研究

研究の興味

凝縮系理論: 強相関系

AMO(Atomic Molecular, and Optical) 物理: 冷却原子系、量子開放系、非エルミート系

量子多体物理/量子情報: 連続測定下のダイナミクス

キーワード

フェルミ超流動(超伝導)、朝永ラッティンジャー液体、SU(N)対称性、非平衡定常状態、観測誘起相転移、エンタングルメントエントロピー

手法:

場の理論、共形場理論、ベーテ仮説法、密度行列繰り込み群(及びその非エルミート系への拡張)、(時間依存)一般化ギブスアンサンブル、量子トラジェクトリー法

研究の詳細

非エルミート超伝導 

Phys. Rev. Lett. 123, 123601 (2019) (Highly Cited Paper in Web of Science), Phys. Rev. B 109, L060501 (2024), arXiv:2406.16482

近年の冷却原子系の実験的発展に動機を得て、我々はフェルミオンの非弾性散乱がもたらす散逸によって生じる、複素相互作用を持つ非エルミート BCS ハミルトニアンの解析を行いました。我々は超伝導理論の基盤をなすBCS理論を非エルミート系に世界で初めて拡張し、非エルミート系に特有の非従来型の相転移が起こることを発見しました。具体的には、強い散逸によって一度壊れた超伝導が復活し、これが非エルミート系特有の例外点に由来するものであることを明らかにしました。

     非エルミート超伝導の相図

相互作用(U1/t)と散逸(γ/t)の依存性を超伝導ギャップ方程式から求めた図

     超伝導の動的相転移 (Phys. Rev. Lett. 127, 055301 (2021))

我々は超伝導を形成するクーパ対の二体ロスがもたらす散逸によって引き起こされる、超伝導の集団励起と非平衡相転移の新しいメカニズムを理論的に予測しました。まず、我々はBCS理論をリンドブラッド方程式で記述される量子開放系のダイナミクスに拡張しました。その結果、実験的に実現が期待される超伝導のジョセフソン接合系に散逸を導入すると、直流ジョセフソンカレントの消失によって特徴付けられる、非平衡動的相転移が引き起こされることを明らかにしました。

散逸下の朝永ラッティンジャー液体における普遍的性質 (Phys. Rev. B 105, 205125 (2022))

XXZスピン鎖と呼ばれる典型的なスピン系における臨界現象は朝永ラッティンジャー(TL) 液体によって記述されることが知られています。我々は散逸の存在する非エルミートXXZスピン鎖において、相関関数を求め有限サイズスケーリングを行うことによって、非エルミート臨界現象の普遍的性質を明らかにしました。この研究では強相関系における幅広い理論的手法を非エルミート系に拡張、及び適用しました(ボゾン化、共形場理論、ベーテ仮説法、非エルミート密度行列繰り込み群など)。これらの強力な系統的手法によるアプローチにより、非エルミートTL液体は複素TLパラメータによって特徴付けられる普遍性クラスに属しており、これがc=1共形場理論の複素拡張で記述されることを明らかにしました。

散逸下の朝永ラッティンジャー液体における普遍的性質:SU(N)対称性を持つ系への拡張 (Phys. Rev. B 107, 045110 (2023))

近年冷却原子系において、SU(N)ハバードモデルなどに代表されるSU(N)対称性を持つ量子系の実現が報告されました。例えば固体電子系は↑↓の二種類のスピンを内部自由度として持ちます。冷却原子系においては、これをN種類の内部自由度に拡張したような系が、核スピンの自由度を用いることによって自然に実現されます。我々はこのようなSU(N)対称性が存在する一次元量子臨界系において、散逸によって誘起された普遍的性質をフェルミオン、及びボゾンの一般系に大して明らかにしました。その結果、SU(N)スピン対称性を持つ散逸下のTL液体は、c=1 U(1)ガウシアン共形場理論の複素拡張によって記述されるチャージモードと、level-1 SU(N) Kac-Moody代数によって記述されるN-1個のスピンモードの和で特徴づけられることを明らかにしました。その結果、臨界指数などはチャージの指数しか散逸の影響を受けず、これが非エルミート系へのスピンチャージセパレーションの拡張となっていることを明らかにしました。

     二種類の局在とその実験的実現手法の提案 (Phys. Rev. B 107, L220201 (2023))

近年、量子情報やAMO物理、統計物理などの幅広い分野において、観測の反作用によって誘起されたダイナミクスの研究が盛んに行われており、観測誘起エンタングルメント相転移などの新奇な相転移が報告されています。これは観測の反作用によって波動関数が局在する転移として理解できます。その一方で、波動関数の局在を引き起こすメカニズムとして凝縮系物理の分野で長らく研究されてきたものとして、乱れの存在する量子系があり、アンダーソン局在・量子多体局在などの興味深い物理が現れます。我々は、観測の反作用と乱れが共存する物理系を考え、観測誘起相転移と、それに伴うエンタングルメント相図を得ました。さらに、フィデリティと呼ばれる物理量の解析により、観測の反作用と乱れによる局在はそれぞれダイナミカルに異なる性質を持つことを明らかにしました。また、一般にはこのような系を実現するのは、ポストセレクションと呼ばれる問題により困難であることが知られていますが、我々はこれを回避する一般的な手法を冷却原子系において提案しました。

観測と乱れが共存する環境下でのエンタングルメント相図

     散逸に誘起された非相反輸送 (Phys. Rev. Research 2, 043343 (2020))