2025. 12. 1
古英語期には、散文はそれほど発達しなかったものの、韻文は戦い(e.g. Beowulf の Grendelのような空想上のモンスターとの戦い)を描いたものから、宗教詩・牧歌的な詩まで積極的に生み出された。Jespersenは以下のように、当時の詩の言語に独自の特徴が見出されると指摘している。
But to anyone who has taken the trouble and it is a trouble—to familiarize himself with that poetry, there is a singular charm in the language it is clothed in, so strangely different from modern poetic style.
しかしながら実際ひどく困難ではあるが、そうした(古英)詩に親しもうと取り組んだ人皆にとっては、現代の詩の文体と不思議なほど異なるその言語の独特の魅惑がわかる。
古英詩の独特の魅惑(singular charm)として、Jespersen が具体的に挙げているのは以下の2点である。
悠々とした韻律
言い換え表現の多用(ヴァリエーション)
特に2. については古英詩の特徴としてしばしば引き合いに出される点である。例えば、Beowulf には、「英雄(hero)」や「王(prince)」を表す語が37語もある(以下に再掲するが、壮観である)。「戦い(fight or battle)」は12語、「海(sea)」は17語もあるという。
<「英雄、王」を表す語>
æðeling
æscwiga
aglæca
beadorinc
beaggyfa
bealdor
beorn
brego
brytta
byrnwiga
ceorl
cniht
cyning
dryhten
ealdor
eorl
eðelweard
fengel
frea
freca
fruma
hæleð
hlaford
hyse
leod
mecg
nið
oretta
ræswa
rinc
scota
secg
þegn
þengel
þeoden
wer
wiga
なお大学で英米式のパラグラフライティングを習うと、必ずと言っていいほどに「パラフレーズ」という考え方が出てくる。これはいわば、同じ語の繰り返しを避け別の類義語に言い換えることを是とする論理の「文化」である。こうしたある種の「こだわり」の歴史的な伝統を辿っていくと、遂に先に見たような古英詩のヴァリエーションの特徴に至るとも見れる。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].