ニュートリノは電気的に中性の素粒子で、3種類(3世代)あると思われています。非常に弱く通常の物質(我々)と結合していて、あまり衝突しません。素粒子標準模型の枠内ではニュートリノは質量を持たないのでニュートリノの世代間での混合がなく、観測されているニュートリノの世代間の遷移の説明が難しくなります。しかしその質量は非常に小さく、電子と比べても10億分の1程度に小さい可能性があります。それゆえニュートリノの質量の起源は、他の荷電している素粒子と異なり、ヒッグス場のみによる説明が難しい可能性があります。またニュートリノは、宇宙全体に存在していると思われています。それゆえ、初期宇宙でのビッグバンによる軽元素合成や、超新星爆発に関係するなど宇宙でも大事な役割を果たします。言い換えるとニュートリノがないと我々は存在していません。
暗黒物質は電気的中性の物質で、通常の物質(我々)とは重力を通じて結合していますが、衝突をほとんどしないと思われています。その正体はまだ良く分かっていません。暗黒物質が存在すると、重力を通じて星の元となる物質を特定の領域に集めます。つまりこれがあると、銀河の集まりである宇宙の大規模構造を説明することができます。言い換えると星々の起源、その近辺で生活している我々の起源を、暗黒物質のおかげで説明することができます。
暗黒エネルギーは、今現在の宇宙が加速膨張して大きくなっていることを説明するのに必要です。このエネルギーの正体も良くわかっていません。重力は万有引力ですから、空間すら引き付けあって膨張は減速しやすいのですが、なぜか膨張を加速させているエネルギーが丁度良い具合にあります。そのエネルギーが大きすぎると、あっという間に膨張して宇宙の密度は疎になってしまいますが、そんなことは無いのは不思議です。
今の宇宙は非常に大きくて時間にしたがって膨張しています。逆に過去にさかのぼると、138億年前の宇宙はとても小さく、量子力学の効果がとても重要だった時代があったはずです。つまり、今の宇宙全体でも量子力学の効果が見えているはずです。その例が「宇宙背景輻射」とその温度ゆらぎで、つまり観測されている宇宙の大部分と言っても良いかもしれません。宇宙の起源の大部分は初期宇宙の加速膨張である「インフレーション」が担っていると思われています。つまり初期宇宙の暗黒エネルギーです。しかし、そのインフレーションを起こしているのが何者か?なぜインフレーションが起こったのか?つまりインフレーションの前時代を含む「宇宙の始まりは何か?」という問いには具体的に答えられていません。宇宙の広大なスケールでは重力が重要になってきますが、宇宙のすべてを理解しようとすると、重力の本質である量子重力の理解は避けて通れないと思われています。
実はそもそも「素粒子標準模型の起源」がわかっていません。標準模型は一見複雑なので、なぜそんなものが宇宙を記述しているのか不思議です。例えば、ゲージ対称性、世代、パラメータの謎(質量、フレーバー階層性やCP)、ヒッグスの性質など、その起源です。初期宇宙は超高温の可能性があって、スープのようにごちゃごちゃになっていたとすると、クォークやレプトンという区別、物質と力(ゲージ粒子)という区別はいつからあったのか不思議です。実際に物質が存在すると、それらの衝突から反物質が作られることがあります。しかし宇宙で観測されている範囲には物質ばかり存在し、反物質がないのも不思議です。重力はすべての粒子と普遍的に結合するので、標準模型の起源や、宇宙における物質の起源を探るためにも、量子重力が大事かもしれません。
これらを説明するために、素粒子標準模型で考えられていない物理を考える必要があります。その物理の例の1つが、量子重力を含む統一理論の候補と言われる「超弦理論」になります。これは素粒子ではなく、弦(ひも)などの広がった物体を基礎的な自由度とする理論です。つまり、広がった分の巻き付きなど、通常の素粒子の理論よりもたくさんの対称性や自由度(物質・エネルギー)を含みますので、暗黒物質・暗黒エネルギーの謎などを説明できる可能性があります。今のところの超弦理論は、(良くも悪くも)安直には得られない無数のアイデア(模型)を我々に提供します。
以上のように、超弦理論のアイデアで「素粒子標準模型を越える物理」を考えています。