2025. 10. 11
印欧祖語から分化した様々な言語にはそれぞれ固有の発音・文法・語彙上の特徴が見られるが、それ故に各言語の話者がお互いの言語の類似性に全く気付かないことすらある。以下の箇所にそれが記されている。so ... that ~ 構文における情報構造に基づいた倒置を堪能してほしい。
In historical times we find Arian split up into a variety of languages, each with its own peculiarities, in sounds, in grammar, and in vocabulary. So different were these languages that the Greeks had no idea of any similarity or relationship between their own tongue and that of their Persian enemies; nor did the Romans suspect that the Gauls and Germans they fought spoke languages of the same stock as their own.
歴史時代において、アーリア語は様々な言語に分化し、それぞれが発音・文法・語彙の点で独自の特徴を備えるに至った。これらの言語の相違はきわめて大きかったため、ギリシア人は自らの言語と敵対するペルシア人の言語とのあいだにいかなる類似性や関係性も想定せず、またローマ人も彼らが戦ったガリア人やゲルマン人が自分たちと同系統の言語を話すとは予想もしなかった。
こうした印欧語間の「非類似性」はギリシア人やローマ人をしてゲルマン語に対して偏見をもたらしめた。例えば、キリスト教を批判して背教者と呼ばれたローマ皇帝ユリアヌスはゲルマン語の民謡(ballad)を鳥のしわがれ声や甲高い金切り声にたとえたという。一方で、彼らが自分たちの言語とゲルマン語との間に類似性を見出せなかったのは仕方ない部分もある。それはゲルマン語のみに生じた子音推移(consonant-shift)や強勢推移(stress-shift)が存在するからである。なおここで言う子音推移は一般的にグリムの法則(Grimm's Law)と呼ばれるものを指すが、Jespersen はこの用語法には慎重な立場をとる。確かに、Grimm はデンマークの学者 Rasmus Rask が1818年に発表した音の対応関係を翌年体系化したに過ぎないという学史が存在する。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].