2025. 10. 14
Jespersen に言わせれば、「語頭アクセント」は英語(或いはゲルマン語)の持つ最も重要な音声的特徴である。というのは、それが次のような音声体系上の合理性の基盤を成すからだ。例えば、次のような語彙のセットを想定してみよう。
'family, fa'miliar, famil'arity
'photograph, pho'tographer, photo'graphic
'love, 'lover, 'loving, 'lovingly, 'lovely, 'loveliness, 'loveless, 'lovelessness
'king, 'kingdom, 'kingship, 'kingly, 'kingless
一目でわかるように、上2つのロマンス借用語の派生語セットではアクセントの位置(' でアクセントが落ちる音節の位置を示した)が各々異なっているのに対し、下2つの本来語の派生語セットではアクセントの位置が一貫している。英語(ゲルマン語)は語源的関連性が音声的にも担保されているわけである。なお、family と familiar では最初の母音が [æ] と [ə] で異なっているというのにも注意されたい。Jespersen は以下のようにまで述べている。
The phonetic clearness inherent in the consistent stress system is certainly a linguistic advantage, and the obscuration of the connexion between related words is generally to be considered a drawback.
一貫した強勢体系に内在する音声的な明瞭さは確かに言語的な利点であり、関連語どうしの結びつきが不明瞭になることは、一般に欠点と見なされる。
なお Jespersen はここでは触れていないが、ゲルマン語に特有の「語頭アクセント」があるからこそ、非ゲルマン語では見られないにもかかわらず、英語において屈折語尾の水平化が生じたことを説明できる。この点においては、また後に触れることになるだろうと思う。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].