2025. 10. 27
英語はケルト語からどのような言語的影響を被ったのか。本節では特に語彙の側面について論じられている。Gardiner 曰く、例えば gown や curd といった女性が用いる語や cart や pony といった農業労働者が用いる語が借用されているとし、それは彼らがアングロ・サクソン人の征服を生き延びたからだと指摘したという。しかしながら Jespersen も論じるように、これらの語は(明確に)ケルト語由来とは言えないというのが実情である。現に『英語語源辞典』で確認してみると、それぞれの語について次のようにわかる。
gown: 古フランス語から借用された語で、俗ラテン語の gunnan にさかのぼる。ケルト語の語から派生した可能性はある。
curd: 英語本来語である。
cart: 英語本来語或いは古ノルド語からの借用された語 である。
pony: フランス語から借用された語で、俗ラテン語の pullānum にさかのぼる。
Jespersen は改めてケルト語借用語を6語挙げているが(bannock, brock, crock, dun, dry 'magician', slough)、例えばフランス借用語やラテン借用語に比べれば圧倒的に数が少ないことは明らかであろう。
なお、OED に掲載されている語で語源欄に Celtic を含む語は742語だった。語の一覧を眺めていると、なんと penguin がウェールズ語(ケルト語派)由来であるということを知った。またさらに驚くべきことにこの語の語形成は pen- "head, headland" + guin "white" となっているそうだ。現代英語話者や学習者には、もはや複合語と認識されていないと思われ、いわゆる偽装複合語(disguised compound)と言える。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].
Oxford English Dictionary Online, Available online at https://www.oed.com/(Accessed Oct. 27th, 2025)
寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典(新装版)』東京: 研究社、2025年。