・基礎的な物理学全般(力学・電磁気学・熱力学・統計力学など)
・応用的な物理学全般(弾性体力学・流体力学など)
・物理数学全般(線形代数学・微分学・積分学・確率統計学・複素関数論・最小二乗法など)
・プログラミング言語(C言語,Fortran,Matlab,perlなどいずれか1つ以上とpython)
・英語のリスニング,英会話,ディベート能力
・健康管理能力
・自分にあっている研究室を見つける(次項で詳しく)
・(できたら学部生時代の長期休みのうちに1,2ヶ月の語学留学)
・(できたらインターンシップに参加してみる)
私が研究している地球物理学に分類される地震学を大学で研究するには,下記に記した大学レベルの物理学や数学の教養とプログラミングの基礎,語学力を大学の学部1,2,3年のうちに最低限身につけておく必要があります.地球科学的な教養の取得もモチベーションをあげる上で大事ですが,それらは研究室に配属後にも勉強を開始しても十分間に合います.
しかし,基礎的な物理学や数学の取得は1つ1つの積み上げが必要ですし,自分一人で勉強するのはなかなか大変です.よって,物理や数学の内容は,授業を受講し,演習クラスで演習問題を数多くこなしたほうが効率的に勉強できます.
自分の所属する学科に上記科目の開講がない場合は,理学部物理学科や工学部土木工学科等での開講科目を受講すると良いでしょう.他学科であっても授業を熱心に聞いてくれる学生がいたとしたら,授業担当の先生はきっと歓迎してくれるはずです.
私が高校生活を送っていた頃とは,特に高校数学のカリキュラムがだいぶ違い,高校での数学の勉強範囲が昔よりも狭くなっていることに十分注意してください.特に,旧帝大以外の地方大学から東京大学や京都大学大学院を目指す場合は,数学について注意が必要です.何故ならば,多くの旧帝大以上の大学教員は,自分の世代の高校数学の履修範囲を今の大学生も理解していると考えて,今の世代のカリキュラムにあまり配慮せず大学学部の専門授業や院試を行っているからです.最低限でも大学学部1,2,3年生のうちに,かつての世代では高校時代に誰もができた「分散・標準偏差とは何か説明できる」,「行列の固有値の計算ができる」くらい数学の素養を身につけておく必要はあります.他にも,最小二乗法についても勉強していることが望ましいです(行列・最小二乗法に関する独学におすすめな書籍はこちら).
プログラミング能力の取得は必須です.得意である方が有利ですが,拒否反応がないレベルにできればまずは大丈夫といえます.ループや配列などをつかったデータ処理の経験があれば,問題ないでしょう.ただし,地震データ解析分野においては2020年前後から機械学習技術の導入と急速な発展があり,機械学習の基礎言語の1つと言えるpythonの経験と知識は年々重要度が増してきています.
地震学者になりたいのであれば,英会話能力やディベート能力の取得は大事です.そのような能力は修士課程以降に取得しようと思ってもなかなか時間が取りにくいと言えますので,学部時代が最後のチャンスと言えます.夏・春休みに余裕があれば,語学留学などに行ってみてもいいかもしれません.
研究者になるのであれば,勝負所で必要なのは,知力ももちろんですが心身の健康です.研究者という仕事の実態は,「知のアスリート」です.自分の心身の状態が研究パフォーマンスに大きく影響を与える面があります.健康に気をつけてすごし,体力を維持することは研究をする上で非常に大事です.大学生からは親元から離れ,自分で自活する方が多いと思いますが,高校生までは家庭が管理してくれた食事管理に関して,自分自身できちんと管理できるようになりましょう.
あくまでも私の個人的感想にはなりますが,特に女性研究者では,様々な事柄に気を配ることで体力と気力維持をうまくおこなっている方が結果的に活躍しているように思います.また普段から栄養バランスよく3食しっかり食べて,睡眠をできるかぎりとり,正しい思考ができるように気をつけることをお勧めします.健康に過ごすためには,簡単なもので良いのでバランスの良い食事を自分で作れるようにしておくことは大事だと思います.
また,地震にかぎらず近年の研究者は世界との研究競争が仕事で,ストレスが大変溜まりやすい職業です.自分にとってストレスが溜まることは何かを知っておき,そのような環境に自分をおかない努力をしてもいいかもしれません.また,適宜ストレス解消ができる習慣を若いうちに身につけておくことも大事かもしれません.
・必ず研究室見学には出向き,先生や先輩方の雰囲気を把握し,自分にあっているかしらべておく.
・特にお手本となりそうな先輩(メンター)がいるかどうか,調べておく.
・不登校学生がどのくらいの頻度で出ているか,先輩などにも聞いて正確に把握する.
・自分と似たようなバックグラウンドを持つ学生が,その研究室で成功しているかどうか把握する.
・研究室HPから,指導教員となりうる先生の指導教官としての指導実績を調べておく.
・指導教員となりうる先生の定年退職の年齢が,自分の想定される在学期限と比べてどうか把握しておく.
・研究室全体での論文発表の数,研究資金の獲得の件数や金額,学振特別研究員の採択人数,卒業生の進路などの情報を,他の研究室と比較してどうであるか調べる.
・学生が第一著者の論文や学会発表がどれくらいあるか,把握しておく.
・行列(線形代数)・高次の微分積分学(高校3年レベル)・確率統計学など
・受験英語(とくに英作文能力)
・国語,コミュニケーション能力,プレゼンテーション能力
大学で地球物理学を勉強したいのであれば,大学で習うレベルの物理学の素養と数学が必要です.そうなると高校生時代は最低限でも理系に進学できる高校やクラスに所属し,物理学を受験科目とするのは必須で,数学も高校内での開講科目すべて履修する必要はあります.
特に近年私がきになるのは,高校時代の数学です.広島大学の理学研究科の教員をしていた時に思いましたが,大学で数学を勉強するには入学前の高校時代でしっかり数学を勉強することが必要です.それができているかどうかで,大学で地震学に取り組めるか否かが決まるように思います.
また,高校時代はいわゆる受験英語の英作文能力の取得も必須です.地震学者になりたいのであれば,英語で論文を書くのが日常です.また英語での討論能力は残念ながら多くの日本人はネイティブよりも不得意ですが,英作文の能力があれば後日電子メールなどで文章を書いて送信して反論することはできます.英会話能力を高校時代までに伸ばしておくと良いですが,おそらく受験を終えてからの隙間時間でも,これらの能力はおそらく伸ばすことができます.英作文の能力は,高校の先生や塾の先生による添削により能力は大幅に上がるように私は個人的な経験からいうとそう思いますが,大学で理系に進学するとそのような機会は相対的に激減するように思います.よって,高校時代に受験英語を通して伸ばしておくべき英語の能力は,おそらく英作文能力ではないかとおもいます.
日本語での論理的思考能力の取得,すなわち国語の能力の確保も大事です.日本で地震学者の仕事をして行くには,予算獲得をする必要がありますが,研究資金の申請書は日本語で文章を書きます.日本語の能力は大学理系だとなかなか鍛える機会がないのですが,その能力を鍛えることができるのは高校時代が最後かもしれません.地震学者として競争して生き残るには,自分の地震学の何かの専門で勝負して行くのも大事ですが,最終的に差がつくのは専門以外での能力かもしれません.
またコミュニケーション能力の向上も大事です.研究者として活躍したいのであれば,地震学分野では国内外の研究者との交流が,直接自分のスキルアップにつながることも多いです.いまは昔と異なり、研究するには大型研究プロジェクトを仲間とともに推進することが必須です.また,ワークライフバランスを保ちながら研究者生活を送るには教科書・ネットにも載ってない情報の収集能力も大事で,研究者以外の人とも上手な付き合いが必要です.それらの円滑な遂行には人脈形成と人間同士の信頼構築が鍵であり,コミュニケーション能力を磨くことが昔よりもますます大事と思います.
プレゼンテーション能力を十分持つことも今の時代非常に大事です.残念なことかもしれませんが,たとえ大学や研究機関の一流研究者であっても,自分と少し離れた分野の研究内容を評価するのは難しいものです.そのため,プレゼンテーションの良し悪しだけで研究内容を評価をしてしまう,ということも少なからずあるように思います(かといって見栄えを取り繕うだけで中身がないことは,よくありませんが).しかしながら,例えば研究職につくための公募面接には必ずと言ってもいいほどプレゼンテーションがつきもので,その内容である程度評価されるのも事実です.「理系の勉強だけやっていればいいや」などと甘く考えず,プレゼンテーション能力を早い段階から身につけておくことは大事です.