近畿大学 農学部 生物機能科学科

動物分子遺伝学研究室(Sado Lab)

動物分子遺伝学研究室では,遺伝子,あるいは染色体の機能や構造の制御,ゲノムの安定性や可塑性に重要な役割を果たしているエピジェネティクスという機構について研究しています.遺伝子操作を施したマウスや多能性幹細胞を用いて,遺伝学的手法,発生工学的手法,細胞生物学的手法,分子生物学的手法などを駆使した解析を行い,エピジェネティクスの分子機構を理解したいと考えています.

私たちの体を構成する細胞は約200種類あるといわれます.それらはすべて1個の受精卵に由来し,基本的に同じ遺伝情報を持っているのに,なぜこのように多種多様な細胞が生み出されるのでしょう?それは,受精に始まる一連の胚発生過程において,適切な細胞で必要な遺伝子だけが正しく働き,その状態が細胞分裂を経ても娘細胞へ安定に受け継がれていくからです.遺伝子発現のオン・オフを制御し,その状態を記憶し安定に維持するこのような仕組みをエピジェネティクス,あるいはエピジェネティック制御といいます.遺伝情報を担うDNAはヒストンと呼ばれるタンパク質とともに秩序正しく折りたたまれ,細胞核に収納されています.この核の中で遺伝子の機能を制御するのがエピジェネティック修飾と呼ばれるDNAメチル化ヒストンの化学修飾(アセチル化,メチル化,リン酸化など)です.そして,このエピジェネティック修飾の形成にはしばしばタンパク質をコードしない長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)が重要な役割を果たしていると考えられています.エピジェネティクスは,胚発生の他,体細胞クローンや人工多能性幹(iPS)細胞の作製に関わるリプログラミング,細胞のがん化や老化など様々な生命現象に深く関わっていて,その仕組みを分子レベルで理解することは大変意義のあることと言えます.私たちはエピジェネティクスを理解するためのモデルとして,哺乳類のメスに特有なX染色体不活性化というエピジェネティック制御機構の研究を行うとともに,マウス胚より樹立した様々な多能性幹細胞を用いて,未分化細胞が有する可塑性が分化とともに制限されていく仕組みについても研究を行っています.