイントです。もし理解できないのであれば,丁寧にプログラム表を書いてあげることも必要です。薬に処方箋があるのと同じです。運動プログラムを口頭で伝えるだけではなく,どのような方法で,どの程度の負荷を,どのくらいの頻度で行うのか明記してあげることが患者さんの安心にもつながるのではないでしょうか。
ペインリハビリテーションのコツやヒントをお聞きすることができました。ですが!まだまだお聞きしたいことが山ほど... 残る疑問と皆様のお悩みも,学術大会でぶつけましょう!
第26回日本ペインリハビリテーション学会学術大会は,2022年6月11日(土),12日(日)に神戸とオンラインでハイブリッド開催されます。皆様お誘いあわせのうえ,ぜひぜひご参加ください。