【大会シンポジウム】
シンポジウム1『犯罪と神経科学』
日 時:2024年11月30日(土)15:15〜17:15
場 所:松山道後キャンパス 講義棟5階 講堂
企画・司会:人間環境大学 総合心理学部 総合犯罪心理学科
話題提供者:
阿部 修士 先生(京都大学)
千葉 俊周 先生(国際電気通信基礎技術研究所・自衛隊阪神病院)
新岡 陽光 先生(人間環境大学)
企画趣旨
犯罪という社会問題の背後には、複雑に絡み合うこころの問題が多く存在する。加害者の意思決定にはじまり、犯罪の発生、その後の捜査活動、被害者へのこころの支援など、犯罪への心理学の活用場面は実に多様である。さらには、急速な進展を見せる脳機能計測技術を用いた研究から、犯罪に関わる人々のこころの解明もまた大きな成果を見せている。そこで本シンポジウムでは、犯罪にまつわるこころの神経基盤を明らかにされてきた先生方にそれぞれの研究をご紹介いただき、犯罪心理学とに認知神経科学のコラボレーションによって得られた知見を共有することを目的としたい。
阿部 修士 先生(京都大学)
『不正行為の神経基盤-サイコパスの研究事例から―』
脳機能画像研究の著しい進展に伴い、不正行為の意思決定を担う神経基盤が明らかにされつつある。中でも、反社会性パーソナリティ障害として分類される「サイコパス」を対象とした研究からは、不正行為の神経基盤に関する貴重なエビデンスを得ることができる。本講演では、これまでの研究で報告されているサイコパスの心理学的・神経科学的特徴を概観すると共に、講演者が取り組んできた、米国刑務所に収監中の囚人を対象とした不正行為の神経基盤に関する研究を紹介する。続いて、近年のサイコパスに関する研究動向を整理し、犯罪と神経科学に関する今後の研究の方向性について議論を深めたい。
千葉 俊周 先生(国際電気通信基礎技術研究所・自衛隊阪神病院)
『次元で捉えるPTSD症状』
悲惨な恐怖体験、特に犯罪被害などは、さまざまなストレス反応を引き起こし、深刻な場合には心的外傷後ストレス障害(PTSD)へと発展する。PTSDの多様な症状は、類似した症状ごとにクラスターとして分類され、それぞれに独自の神経基盤が存在することが明らかになってきた。この知見に基づき、解離症状が強いPTSDを「解離型」として分類する概念がDSM-5(アメリカ精神医学会の精神疾患の診断基準)に導入された。解離型のPTSDでは、腹内側前頭前野による扁桃体の過度な抑制が見られ、従来型の扁桃体の過活動を伴うPTSD症状とは対照的である。従来型のPTSD症状が「恐怖ON」と位置づけられるのに対し、解離症状は「恐怖OFF」として位置づけることができる。このような拮抗的な症状は、クラスターではなくパターンとして理解されるべきである。そこで我々は、PTSD症状に関する大規模データを主成分分析で解析し、症状の分散を説明する重要な次元として、1)重症度、2)恐怖ON/OFF、3)恐怖をOFFにする方策(積極的回避 vs 消極的回避)の3つを同定した。また、個々の患者の状態はこれらの次元内でダイナミックに変動することも明らかとなった。本発表では、これらの次元およびそのダイナミクスの神経・生物学的基盤について考察し、特に発表者が提案する「相反抑制モデル」について紹介する。さらに、犯罪者の脳動態とPTSDの脳動態の比較を通じ、虐待の連鎖や犯罪の伝播との関連性について議論する。
新岡 陽光 先生(人間環境大学)
『犯行を隠匿する者の神経基盤―犯罪捜査における脳活動と自律神経反応の同時計測の可能性―』
犯罪捜査では、被疑者の自律神経反応に基づいて犯人かどうか鑑定するポリグラフ検査が実施されている。日本では隠匿情報検査と呼ばれる独自の方法を用いており、犯人だけが知っている犯罪関連項目に対して定位反応が生じるという仮定をもとに、犯人特異的な自律神経反応パターンに着目している。近年では、日常場面に近い状態で脳活動を計測でき、かつ、時間精度において自律神経反応計測との親和性が比較的高い、機能的近赤外分光計測法(fNIRS)の計測・解析のゴールデンスタンダードの確立が急速に進んでいる。多チャネルfNIRS計測の隠匿情報検査への応用研究を紹介するとともに、脳活動と自律神経反応の両面から犯行を隠匿する者の認知処理について再考したい。
シンポジウム2『心理実験の幅を広げる新しい技術』
日 時:2024 年 12 月 1 日(日)9:30〜11:30
場 所:松山道後キャンパス 講義棟5階 講堂
企画・司会:原澤 賢充 先生(NHK放送技術研究所)
話題提供者:
前澤 知輝 先生(筑波大学)
中村 純也 先生(豊橋技術科学大学)
和田 有史 先生(立命館大学)
企画趣旨
これまで知覚や認知の実験心理学で用いられていた装置の定番と言えば暗室・PC・ディスプレイ・キーボードといったものでした。しかし近年はこういった「よくある」構成を外れたちょっと変わった装置や技術による心理実験を目にする機会が増えてきたように思います。このシンポジウムではそういった装置や技術を使って心理実験をされている先生方にそれぞれの技術・装置をご紹介いただき、「そんなやりかたがあったのか」「そういう装置を作れるのか!」という気付きとともに基礎心理学実験の射程を広げることを目指しています。
前澤 知輝 先生(筑波大学)
『VR用視覚呈示装置を用いた認知心理学実験』
近年、VR技術を活用した心理学実験が注目されている。メタバースを含む仮想現実空間を対象とした研究が盛んに行われる中で、その視覚呈示装置(ヘッドマウントディスプレイ)は、単なる3DCGの呈示を超えて、視線や姿勢の計測を伴う認知心理学実験への応用も期待されている。こうした実験において収集可能なデータの種類や、その具体的な活用事例について紹介する。
中村 純也 先生(豊橋技術科学大学)
『VR HMDと足裏振動装置によるバーチャル歩行体験の生成』
本発表では、足裏振動や視覚的な刺激提示を用いて、座位や仰向け姿勢でも実現可能な「バーチャル歩行体験」への取り組みについて紹介する。HMDで提示可能なバーチャル環境、足裏振動刺激や独自開発の足裏刺激装置などを取り上げ、開発した装置や採用した技術、実際の実験やその効果について掘り下げる。
和田 有史 先生(立命館大学)
『鼻腔内の気流を制御し、呼吸と食味の関係を探る』
食品の「あじ」は、味覚だけでなく鼻孔や口腔からの香気成分による嗅覚の影響を受ける。鼻呼吸下での食味評価では、呼吸による気流と嗅覚は不可分であった。我々は独自に開発した嗅覚ディスプレイにより呼吸タイミングと鼻腔内の香気成分を含む気流を制御し、食味の分解と再統合を目指した。本シンポジウムではこの取り組みの成果について紹介する。
シンポジウム3『動物の心:アリの心、イカ・タコの心、魚の心、人間の心』
日 時:2024 年 12 月 1 日(日)15:15〜17:15
場 所:松山道後キャンパス 講義棟5階 講堂
企画・司会:高野 裕治 先生(人間環境大学)
話題提供者:
村上 貴弘 先生(岡山理科大学)
吉田 将之 先生(広島大学)
池田 譲 先生 (琉球大学)
城田 純平 先生(神戸市看護大学)
企画趣旨
心とは何か?この問いをあきらめ、心に対して機能主義的に研究する道を歩み出すことで、科学としての心理学ははじまった。そして、現在までに、様々な心の諸機能が研究されてきた訳だが、それらを俯瞰した時に、心とは何か、見えてきたのだろうか?本シンポジウムでは、再度、心とは何か?と問うことを、近年、研究が盛んな人間以外の心のあり方を様々な動物研究から考えてみたいと企画された。その際には、なるべく近年、心理学の学会では聞けない動物種を選定するように努めた。また、心とは何か?という科学としての心理学があきらめた問いはもちろん哲学において取り組まれてきたわけだが、現在までにどのような状況になっているのだろうか?そこで、動物の心研究を受けて、再度、人間の「心」とはと考える時間を設けてみたいと考えた。さらに言えば、これらの話題を受けて、私たちの言うところの「基礎心理学」における「基礎」とは何かと各自がゆっくりと立ち止まって考える時間を提供できればと願う。
村上 貴弘 先生(岡山理科大学)
『アリの利他的感情は心と呼べるか?』
吉田 将之 先生(広島大学)
『生物学的に考えるサカナの心理』
池田 譲 先生 (琉球大学)
『海原を駆けるイカとタコとその心持ちと』
城田 純平 先生(神戸市看護大学)
『人間の「心」を再考するー反主観主義としてのハイデガー哲学の立場からー』