趣旨
これまでの大会において、地政学リスクとアジアにおけるサプライチェーンの関連性に正面から取り組んだ研究報告は、自由論題においても限定的であり、ましてや統一論題として取り上げられてこなかった。しかし、国際情勢の急激な変化を受けて、今やこのテーマは極めて重要かつ喫緊の研究課題として浮上している。
とりわけアジア地域は、世界のサプライチェーン構造の中核を担う存在である。中国を中心とした「世界の工場」体制は、ASEAN、インド、バングラデシュといった周辺諸国の産業集積と分業ネットワークに支えられ、グローバル経済の効率化に大きく貢献してきた。しかし、米中対立の先鋭化、台湾海峡を巡る軍事的緊張の高まり、経済安全保障を名目とする輸出管理や制裁措置、さらにはパンデミックや自然災害などの非伝統的安全保障リスクの頻発により、このサプライチェーン構造は脆弱性を露呈しつつある。
こうした地政学的リスクの高まりに対し、アジア企業および外資企業は、調達・生産・販売ネットワークの再構築を余儀なくされており、その戦略的対応には多様な選択肢と課題が交錯している。本大会においては、アジア地域を中心に、地政学リスクがいかに企業行動、産業構造、政策対応に影響を及ぼしているかを多角的に検討し、サプライチェーンの再設計に向けた理論的・実証的洞察を共有することを目的とする。
アジアという多元的で流動的な地域において、企業がいかに環境変化に適応し、新たなサプライチェーン戦略を構築しつつあるのか。本統一論題は、アジア経営学会としての問題提起を内外に示す絶好の機会であり、理論と実証を架橋する実りある議論を期待したい。