2025. 9. 21
第4節は全体が短いので全訳してしまおう。
Besides these characteristics, the full nature of which cannot, perhaps, be made intelligible to any but those familiar with phonetic research, but which are still felt more or less instinctively by everybody hearing the language spoken, there are other traits whose importance can with greater ease be made evident to anybody possessed of a normal ear.
これらの特徴[=3. で見た音声的特徴] の完全な本質は、おそらく音声学的研究に精通した人々にしか理解できない、しかしそれでも尚、英語が話されているのを聞けばあらゆる人が多かれ少なかれ本能的に感じ取るのである。こうした特徴以外に、普通の耳を持っていればより簡単に重要とわかる性質も存在する。
Jespersen 曰く、第3節で指摘したような音声的特徴は確かに音声学者でなければ完全には理解できないかもしれないが、それ以外の人でも感じとることはできる。つまり一般人にも暗示的知識として備わっている。
音声学、或いは広く言語学の仕事の一つは、言語について一般的に持たれている暗示的知識を明示化することにある。言語は人々が普段何気なく用いるものであるから、人々がそれについて数多くの知識を持っていることは疑いがない。しかしその多くは暗示的知識である。例えば pen, speed, sleep の /p/ は、英語母語話者にとっては同じ音と認識されているが、物理的には破裂の度合いに差のある異なった音である( cf. 井上 2015: 48-49)。言うなれば、英語母語話者は物理的に異なる音を知覚したとしても、彼らがもつ「暗示的知識」に従ってそれらを同じグループにまとめ上げているのである。専門家はこれを音素(phoneme)や音(phone)などの用語を使って明示化するのである。
参考文献
井上逸兵『グローバルコミュニケーションのための英語学概論』東京: 慶應義塾出版会、2015年。
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].