クロスジムシロ
Reticunassa fratercula (Dunker, 1860)
レア度:いつでも見られる
形態:小型の塔型巻貝で、雄は約0.5㎝、雌は約1㎝で成長が止まり、それぞれ開口部の外縁部が分厚くなる(成熟を意味する)。貝殻表面は規則的に隆起するうねがあり、個体によっては、それに交差するように、細いすじも巻いている。殻色は個体によって変異するが、縞模様の個体が多い。大きな足と長い水管をもち、灰色と白色の小さな斑点がある。また、雄は体の右側面にペニスをもつ。
生息域:日本各地に分布し、潮間帯から水深5mの砂礫底に生息する。葛登支では平磯に広く分布しており、砂だまりに普通にみられる。
生態:国後島では6月下旬から7月、沿海州ポシェト湾では6–8月上旬、志海苔では6–7月に卵嚢が観察されている (Golikov & Kussakin 1978; Zhang 2015)。各卵嚢には1–6個の卵が含まれ、稚貝としてふ化する個体とベリジャー幼生としてふ化する子個体が混在するペシロゴニーを示す (Zhang 2015)。本種は傷ついた動物や死肉を漁るスカベンジャーだと考えられており(Luckens 1970)、胃内容物は主に甲殻類で構成される (Medinskaya 1992)。実際、葛登支でもカニの死骸によく群がっているが、他の動物の卵や、小型の巻貝(チャツボ)を捕食することもできるようである。なお、傷ついた同種に反応しないが、飢餓状態ではそれも食べるようになる (Zhang & Goshima 2013)。
その他:砂の中にたくさん潜んでいるので、動物の肉片を置くと、ニオイを感知して次々と集まってくる。「海の掃除屋」と呼ばれる由縁である。ただし、寒さの厳しい日は集まりが悪い。
本種は Nassa Lamarck, 1799 属のもとに記載されたが、アッキガイ科のホネガイの仲間にも同じ綴りの属名 Nassa Röding, 1798 が存在する (異物同名の関係である) ため、属の記載年が遅いムシロガイ科の Nassa 属は無効名である。Nassa Lamarck, 1799 と同じもの (同物異名) とみなされている Reticunassa Iredale, 1936 が有効な属名である。
ヒライソガニの死体に群がる
ウニ殻にいた
集団で卵塊を食べる
吻はとっても長い
引用文献:
Luckens, P. A. 1970. Predation and intertidal zonation at Asamushi. Bulletin of the Marine Biological Station of Asamushi, Tohoku University, 14: 33–52.
Golikov, A.N. & Kussakin, O.G. 1978. Rakovinnye briukhonogie molliuski litorati morei SSSR. Nauka, Leningrad Branch. (in Russian)
Medinskaya, A. I. 1992. Anatomy of the proboscis walls in Neogastropoda (Gastropoda) and its connection with diet and feeding mechanism. Ruthenica, 2: 27–35.
Zhang, Y. & Goshima, S. 2013. Effects of crushed conspecifics and starvation periods on the foraging behavior of the marine gastropod sea snail Nassarius fraterculus. Journal of Marine Animals and Their Ecology, 6: 20–27.
Yue Zhang 2015. Survival Strategies of the Sea Snail Nassarius fraterculus (Dunker, 1860). Graduate School of Fisheries Sciences Hokkaido University, PhD Thesis.