2025. 10. 23
本節から Chapter 3 に突入する。本章の見出しの Old English は、アングロ・サクソン人がブリテン島に侵入したとされる449年に始まる英語の時代区分である。なお、それでは448年の「英語」と449年の古英語では全く言語的状況が異なるのかと言えばそういったことは考えにくい。言語史が連続的であるのは前提として、449年をあくまで象徴的な年としてとらえていただければと思う。
Jespersen に言わせれば、英語にとって重要な歴史的事件はほかにも数多く存在する。例えばヴァイキングの侵入、ノルマン征服、ルネサンス、それからアメリカ・オーストラリア・南アフリカといった地域への英語の拡大などが挙げてある。ただこの全てと比べても、今回の449年の事件は世界的な影響力をも持つ重大事件だったと強調されている。
[...] none of these can compare in significance with the first conquest of England by the English, an event which was, perhaps, fraught with greater consequences for the future of the world in general than anything else in history.
これらのいかなる事件も、その重要性においてイギリス人による最初のイングランド征服に比肩し得ない。この出来事はおそらく、歴史上世界の将来一般に対して最も重大な結果をもたらす事件であった。
当時アングロ・サクソン人がブリテン島に侵入しなかった場合、今私がこうして日本で英語史・英語学を専攻している可能性はどのくらいあるのだろうか。逆に言えば、今の私も歴史上の偶然の積み重ねの上に生きている。そう強く意識させられる一節である。
なお、アングロ・サクソン人がブリテン島に侵入した449年という年号は Bede が731年に著した Ecclesiastical History of the English People の記述に基づいている。ただし冒頭にも述べたように、それを絶対的に鵜呑みにするよりもあくまで象徴的な年と解すのが適切であろう。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].