本委員会は,心理統計という研究の「道具」について十全の教授を行うために研究者あるいは教育者として何を学ぶべきか,その道筋を具体的に示すことを目標として発足しました。これまでに,多くの学部で必修科目となるだろう基礎統計科目「Basic Statistics(ベシスタ)」のシラバス案と,それに基づく到達度確認テスト環境を構築し,実際にいくつかの大学で活用していただいています。昨年度のシンポジウムでいただいた「難易度を判断できる客観的なデータが乏しい」「難易度が高い問題にやや偏っているように思われる」というご指摘に対処するために,なるべく容易な問題を増やした上で,初級統計を現に学んでいる方々に作成した問題を解いていただいたデータに基づくブラッシュアップを図っています。
まず,この到達度確認テストについて,委員の高橋と小杉から報告させていただきます。我々はコマシラバスで示された各キーワードの理解状況を確認するための簡易テストを開発しました。このテストは,学生の学力評価を目的としたものではなく,あくまでも学習内容の理解度を確認するためのツールとして設計されています。放送大学をはじめとする協力校の学生の皆様にご協力いただき,ドリル形式での試行を実施しました。収集された回答データをもとに,項目反応理論(IRT)を用いて問題の困難度,識別力,テスト情報関数等の分析を行いました。これらの統計的指標とともに,テスト資料を学会参加者の皆様と共有させていただきます。
そして,授業実践例を,関西学院大学社会学部の岩谷舟真氏からご報告いただきます。岩谷氏が所属する関西学院大学社会学部には,(1)数学が入試科目として必ずしも求められない,(2)専攻分野の決定は入学後に行う(第2希望として心理学を選択し,思いがけず心理統計に向き合うことになる学生もいる)という特徴があります。多様な学生に最後まで心理統計に取り組んでもらうための工夫などについてうかがいます。
心理統計あるいはその教育に現に携わっていようがいまいが,ああこれは「じぶんごと」だな,と捉えてくださった方々のご参加を心よりお待ちしております。是非積極的にご意見・ご議論いただければ幸いです。