第13回基礎法学総合シンポジウム
「危機は法を破る」のか?
ー危機管理における人権制約と権力統制の問題 について
コロナ禍というパンデミックがいまだ終焉しないうちに、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、予測不可能な危機が現実に世界を震撼させ続けています。危機管理は「万が一の時のための備え」というどこか呑気な響きのする話を越えて、切迫した喫緊の課題となっています。
甚大なコロナ禍に悩む欧米諸国に対し、中国が強権的統制で当初はコロナ禍を抑え込んだことから、立憲民主国家より専制国家の方が、実効的な危機管理能力は高いという見方も一時広がりました。しかし、プーチン独裁体制のロシアがウクライナ侵攻により新たな世界的危機を創出し、中国がそれ容認するなど、専制国家の危険性がまた顕わになっています。
コロナ禍においても、新型コロナウィルスの危険性を最初に指摘した中国人医学者を弾圧して、そのパンデミック化の引き金を引いた中国政府の責任が重いだけでなく、効果の劣る自国製ワクチンに固執した中国で、オミクロン株によるコロナ禍の爆発的拡大が起こっています。
法の支配、人権保障、民主的熟議という立憲民主社会の基本原理は、国家権力が無責任に暴走して自国のみならず世界中を危機に引きずり込むのを抑止するために必要不可欠です。しかし、権力濫用を抑止する立憲民主体制において危機管理のために実施できる統制手段が、専制国家より制約されていることも事実です。立憲民主体制が、その基本原理を損なうことなく危機管理を実効的に遂行することは、いかにして可能か。
本シンポジウムでは、冒頭に、企画責任者が、上で述べた企画趣旨を展開した後、基礎法系の6学会から6名の報告者が登壇し、いま世界が直面しているこの問題を、コロナ禍に焦点を置いて考察します。
ご関心のある方々のご参加の歓迎いたします。
以上
2022年5月
第13回基礎法学総合シンポジウム開催責任者 井上達夫(日本法哲学会)