研究計画

(1)官版日誌類の所在状況を把握する。

日本各地に散在する『太政官日誌』は、前記科研の研究開始時(2010 年4月)には 145 機関であったが、研究終了時(2013 年3月)には 322 機関に所蔵されることが確認された。

今後も可能な限り網羅的に、所在状況を把握していく。とくに原初的な受領本の蓄積がある公家・触頭に伝来する蔵本をできるだけ対象に入れる。また交付や販売当初の原形態を留める1巻1号の所在確認に重点を置くことにする。


(2)各所蔵機関での調査を実施する。

発刊地である京都・東京での調査をまず実施する。また京都・東京以外の調査地では、埼玉、栃木、茨城、新潟を優先させる。これらの地域での調査を優先させる理由は、これらの地域は戦況により支配体制が目まぐるしく変化しているためである。実地調査によって、情報伝達ルート・範囲・速度について、個別事例を蓄積する。


(3)官版日誌類の調査方法を構築する。

前記科研による『太政官日誌』の調査経験より、刊記の形式や内容、表紙の文字・不許翻刻の印など、バリエーションが多いことが明らかになっている。そのため、現在も「太政官日誌調査カード」に調整を加えているが、合理的な汎用性や操作性をより高め、「官版日誌調査カード」と「調査マニュアル」を確定させ、史料学の構築を目指す。


(4)データ化とデータ分析を行い、新たな発見を学界に提供する。

前記科研では 10 万件以上のデータベースの共同構築と共有化をはかり、グラフ化し、同版(修あり)・異版の混入状況などを明確にした。だが、記録や文書を主体にした従来の研究では明らかにできなかった側面、データ解析によって可視化された書誌情報が史実の究明にいかなる発展をもたらすのかについては、必ずしも明快に伝えることができなかった。


そのため本研究では、これまで蓄積してきたデータおよびデータ解析を基礎にして、書誌情報が新たに照らし出す史実を読み込み、前述(3)の調査方法をより適合的なものへと進化させ、史実解明の方法に役立つ、成果を打ち出す。


(5)『太政官日誌』をはじめとする官版日誌類の記事概要一覧を作成する。

『太政官日誌』は官版日誌類の序開であるとともに、通巻 1,178 号まで発刊され、官版日誌類の機軸となるものである。そのため、現地調査の結果明らかになるであろう最初期に発刊された『太政官日誌』をまず確定したのちに、『太政官日誌』通巻 304 号までの記事概要一覧をデータとしてまず作成し、順次、官版日誌類の記事概要一覧を作成することで、官版日誌類それぞれの発刊意図、機能配分を考察するための、基礎固めを行う。


(6)研究を行う。

第1に、戊辰戦争期の維新政府が入手していた情報、それら情報から維新政府は何を絞り込んだのか。まず維新政府内部の構造、議論について考察する。

第2に、現地調査を通じて、官版日誌類刊行への維新政府系本屋の関わり方を明らかにする。

第3に、現地調査の結果および記録・文書史料を博捜して、官版日誌類の交付・販売ルートを確定し、時事情報の伝達ルート・範囲・速度について、諸身分・諸階層にわたり考察する。

第4に、人・地域における官版日誌類の受容と影響について多角的に検討を進める。

第5に、政府内部での情報共有・蓄積・利用、受容者から発行側へのフィードバックを視野に

入れた考察を行う。

第6に、『太政官日誌』記事概要一覧および官版日誌類の記事概要一覧を作成して、データベース化し、それらを基礎に官版日誌類それぞれの機能や役割を明らかにする。


これらの各領域の研究動向・意義を確認しながら、適宜、本研究に関わる学術的研究成果を積極的に公表していく。


(7)定例研究会3回


第1回(5月)実地調査対象機関の選定と、計画全体における分担の確定。

第2回(夏季)実地調査の中間評価。

第3回(3月)実地調査結果の評価。