本ページは,2025年8月25日付で公開された「運用受託機関の議決権行使に関する検証〜利害関係先とそれ以外の議決権行使の違いの検証〜」と題された報告書に関する議論です(以下「GPIF・UTECON報告書(2025)」)。
背景として,岩田はGPIF側から「経営財務研究」誌に掲載されている岩田(2021)等の研究内容について詳細に教えてくださいという旨の依頼を受け,2024年3月7日に岩田(2021)を含む議決権行使関連の研究内容についてGPIF本社で紹介・議論を行っております。
GPIF・UTECON報告書(2025)は,問題意識・分析結果および示唆が岩田(2021)ときわめて類似しているにも関わらず,岩田(2021)の内容が全く引用・議論されていないばかりか,研究報告書としての議論も不十分な点が散見されます。
GPIFのウェブサイト(URL)https://www.gpif.go.jp/esg-stw/project_report/index.htmlには「これまでの取組みの効果について、高度な統計分析の知見を有するコンサルタントやアカデミア等と協働して統計的因果推論等の手法を用いた検証を、以下の4つのテーマで実施します。」と書かれており,
当然,報告書でもアカデミックなレポートとしての研究倫理に従うべきではないでしょうか?
問題意識・分析結果および示唆がきわめて類似している4年前に公刊済みの先行研究を引用・議論しなくて良いのでしょうか?
特に,社会科学の研究では一般的に,ある仮説を検証したいとき,理想的な分析方法が現実には利用できないことが多いです。そのため,可能な限り複数のアプローチを議論し,得られた結果の解釈についても「他の可能性がないか?」を詳細に議論する必要があります。
岩田(2021)では,先行研究の発見と限界,理想的な分析方法と岩田(2021)の分析方法の限界・問題点についても先行研究と対照しながら詳細に議論をしています。こういった議論を網羅的にせず,多くの実務家・公衆の目に触れる報告書で,単一のアプローチに基づく結果・解釈を報告することは適切でしょうか?
※参考のため,GPIF・UTECON報告書(2025)と岩田(2021)の比較ドキュメントを以下に公開しております。
また,両研究のリンク先は下記です。
GPIF・UTECON報告書(2025)」:(URL)https://www.gpif.go.jp/esg-stw/project_report/voting_rights.html
岩田(2021):(URL)https://jfa.main.jp/journal/paper/JJF00328.pdf