2025. 10. 1
英語の「男性性」はその語順にも表れている。具体的には、英語は例えばラテン語やドイツ語と比べて語順が定まっており、この点で「男性的」である。
In English an auxiliary verb does not stand far from its main verb, and a negative will be found in the immediate neighbourhood of the word it negatives, generally the verb (auxiliary). An adjective nearly always stands before its noun; the only really important exception is when there are qualifications added to it which draw it after the noun so that the whole complex serves the purpose of a relative clause: [...]
英語において助動詞は本動詞から離れて置かれることはなく、否定語もそれが否定する語、一般には(助)動詞のすぐ近くに置かれる。形容詞はほとんど常に名詞の前に来る。唯一本当に重要な例外は修飾がなされる場合で、その場合は形容詞を含むまとまり全体が関係節の役割を果たすため、形容詞が名詞の後ろに回る。
こうした助動詞・否定語・形容詞に関わる規則性だけでなく、英語には SVO 語順の規則性も見られる。Jespersen が自身の生徒に行なわせた統計によれば、近代英文学作家と他言語作家の SVO 語順を用いた割合は以下のようである。なお、この統計には量的な不十分さがあろうことは Jespersen 自身も認めている。
<近代英文学作家>
Shelley...89%(散文)/85%(韻文)
Byron...93%(散文)/81%(韻文)
Macaulay...82%(散文)
Carlyle...87%(散文)
Tennyson...88%(韻文)
Dickens...91%(散文)
Swinburne...83%(韻文)
Pinero...97%(散文)
<他言語作家>
デンマーク語: Jacobsen...82%(散文)、Drachmann...61%(韻文)
ドイツ語: Goethe...30%(韻文)、Tovote...31%(散文)
フランス語: Anatole France...66%
イタリア語: d’Annunzio...49%
こうして眺めてみると、確かに、近代英語における SVO 語順の規則性の相対的な強さが浮き彫りになる。なお、Beowulf と Alfred 大王の散文では SVO 語順の割合はそれぞれ16%と40%だったといい、英語が歴史的に常に同様の傾向を示してきたわけではないということは明確に述べられている。
一方で英語は倒置のない言語というわけではなく、強調を表すのに倒置を用いることができる。しかしドイツ語や北欧語と比べてその頻度は低い上、日常的な表現の多くで必要性もなく倒置を起こすということはあまりない。以下、デンマーク語・ドイツ語・英語の例文のセットを再掲しておく。主語を太字、動詞をイタリック体にしてある。
デンマーク語: nu kommer han.
ドイツ語: jetzt kommt er.
英語: now he comes.
ちなみにデンマークは漢字表記すると音訳で「丁抹」となるらしい。現代中国語のピンイン表記では [dīng mā] になり、その初出の経緯は調べていないが音訳と言われて納得はいく。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].