雑誌「モンキー

連載 「今日もOSARU日和」

竹下 景子

(公益財団法人日本モンキーセンター親善大使)

撮影 篠山紀信

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竹下景子さんのオフィシャルウェブサイトのスタッフブログにも、日本モンキーセンターが登場しています。

連載 第11回 「今日もOSARU日和」

ローバーの転身、シンのほお袋

竹下 景子

(公益財団法人日本モンキーセンター親善大使)


この記事は、日本モンキーセンター発行の雑誌「モンキー」6号4巻 (2022) 88‐89頁に掲載した内容を転載したものです。

寒さでツンと鼻の奥が痛くなりそうな2022 年1月の日本モンキーセンター。飼育員の鏡味芳宏さんに念願のニホンザルの丘を案内していただきました。抜けるような青空からは木曽川を越えて粉雪がときおり舞い落ちてきます。おサルたち団子になってかじかんでいないかしら、と思う間もなく、彼方からご飯を待ちかねたフードコールの大合唱が。ペレット大盛りのバケツを両手にズンズン坂道を登る鏡味さんめがけて、テンションMAX。啼くというより、もう吠えてるって感じ。

間近に見るニホンザルは思っていたより大きく、日差しを浴びて金色に輝いています。高齢のメスたちのまとっている毛並みはシャンパンゴールド。見惚れるくらいきれいです。「やっぱりニホンザルよ ねえ」と訳もなくつぶやいてしまうのは、私がヤマトナデシコだから?

ニホンザルの丘は非展示施設です。2010 年に広島県宮島から 100 頭以上が来園しました。当初は展示の予定でしたが諸条件が整わず現在に至っています。群れの構成もさまざま。来園時に獣医さんが検査して年齢を推定したそうです。飼育員さん は野生由来の彼ら全員の名付け親。「No.40〈カラ〉はシジュウカラだカラ(笑)。」とか。今は、113 頭 がくらしています。10 年以上が経過して、子どもからオトナオスへと成長したグループが力を発揮しつつあるようです。

目の前ではナッシュ(顔がおじいさんっぽい)が悠々と餌を口に運んでいます。暴れん坊のツーブロが弱い個体を捕まえては キーキー言わせています。イシカワくんが元気に走りまわっています。丘にローバーの姿はありませんでした。

ニホンザル (Macaca fuscata) のナッシュ。(撮影:辻内祐美)
ニホンザルのローバー。(撮影:辻内祐美)

アルファオスとして人望(?)のあったローバー。ワカオスからも一目置かれ、メスからも信頼を得ていました。飼育員の辻内祐美さんいわく「怒ることもあるけど、怒り方も結構優しめ」。なのに ...

昨年10 月、「それ」は起きました。ローバーが倒れ、入院したのです。診断は「鼠径(そけい) ヘルニア」。繁殖期でもあり、群れの今後も考慮して、処置は慎重を極めました。彼の将来の可能性をできるだけ残すために完全な去勢はせず、アルファ 復帰を目指すことになりました。11 月、退院したローバーは丘に戻り、ポストアルファのナッシュと対決しましたが、すでに勝機は失せていました。

でも、今年 1 月、“エスパーダ” と呼ばれるオスだけの群れ(飼育員さんたちがそう呼んでいるグループ)に合流することができました! 居場所を見つけたローバーには、たとえ順位は低くても独りでいるよりずっと多くのことができそうです。頑張れ、ローバー!

ボウシテナガザル (Hylobates pileatus) のドント(上)とシロテテナガザル (Hylobates lar) のイレブン(下)。(撮影:藤森 唯)

バックヤードも見学させていただきました。飼育員の藤森唯さんのアテンドで。新設の多目的ルームの扉を開けたら、目の前にボウシテナガザルのドントとシロテテナガザルのイレブンがいてびっくり。 2 頭を刺激しないように、そーっと奥へ進みます。すると、いました! シンとツルが一つところに。ベルベットモンキーのシン 30 歳オーバー、カニクイザルのツル 21 歳のおばあちゃんズ。ふたりとも目が不自由。そして糖尿病を患っています。できるだけ皆に良い環境で過ごしてほしい。同居することでコミュニケーションが生まれ、行動の幅が広がることを期待して、お見合いと短時間の同居の練習を重ねて、ついに一緒にくらせるようになりました。

ほお袋がふっくらしたベルベットモンキー (Chlorocebus pygerythrus) のシン(上)と、シンをグルーミングするカニクイザル (Macaca fascicularis) のツル(下)。(撮影:藤森 唯)

グルーミング好きなシンがツルにぐいぐい迫りま す。戸惑い気味のツルでしたが、ご飯となるとツルのペース。シンがちゃんと食べられるか心配でした。ところが ...

この数年ひとりぐらしで、ごはんもノンビリ食べていたのが、食欲旺盛なツルとの同居が始まると、しばらく出番のなかったシンのほお袋が大活躍! 見事にふっくらしてました。カ・ワ・イ・イ。

さらに年が明けると、なんとお互いにグルーミングしているではありませんか! 種も違う、目も不自由なふたりがいたわり合うように和やかな顔で寄り添っています。シンとツルに会えて、嬉しかった。いついつまでも 元気でいてくださいね。

おまけ情報


連載 第10回 「今日もOSARU日和」

創立記念日に想う

竹下 景子

(公益財団法人日本モンキーセンター親善大使)


この記事は、日本モンキーセンター発行の雑誌「モンキー」6号3巻 (2021) 60‐61頁に掲載した内容を転載したものです。

唐突ですが、テレビ番組で新しい生活様式を身につけた動物の例として「歯磨きするサル」が紹介されていました。タイのその街では、野生のカニクイザルが至るところに出没。人と「共存」しています。サルは神様の使い。餌をふるまうのは生き物を慈しみ、功徳 (くどく) を積むことなのだそう。人々は彼らにとても寛容なのです。一頭のサルが店先の女性の肩に飛び乗ったと思ったら、髪を触って、すぐに立ち去りました。「髪の毛を抜くのよ」と、ご当人はあきらめ顔。何と、このサルは長い髪の毛の両端を持って、器用に「フロッシング」しているではありませんか。見れば、あっちでもシーシー、こっちでもシーシー。まあ、とうもろこしやピーナッツは歯に挟まりますからねえ。気持ちいいに違いない。所変われば品変わる。「文化的行動」のさまざまに、驚くやら感心するやらでした。閑話休題。

2021年10月17日は日本モンキーセンター65周年の創立記念日。午後からは、例年どおり動物慰霊祭が挙行されました。儚くなった動物たちの鎮魂と、彼らと彼らの残してくれたものに感謝を捧げる集いです。今年は日曜日とあって、いつにも増して多くの方々にご参列いただきました。動物たちに心を寄せてくださってありがとうございます。気持ちのこもった手紙やほんとうにたくさんのお供え物も頂戴しました。重ねてお礼申し上げます。

▲動物慰霊祭に参列させていただいた。(撮影:高野 智)
▲たくさんのお供え物やお手紙をありがとうございます。(撮影:高野 智)

今年は26頭の個体が天に召されました。天寿を全うした個体もいれば怪我や病気で亡くなった個体もいるそうです。アビシニアコロブスの女の子、イイチコは本物の天使になったでしょうか。つぶらな瞳が忘れられません。いつも美味しそうに葉っぱを食べていましたっけ。天国で思いっきり遊んでね。食いしん坊で思い出すのは、シロテテナガザルのジェシカです。バックヤードからギボンハウスに来られてよかったね。キュータロウとは相思相愛でたのしかったね。キュータロウの分まで食べてたけど、少しダイエットできてえらかったね。2人のツーショット、今も大好きです。

ワオキツネザルのレンネットは大手術を乗り越え、入院や厳しい投薬治療にも耐えてがんばりました。飼育員の市原涼輔さんが寄り添って、闘病日記を綴ってくれました。がんが進行する中でも、ミツオと毛づくろいしたニュースはうれしかった。最後まで前を向いて生き抜いたあなたの勇姿は美しい。これからもきっと忘れないよ。どうぞゆっくり休んでください。

他の個体も含めて、逝ってしまった彼らを想う時、生きること、老いること、死について、改めて振り返ります。私にとって大切な時間。別れはいつも悲しいけれど、生命の輝きと、その循環の中に生かされてい ることの大切さを思います。みんな、みんなありがとう。

▲ワオキツネザル (Lemur catta) の (左から) レンネット、ウメキチ、ミツオ。(撮影:市原涼輔)

そして、この日いちばん 嬉しかった出来事は、秋晴れの空の下、飼育員の石田崇斗さんの巧みな誘導で新設シュートに出て来たフクロテナガザルのイチゴとピーチに会えたことです。2人は今まで外のエリアには出られませんでした。この春、エコドームに新たなシュートを取り付ける改修工事が決定し、クラウドファンディングで無事完成!9月から、イチゴとピーチは新設シュートを通ってエコドームで遊べるようになりました。皆様からのご支猿に厚く感謝を申します。屋内での暮らしが長かったため、色白なお嬢さんたち。フクロテナガザルも生まれた時は顔やお腹がうすだいだい色で、日に当たるにつれ黒くなっていくのですね。活発なイチゴは、かなり日焼けして大人のテナガザルらしくなっていました。慎重な性格のピーチはもう少し時間がかかるかな。石田さんともゆっくり再会を楽しんでいる様子が愛らしかったです。

▲フクロテナガザル(Symphalangus syndactylus)のイチゴとピーチ。(撮影:綿貫宏史朗)
▲完成したシュートと飼育員さんと。( 撮影:北原愛子 )

おまけ情報

動物慰霊祭のために唄をつくりました 
「10月17日」

彼女の“幸せ”を考える

~フクロテナガザルのピーチ ~


日本モンキーセンター友の会 サポータ特典プレミアムコンテンツより、転載

竹下 景子 (たけした けいこ)

俳優。愛知県出身。1973年NHK銀河テレビ小説『波の塔』でデビュー。映画「男はつらいよ」ではマドンナ役で3作品に出演。テレビ・映画・舞台への出演のほか、「世界の子どもにワクチンを日本委員会」ワクチン大使、国連WFP協会親善大使など幅広く活動 。新たに2019年3月3日より、公益財団法人日本モンキーセンター親善大使を務める。

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