2025. 9. 25
引き続き英語の男性性の議論が進んでいる。この段落では英語の脚韻の特徴に注目している。念のため用語の確認をしておくと 、脚韻(rhyme)とは「詩行の末において、対応する単語の強勢を持つ最終音節の母音およびそれに続く子音(群)が同一であること」(寺澤 2002: 570)を言う。
Rimes based on correspondence in the last syllable only of each line (as bet, set; laid, shade) are termed male rimes, as opposed to feminine rimes, where each line has two corresponding syllables, one strong and one weak (as better, setter; lady, shady).
各詩行の最後の一音節の対応に基づく脚韻(例えば、bet と set や laid と shade)は男性的な脚韻と呼ばれる。反対に女性的な脚韻と言えば、各詩行に対応する二つの音節、即ち一つの強音節と一つの弱音節があるものだ(例えば、better と setter や lady と shady)。
ここでの「男性」や「女性」は、本来は弱音節の核となる -e が女性語尾だったフランス語的な用語遣いに過ぎない。一方 Jespersen は、一つの強音節で終わる語の方が強音節と弱音節のペアで終わる語よりも険しい印象(abrupt force)を持つ、即ち男性的だという言い方をする。例えば “Thanks” は “Thank you” より厳しくて丁寧さが低いという。
また英語は歴史を通じて二音節語を減らし、代わりに一音節語を増やしてきた。従って仮にラテン借用語のような長い語を借用しなかったとしたら、英語は単音節言語になっていただろうと Jespersen は主張する。 “First come first served” (早い者勝ち)はフランス語の “premier venu, premier moulu” や “le premier venu engrène”、ドイツ語の “wer zuerst kommt mahlt zuerst”、さらにはデンマーク語の “den der kommer forst til melle, far farst malet” と異なって一音節語から成り活力に満ちた男性的表現である。
なお、OED によれば “first come, first served” という表現自体は初期近代英語期から確認され、1845年には次の例ように限定用法の形容詞としても初出している。
The ‘first come first served’ principle will be established. (1845, New York Herald 31 August)
また類似表現として1666年を最後に廃用となってはいるが、 “he that comes first to the mill grinds first”という言い方が存在した。エラスムスの “qui primus venerit, primus molet”というラテン語からとられているようだ。なるほど最初に製粉所に来た人間が最初に粉を引くというわけか。この表現、英語にしてもラテン語にしてもぜひ使ってみたくなる。ところで最近、ラテン語の名句・格言・標語を集めた『ラテン語名句小辞典』という本が存在すると知って密かに気になっている。今度書店で手に取ってみたいと思う。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].
野津寛『ラテン語名句小辞典』東京: 研究社、2010年。
Oxford English Dictionary Online, Available online at https://www.oed.com/(Accessed Sep. 25th, 2025)
寺澤芳雄(編)『英語学要語辞典』東京: 研究社、2002年。