2025年4月13日(日)に、きくたびプロジェクト みんなで創作編 報告会「風景と空想から《聴く演劇》をつくる時に起きていたこと」を開催しました。
2月9日(日)と3月16日(日)に行われた「風景と空想から《聴く演劇》をつくるワークショップ」で起きていたことと、ワークショップを開発する過程で起きていたことをプレゼン形式で報告。その後、プロジェクト全体を振り返っての座談会を行いました。最後は、新宿御苑編で創作した音声を、実際の場所で体験していただきました。
(文/大石将弘)
◆参加メンバー
《プロジェクトメンバー》
大石将弘
山本雅幸(青年団)
井戸本将義(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)
浦野盛光(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)
星 茉里
《ワークショップ参加者》
石田迪子さん
小嶋芳維さん
簡単に、きくたびプロジェクトのこれまでの活動について説明した後、今回のワークショップがどのようなものだったかをお話しました。
ワークショップは、以下の流れで進めました。
ワークショップで創作した音声を紹介し、どのようなプロセスを経て作品が生まれたのかを振り返りました。【有楽町編】WSの参加者である小嶋芳維(こじま かい)さんを交えてお話しました。
有楽町編の会場は国際ビル。1966年に建てられたビルで、帝国劇場がある帝劇ビルとつながっています。2025年3月末に閉館し建て替えが予定されています。
小嶋さんのグループは、使われなくなった「メールシュート」(ビルの各階に手紙の投入口を設け、1階で集荷できるようにした装置)を題材に選びました。
(国際ビル1階にある集荷ボックス。ここから真上の各階に今は使われていない投入口がある)
小嶋さんグループが創作した音声「拝啓」は、メールシュートの管状の空間に引っかかったままの2枚の手紙が話しているところから始まります。ビルの開館間もない時代から長年引っかかっている手紙は体中のあちこちが痛んでいる様子。いつになったらここから出られるのか、そこへ上から新しい手紙の声が聞こえてきます。新しい手紙によって間もなくこのビルが閉館することが知らされます。手紙たちは自分に書かれた内容を最後に読み上げることに…。
どうしてメールシュートを題材に選んだかについて小嶋さんからは、「手紙が持つわくわく感」、「重力を使って言葉(手紙)を落とすという機構が気になった」、「言葉にも重力があるんじゃないかと思った」、「帝国劇場という華やかな建物がある一方、下に手紙を出しに行く暇がないくらい仕事が忙しい人がいるコントラストが気になった」というお話がありました。
メールやインターネット上のやりとりが基本の現代において、ポストや手紙が持つ物語性を推進力に空想を広げていったそうです。創作の段階では、引っかかった手紙同士が人格を持って会話をしたら面白そうというアイデアに加えて、手紙の文面を想像してひとりずつ書いてみることに。約60年前に開館してから今までの間、いつ出された手紙なのか、誰宛の手紙なのか、そして内容は…? 時代によって切手代が違うことを調べたり、昔の手紙は年号が変わったことを知らないのでは?など空想が膨らみました。小嶋さんは、高度経済成長期の日本で上京して働きはじめた若者を想像して、故郷の家族にあてた手紙を書きました。
「ひとりで作っていたらもっと詩的な内容で終わっていたと思うけれど、みんなで話すことで掛け合いが起こる作品になった」と、複数人でひとつの作品をつくる面白さを語ってくれました。
【新宿御苑編】では雨の中の新宿御苑を散策して創作しました。
新宿御苑のシンボルのひとつであるユリノキには、木の根元に水たまりができていました。プロジェクトメンバーの山本雅幸さんのグループは、この水たまりから空想を広げた音声「ユリノキプール」を作りました。
(新宿御苑のシンボルのひとつ、ユリノキ)
(創作した音声「ユリノキプール」を聴くWS参加者たち。写真左手、木の根元に水たまりがある)
創作した音声「ユリノキプール」では、互いを「ゆーちゃん」「りーちゃん」と呼び合う小さな妖精が、水たまりで遊んでいます。クロールしたり飛び込みの練習をしたり、雨の日にしかできないプールにはしゃいでいます。そこへ遠くからお母さんの声が。ご飯ができたから早く帰って来なさいと言われてしぶしぶ帰る2人。そのとき聞こえてきた声の主は…?
山本さんから創作のプロセスを話していただきました。散策では、雨で互いの声が聞こえにくかったこともあり、全員で話しながら歩くことが難しかったそう。興味のある方へばらばらに行ってしまったり。ただ、それぞれが風景の中で気になる種を拾ってきてくれていたそうです。
何をつくるかがまとまらない中、メンバー共通の興味が植物にあったことから、とりあえずユリノキに行ってみることに。「水たまりがプールみたい」という発言があり、それを起点に創作が進み始めました。遊んでいるふたりの妖精が出てくることを決めてとりあえず即興で録音してみたら、一発でほぼ形ができたそうです(!)。山本さんも、そのクオリティに驚いていました。
音声を作ってくれたWS参加者のおふたりが報告会にもいらしていたので、少しお話を伺いました。
「他のチームメンバーが気になっていたのが感覚的なこと。例えばいつもと違う音がするとか。そういった感覚がユリノキの周りなら全部あるんじゃないと思っていました」
「1時間で歩いたのがこの距離ということは、すごくゆっくりしたスピードで歩いたんですねという話をしました。巨大な森の中の小動物みたいだなと。植物もバナナの葉がすごく大きかったり。自分が小さくなったみたいという話が出ていました。そのことを直接作品につなげようとしたわけではないけれど、結果的にはつながっていました」
話し合いで挙がったポイントを組み立てて作品にしたわけではなく、ユリノキの場所でふと生まれたアイデアから創作をしたら、振り返るとこれまで話していたことが全部入っていた事が、創作の不思議さと面白さを表しているようで、とても印象的でした。
今回の「みんなで創作編」は、メンバーでどんなワークショップにするかを話し合うところからはじまっています。報告会では、ワークショップの開発過程で起きていたことも振り返りました。
きっかけは、プロジェクトメンバーの浦野さん(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)が、大石が創作した音声について「どうやって作っているんですか?」と質問してくれたことでした。浦野さんがつくり方に興味を持ったことから、創作のプロセスを言語化し、ワークショッププログラムにしてみようと企画が立ち上がりました。
大石がプロジェクトの初期に、どうやってつくっているか?を言語化したものがこちらです。
観察
場所に通う/時間を過ごす
「気になること」を探る
調べてからまたみる
みんなで喋りながらみる
選択
多くの要素から何に焦点をあてるか選ぶ
構築
作品として組み立てる
最初の「観察」については比較的具体的な方法を挙げられたのですが、その後作品を形にしていく作業は場合によって様々で、言語化しようとしても漠然としていました。創作をする場所で時間をかけて過ごして、様々なやり方で「みる」。その中で「気になること」を見つける。そこからどうやって作品にしていくかが、ブラックボックスになっていました。
そこで助っ人として、ファシリテーターとして多くのワークショップを企画・開発・進行している俳優の山本さんをプロジェクトメンバーに迎えました。
山本さんとの活動日の初回は、信濃町駅から新宿御苑の近くまでをぶらぶらと散策。山本さんが、エスカレーターの裏側が気になり、その何もない空間で皆で立ち止まり、20分ほどただ喋っていました。
「地面のタイルの色が違うのはなぜだろう」「何かでこすった跡?」「扉から何かが出てくるのかな」「草がそこだけ生えているのは何故?」「金網の向こう側は入れるのかな」などなど。そこから、じゃあ「植物は何を思っているのだろう」とモノの立場に立って想像をしたり、そこにあるものが他の何かに見えたり(見立て)。ここで何が起きるのだろう?という妄想がかき立てられて、それが創作の種になるのではないかと話しました。
この日、山本さんから「妄想」というワードが出ました。フィクションを創作するためには、観察を経て、妄想や空想によるジャンプが必要だということが言語化されて共有されました。
気になるものは人それぞれ違うため、どんどん口にした方が良いこと。また、皆で時間をかけて喋ることで空想が積み重なり、想像力が遠くまで伸びていくことを感じたと山本さん。
この活動を経て、いよいよ次回は音声を創作してみることにしました。
新宿御苑での活動では、3~4時間ほどの散策を経て、閉園時間が迫る中「ひとり1つ音声をつくってみましょう!」と大石からメンバーに無茶ぶりのお願いが。浦野さんや星さんははじめての《聴く演劇》創作となりました。
浦野さんは、温室の植物を題材に音声を創作。浦野さんに、どうして(写真の)植物を選んだのか尋ねると、「葉っぱの形が面白くて、私には手に見えた。何かに見立てられるのはこれかなと思って選んだ」とのこと。
「手がたくさんあって、気持ち悪いなと思ったりもした。星さんと林さんが見える情報をくれました。温室の入口の近くにあること。人が多く通るところだが、あまり注目されていない感じ。そこで、植物の気持ちになってみようかなと思ったのだと思います。」
「葉っぱの手がいっぱい出てるのは、通る人に助けを求めてるんだけど、気持ちは届かない。けれど、助けを求め続けるというストーリーを考えて、いけそうな気がしました。即興で演じることには不安があったので、詩のような短い文章をメモに書いて。この時は、演じるよりも、詩を朗読する感覚に近かったです。創作の入口に立てたな。このまま膨らませていけば自分にも作品がつくれるなという感触がありました。」と話してくれました。
星さんは新宿御苑の芝生を題材に選びました。
「まずは、聴く人に何をしてほしいかなと考えました。芝生がふかふかで気持ちがいい時期だったので、芝生で寝てほしいと思い、芝生に寝転ばないとわからないような視点でつくりました」とのこと。
プロジェクトメンバーそれぞれが創作のプロセスを体験した上でワークショッププログラムを作成しました。メンバー間でミーティングを重ねて、テストプレイを行い、2月に有楽町編のワークショップを実施。生まれた音声はどれも面白いものでしたが、同時にやはり、空想を広げるところから創作へのステップでどのように進めればいいか分からず困ったというグループも。
そこで3月の新宿御苑編に備えて、困ったとき用の手引きを作成。創作で立ち止まったときに具体的な一歩を踏み出すとっかかりになればと思い参加者の皆さんにお渡ししました。
【新宿御苑編】のワークショップに参加してくれた俳優の石田迪子(いしだ みちこ)さんを交えて今回のプロジェクト全体を振り返りました。
まずは石田さんに、ワークショップに参加しての感想を伺いました。
石田さん「もともと聴くこと自体にすごく興味があったので、興味ど真ん中の企画だなと思って参加しました。(《聴く演劇》と名付けられているが)何が演劇なんだろうって思った時に、その場でみんなで共有しながら体験すること、今この場でしか体験できない何かがあるんだなというのが面白かったです」
座談会形式のトークでは、「創作」プロセスで起きていることと、このプロジェクトの「演劇的」な部分について焦点をあてて話しました。
大石「ワークショップの中で、創作がスムーズにいったグループもあれば、何から手をつけたらいいかわからなくて難しいというグループもあった。石田さん星さんのグループは、これでいけるみたいなタイミングがありました?」
石田「私のグループでは芝生に着目していました。わたしたち人間視点だと芝生を”歩く”、”踏む”じゃないですか。でも芝生視点に立つと”踏まれる”だよねという話が出て。でもそこからどう創作を進めたらいいかわからず悩む時間があったのですが、”踏まれる”って『マッサージされてる』のかもという言葉が出た時に、広がっていきました」
星「『いいマッサージ』というタイトルの音声をつくりました。芝生にもいろんな顔があったり、砂利のところがあったりして。砂利の音とかも使いたいって」
石田「芝生から派生して、砂利とか土とか、それぞれはどんな感じなんだろうって。4人のグループだったんですけど、砂利担当、土担当、芝生担当と決めて。録音するときも、じゃあわたしから行きますとか、次は~とマイクを手渡していきながら」
星「台本は書かずに、時間がなくて」
石田「もうアドリブでしたね」
大石「創作のブラックボックスをできるだけ言語化、プロセス化しようとして今回やってみたけど、解き明かせない部分があって。参加者の皆さんがなんとか毎回そのハードルを超えてくださるんですが、振り返るとなんで超えられたのか分からないみたいなことがありました」
山本「ワークショップにもうちょっと細かいステップを作った方がいいのかなという話もしたんですけど、でも作っちゃうと限定的になっちゃうということもあって。そこ(作品をつくる)には大きなジャンプがあると思うんですが、大きなジャンプをするための積み重ねはしてるんだろうなと思いましたね。散策をしているときから。僕は散策で話せていたら、今日は大丈夫かなって思うんです」
浦野「それがすごいですよね。僕なんか不安でしょうがない」
山本「僕がワークショップに慣れてるってのが大きいと思うんですけど。できないときってだいたい喋れないことが多くて」
大石「グループの中で思いついても口に出すハードルが高い」
山本「思ったことを共有し合って、それ面白いねとか私と全然違うんだねというのが話し合えてる段階で、よしこれはいけると思う」
大石「(今日は欠席のプロジェクトメンバーの)林さんが言ってたのが、話して空想を広げていく時間がすごく楽しいと。みんなが好き勝手に言って広がっていく。でも作るとなると、広がったものをまとめていくという作業なので難しい。話してるパートと創作パートでやってる作業が結構違うという」
山本「あまりそういう意識はなかったけど確かにそうなんだなって思った。でもそのバラバラにたくさん出たものを、なんとか集めて積み上げていくみたいなことが、作るってことなのかなと考えてたりしてました」
石田「ワークショップ当日の創作時間が短かったじゃないですか。それでテンパったんですけど、星さんや井戸本さんがアシストしてくださって、煮詰まったら、ちょっと現場に足を運んでみましょうとか。さりげなくアドバイスしてくださったのがすごく効いていたなと思います」
大石「時間の話が出ましたけれど、僕も創作の時間が足りなくて延長しちゃったんですけど。もっと長くてもいいんですかね?」
浦野「短いから、えいやあって作れちゃうってのもありますよね」
石田「やるっきゃないっていう覚悟が決まるっていう」
井戸本「結構即興に近い感じでつくったグループが多いので、これが時間がたっぷりあって台本をちゃんと書けたら、もっと『演じる』感じになるんだろうなと。即興性があったから『なりきる』感じになったのかなと思いました」
浦野「僕はプロジェクトの最初は台本を書くイメージを持っていたんですけど、ワークショップでやってみると時間も短いし即興になる。周りの人ととの関係性とか、この場はどういう場なんだろう、お客さんにどういう風に見てもらいたいんだろうとか、そういう設定がグループで共有されていたら即興でできちゃうんだっていう感覚があって、それがすごい面白かった。例えば目の見えない人が参加していたらーー今回残念ながら見えない人が参加していないんですけどーー台本をどうやって短時間で共有するかというのが心配だったけど、こういう感じならいけそうだなと思いました。あえて時間が短いことにもいいことはあるなと」
大石「演劇のワークショップでも、台本を書き始めると演じるまでの一歩が大きく重たくなりますね。自分のからだから素直に出てきた言葉の方が、軽やかにやれる感じはあります。早いし、やわらかく演じられるという印象があります」
山本「思いついたら、やってみるっていうね」
石田「ワークショップ当日に説明を受けた時に意外だったんです。作った音声を実際にその場所に行ってみんなでよーいスタートで聴いて一緒に体験するということが。ここにもしかしたら”演劇”とつくヒントがあるのかも」
山本「みんなで聴くのは面白かったですね。それぞれ同じ物語とか同じ音声を聴いてるんだけど、見えてるものは違うと思うんですよね。それはすごいもしかしたら演劇的なのかなと。舞台で同じものを観ているけど、違うものを受け取ったり感じたりしているみたいな」
大石「客席で舞台上の劇を見ている時は、みんな同じものを観ていると信じているじゃないですか。今回のワークショップは音声で、よーいスタートで再生してるけど多少のラグや、ずれてる人もいる。他の人が聞けてるかどうかわからない、実は違う音声を聴いてるかもしれない、とか思いながら周りを見てたんです。でも特に移動する音声は、だいたいみんなが同じタイミングで移動し始めるから、一緒のものを聴いてるっぽい!と感じる体験も面白かったです。共有できてることを確かめる時間みたいな。普段たくさん演劇に関わっているわけではない浦野さんとしてはどうですか?」
浦野「最初は、ものの気持ちになれば音声をつくれるのかなと思っていたんです。どの場所で聞いてもらいたいのかみたいなことを大石さんが意識していることがあまりわかってなくて。そこが、ラジオドラマとか、朗読CDと違うところなんだなと今回改めて感じて面白かったです。だんだんと、聴いてくれてる人が、今ここにはいないけど、いると思って、やるようになっていったような気がします」
井戸本「演劇的ってなんだろうって僕はまだよくわかってないんですけど。新宿御苑編が印象的だったのは、今日みたいな雨だったんですけど、さっきの『ユリノキプール』もそうですけど、その日雨だったからできた作品、その時じゃないと体験できないみたいなのって、演劇っぽい部分なのかなと思いました」
石田「創作する過程で、植物の気持ちになってみるとか妖精さんの気持ちになってみるとか、何かに思いをはせて想像してみる。自分ではない何かを想像してみる、それを共有してみる。そのプロセスも大枠で演劇というものに入るんじゃないかなと思います」
山本「想像してそのものになったりしますもんね」
石田「新宿御苑にいったときに、いい風景だなーって自然に囲まれて満足しちゃって(笑)。そしたら井戸本さんが足の感触が違いますねとか、他の参加者の方も雑談の中で、いろんな視点からの言葉をくださって空想が広がっていった。自分ひとりだと風景に満足して終わっていたところを、他の参加者の方の価値観や視点で、空想につなげてくださったなと思いました。それを共有していくプロセスが演劇的でわくわくしました」
山本「それを経て、風景をまたみると違う風に見えるのがすごい面白い。聴いた前後で、自分の感覚や見え方が変わっていく。演劇だなと思いますね。自分が経験したことのようにインプットされて、不思議だなと思います。絵が思い浮かぶというか」
石田「聴くだけでそれが想像されるって人の想像力ってすごいなと思いました」
星「聴くことで見えていない誰かがしゃべりかけてくるじゃないですか。それを探すところもだし、キャラクターが浮かび上がってくるところも演劇的。探したり想像したり。聴く人がドラマをつくる。浮かび上がっていくものが演劇かなと。その場所で聴いて、想像で上演されるものという感じがします」
大石「きくたびプロジェクトは最初、美術館でやったんですね。林さんが美術館の音声ガイドとは違うものをつくりたいと仰っていて。美術館の音声ガイドは基本的には客観的だし、解説、事実を教えてくれるものなんだけれど、もっと主観的なもの。それこそ空想はとても主観的なものですよね。作っていく中で、主観なんだけど、それは僕個人の主観じゃないことが大事だと気付きました。いろんな人の主観を重ねることが大事。美術館の中で気になる絵画があって何かつくりたいと思っていたけど、どう創作につなげるか悩んでいたんですね。その時、ひとりじゃなくて皆でその絵を見ながら、私にはこう見える、こう感じるというお喋りをたくさんしました。自分の知らない主観を聞いて、いろんな人から出てきた主観的な言葉を重ねることで作れる感じがありました。複数の主観を重ねることが、この《聴く演劇》をつくる際のキーだと思っています。もうひとつ。音声を体験する人には、見えない人もいる。見えない人が音声をその場所で聴いた時にどういう体験になるかは僕には想像しても絶対に想像しきれないから、やっぱり自分の主観だけでつくらないのが大事だったんですよね。聴く人がどう感じるかも想像してつくる。観客の視点を、できるだけ想像したいと思っています」
トークの後に参加者の皆さんから質問をお受けし、その後新宿御苑へ。【新宿御苑編】で生まれた4つの音声を場所で聴いて体験しました。
きくたびプロジェクト みんなで創作編 報告会
「風景と空想から『聴く演劇』をつくる時に起きていたこと」
◆日時
4月13日(日)14:00〜16:30
◆場所
新宿区施設、新宿御苑
◆参加メンバー
《プロジェクトメンバー》
大石将弘
山本雅幸(青年団)
井戸本将義(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)
浦野盛光(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)
星 茉里
《ワークショップ参加者》
石田迪子さん
小嶋芳維さん
「ゆっくりしてね」
何者かが自分の中で雨宿りをしたらと語り掛けてくるが、すぐさま別の建物も同じように誘ってくる。ふたりが言い争いをしている間に、新たな建物が表れて、雨宿りを誘ってくる。
「ユリノキプール」
小さな妖精が、雨の日にしかできないプールで遊んでいる。クロールをしたり飛び込みをしたり。そこへ遠くからお母さんの声が。しぶしぶ帰るふたりをユリノキが温かく見守っている。
「いいマッサージ」
芝生を踏みながら歩くと、マッサージをされている芝生が気持ち良さそう。近くの土や砂利にも促されて、地面を踏みしめたりスキップしたり。雨の地面の感触を楽しみながら歩く。
「わたしのなまえ」
温室を誰かの声と一緒に入口から奥へと植物を楽しみながら歩いていく。名札がついていない植物が気にとまり、その植物としばしのお喋りを楽しむ。植物は自分の名前がわからないことをあまり気にしていない様子。
「探してくれ」
声の主が「あいつら」を一緒に探してほしいと語り掛けてくる。声に導かれてビルのあちこちを歩いて辿り着いた場所には、もう「あいつら」が戻ってきていて・・・
「ご自由にどうぞ」
どこかから不思議な音が響き、続いて声が聞こえてくる。「わたしたち美味しそうでしょ?」様々な声が自分のアピールポイントを紹介してくれる。最後に彼らに触れると・・・?
「拝啓」
メールシュートに引っかかった2枚の手紙が話している。いつになったらここから出られるのか。そこへ上から新しい手紙の声が聞こえてきて彼らはビルの閉館を知る。ふたりは最後に自分の手紙の内容をもう一度読み上げる。
「同じ星座を見ていた」
エレベーターがビルの思い出や好きな風景を聞かせてくれる。12兄弟のエレベーターのうち6人は近くにいるが会ったことがないらしい。一番下の弟に会いに行くと、そこで語られる話は兄の話とまるで同じ。別の場所にいるふたりは同じ景色を見ていた。