『21世紀資本主義とポピュリズム:福祉国家の現在地』
戦後資本主義の特色のひとつは福祉国家体制である。資本主義の問題点の弥縫策との批判もあったが、福祉国家は、大衆民主主義における合意形成を踏まえて展開され、経済成長をもたらしてきた。新自由主義による揺り戻しもあったとはいえ、福祉国家を支える政治的・経済的理念としてのリベラルな社会民主主義は、近年に至るまで、広く一定の支持を得てきたといってよい。あらゆる階級が、リベラルな理念に対して一定の理解を示すことにより、福祉国家は維持され、そのもとでの、労働力の保全と培養のための社会政策、財政規律、節度ある金融政策、といった諸政策は、戦後資本主義を支えてきた。また、こうしたリベラルな主張は、資本主義のもとでの搾取や疎外の影響を被っている階級の利害を代弁するとの意識のもとに説かれてきていたのであった。
冷戦終結後のグローバル化の進展と産業構造の変化のもと、先進各国では、国内の格差が拡大・固定化されていったが、それは本来、社会民主主義的な対応が待望される状況であるはずであった。しかし、こんにち、そうしたリベラルな政策は、それによって利益を得るはずであった労働者階級や経済的弱者の支持を得られなくなり、既得権益・エリートへの反感や排外主義を煽動する傾向がある大衆迎合的な政治運動・政治思想としてのポピュリズムが広がっている。<左右>ではなく<上下>を政治的対立軸であると説くポピュリズムの台頭のもと、既成政党のみならず労働組合や福祉政策までも既得権益とみなされ、リベラルな政治勢力の退潮が日欧米で観察されるようになっている。国民負担の引き下げと排外主義とを主張する典型的なポピュリズムに加え、最近ではさらに、いわゆる左派ポピュリズムともいうべきいくつかの流れも生まれていることが指摘されている。左右のポピュリズムの底流には伝統的な左派への不信の蔓延があり、そこに左派のディレンマがあるのではないだろうか。
ポピュリズムの台頭は、福祉国家や現代資本主義の基盤を掘り崩してしまうのか。また、そもそも、ポピュリズムともいうべき主張がなされる背景には、現代資本主義が抱えるいかなる矛盾があるのか。はたまた、福祉国家は、そもそも内向きな論理であり、また、「ハーヴェイロードの前提」を随伴せざるをえないものであって、ポピュリズムを招来してしまわざるを得ないのか。
資本主義の解明を進めてきた経済理論学会の知見を動員し、21世紀における福祉国家の現在地の検討を補助線として、現代資本主義とポピュリズムの関係について議論を深めていただきたい。
以上の趣旨にご賛同いただき,自薦・他薦を問わず,会員の皆様による報告者の積極的なご推薦をお待ち申し上げます。
第73回大会組織委員会