JISSの基本的な活動がこの勉強会です。
あらかじめ自分たちで決めたテーマに基づいて課題図書を選定し、討論を通じて日本や国際情勢についての知見を深めます。
今回のテーマは「天皇制」でした。勉強会が行われた4月1日は新元号「令和」が発表された日でもあり、留学を控える私たちにとって天皇制について理解を深めることは非常に重要だと考え、このテーマを選びました。
報告では、明仁天皇が昭和天皇とは異なり、戦後体制を明確に支持すること、社会の弱者との距離を縮めること、さらに国際協調主義に裏付けられた形で日本人としての誇りを示すことによって、より国民との距離が近い「国民の天皇」となったことが説明されました。
報告の後は「次の天皇に期待される『社会的機能』とは」、「今の若者にとって天皇の『象徴性』とは何か」という二つの観点からディスカッションを行いました。国の誇りとグローバル化のバランスをどのようにとっていくのか、天皇の情報発信はどうあるべきか、イギリスの王室と比較した際に日本の皇室はどのように説明できるかなど、様々な観点から終始建設的な議論が活発に行われました。
そして、勉強会のあとにはピザパーティを開催し、皆で親睦を深めました!
第一回課題図書: 茶谷誠一(2017) 象徴天皇制の成立―昭和天皇と宮中の「葛藤」 (NHKブックス No.1244)
【「甘え」の文化】
「甘え」には母子の関係で見られるような相互依存的な甘えと、妬みから生じる屈折した甘えとの二種類が存在することを確認したうえで、日本人が伝統的に重んじてきた「義理」を、「甘え」の構造によって人々を依存的な関係に縛るものとして否定的に捉える見方が紹介されました。それにより「人の目を気にする」、「失敗の許されない」文化が形成されてしまったというのです。
ディスカッションでは、それが日本企業の厳しい上下関係という息苦しい組織体質にもつながっているのではないか、という意見が出ました。日本人の「甘え」の構造には農村社会の縦関係や封建制の伝統も現れているといった指摘もなされましたが、農業国や封建制の伝統のある国は他にもたくさんあるため、それらの国々との差異が説明できないという批判も挙がり、今後の研究課題として残りました。
【「受け売り」の文化】
明治時代の「文明開化」と西欧文化の徹底的な受容が、日本の歴史における最大の「受け売り」であることが指摘されました。「受け売り」のルーツとしては、仏教の「空」の思想や「無常」の思想、素朴な水墨画や茶道における「わび」の文化にみられる「否定の美学」、さらには季節性を重視した和歌の伝統や神社の遷宮にみられる「移ろいの美学」などが挙げられ、絵画の画像を見比べながら視覚的に日本と西欧との比較も行いました。また、日本人は自らの主張が揺らぎやすいとして、その原因は極度の「受け売り」文化が導く「思想の無構造」状態にあるとの指摘がなされました。
ディスカッションでは、大学の人文系学部軽視問題は「思想の無構造」に原因があるのではないかとの意見が出ました。西欧各国に較べて思想的・哲学的な伝統が少ないことから、「役に立つ学問」という目先の利益に飛びついているとして、人文系の学問を発達させることで「思想の無構造」から脱却するべき、というものです。日本人のイノベーション能力の欠如にも関連性がありそうだとの指摘もなされ、IT大国インドの急速な台頭によってアジアにおける日本の地位が相対的に低下していることが一例として挙がりました。しかし一方で、人文系学問の発達とイノベーション能力の相関性が実証できないといった反論や、それはむしろ企業の組織体質に問題があるという意見も出されました。また、日本の大手企業が近年実施している「ナンバーワン採用」(一芸に秀でた一点特化型の人材を採用する方法)を挙げて、日本でも革新的な取り組みがなされ始めているとの意見も挙がりましたが、それは欧米の模倣に過ぎないのではないか、との批判もなされました。
課題図書:『菊と刀』(ルース・ベネディクト)、『日本の思想』(丸山真男)
参考図書:『甘えの構造』(土居健郎)
歴史学者ユヴァル・ノア・ラリ氏の『サピエンス全史』(上下巻)及びその続編、"Homo deus -A brief histroy of tomorrow” を読む企画の第一弾として、読書会「サピエンス全史を読む」を開催しました。
一時期メディア等で話題となった『サピエンス全史』。
「読みたいと思いつつもまだ読んだことはない…」という方もいるのではないでしょうか。
この読書会ではそんな『サピエンス全史』とその続編を読破し、
・歴史学的・社会学的観点から捉えた「人間とは何か?」という議論から、現代における「日本人」の人類としてのポジションや特性を考察する
・西洋的観点からで捉えた人間観を理解した上で、東洋における人間観や、「東洋の中の日本人」をどう捉えることができるのか考察する
ことを主な目的としています。
それぞれが毎回の読書会で扱う範囲を読んできた上で、疑問点や考えたことを整理して読書会に臨む、という形式にしています。(英語版”Sapiens” に挑戦しているメンバーもいます!)
初回は『サピエンス全史』の第1部「認知革命」をテーマに、それぞれが考えたことを話す「フリートーク」に近い形でディスカッションを行いました。
「想像」と「虚構」をキーワードに、ホモ・サピエンスが繁栄した背景を考察したり、多様性とは何か?といったことについて話し合ったりしました。
『サピエンス全史』には今までの価値観を覆されるような衝撃的な内容も多く、大いに盛り上がる読書会となりました!
2016年5月28日
前回までの読書会の方式を改め、個人の興味をベースに調べたことの発表と質疑応答、そして教育分科会の報告を行いました。
この記事では、日本の「美」に焦点を当てた二人の発表を紹介します。
*上田有輝「日本的な『美』とは」
芸術全般に興味があり留学先でも美術史をかじる予定の身として、今回は「わび・さびの美学」などとよく言われるような日本の芸術について、調べたことを発表しました。
そもそも「芸術」という言葉は、 « Art » という西洋由来の概念に対して明治期に当てられた訳語です。従って、日本にの伝統的な「芸術」とは何かと問うには、その前にこの « Art » という西洋由来の概念がどのように日本で受容されたのか、そしてそれを日本の様々な伝統的な事柄に当てはめるとは一体どういうことなのかを考えることが不可欠です。そこでまずは、明治期のお雇い外国人フェノロサと共に日本の美術品を調査し、仏像や浮世絵などの日本文化を「芸術」という視点の下に捉え直していった岡倉天心の功績に焦点を当てました。
次に、「芸術」に近い意味を持つ日本の伝統的な言葉として「芸能」を挙げる考え方を紹介し、西欧近代的な芸術観と、日本の「芸能」概念を様々に比較しました。例えば、神に与えられた創造性を自由に発揮する存在としての「天才」というイメージと、たゆまぬ稽古による型の継承と人格全体の陶冶に重きを置く「名人」の考え方は、「芸術」と「芸能」の違いを象徴しているのではないか、というような話をしました。もちろん、多様な歴史と意味合いを持つ二つの概念を単純に対置して語るのは難しいことですが、日本の文化を考える一つの視点として、その後のディスカッションの話題につながったように思います。
最後には、日本的な美意識の一例として茶の湯の「わび」を取り上げ、その考え方と禅の関係性について探りました。どちらも言葉で捉えることはやはり難しく、実際に茶道や禅を実践してみたいと思わされましたが、少なくともその高い精神性を皆で考えることはできたのではないかと思います。
専門でもなんでもないことをメンバーに語るなんて、とても恐れ多いことに感じられましたが、何よりもまず自分自身にとってとても良い勉強になりました。そして、日本について勉強し、なんとか言葉にしてそれを語ろうとすれば、興味津々に耳を傾け、積極的に疑問を投げかけてくれるメンバーがいること。それが、JISSというコミュニティの大きな価値だと感じた時間でした。
*瀬戸口舞「池坊華道に見られる美の精神」
日本の華道の中では、最古の歴史を持つ「池坊華道」の体験型デモンストレーションとレクチャーを行いました。
池坊の歴史と時代によって変化してきた作品の型をそれぞれ説明して、最後には実際に生ける体験を行いました。
緊張感のある美を表現するために、切り落とされていくお花達に「もったいない」という声も挙がりました。
2016年4月23日
「現代日本ポップカルチャーの「日本らしさ」とは何か?」というテーマで本を読み、ディスカッションを行いました。海外での高い評価が報道され、「クールジャパン」政策による支援も進む今の日本のポップカルチャー、特にアニメやマンガをどう見るか考えるべく、今回取り上げた本は以下の三冊です。
谷川 建司, 呉 咏梅, 王 向華(編著)『サブカルで読むナショナリズム—可視化されるアイデンティティ』(青弓社)http://amzn.to/1Slt6BC
柴崎 信三『<日本らしさ>とは何か』(筑摩選書) http://amzn.to/1N4fRUs
アン・アリスン『菊とポケモン—グローバル化する日本の文化力』(新潮社)http://amzn.to/1UNvjN9
ポップカルチャーとはただ流行や人気を尺度に測れるようなものではなく、日本と世界の社会・文化状況をめぐる様々な要因が絡み合って動いているものです。そこに、複雑な形で社会が映しだされているとも言えるかもしれません。
今回の議論を通して、日本のポップカルチャーを、政治・経済的要因から分析したり、その文化的背景を考えたり、海外での受容の過程を学んだりと、幅広い切り口からテーマに当たることができたのではないかと思います。
特に話題になったのが、「クールジャパン」という言葉は誰のためのものなのだろう?という点でした。本当に海外で、日本のアニメやマンガは「クール・ジャパン」なものとして受け止められうるのでしょうか?世界各地で様々に展開するアニメ・マンガ文化を大急ぎで「日本のもの」と括ろうとするある意味ナショナリスティックな振る舞いが、どれだけの効果を持っているのか。この点は、留学先の各地で海外の学生たちと語り合う中で、ぜひ検証してみたいなと思うところです。
ここで紹介したもの以外にも様々なテーマについて勉強会を開催してきました。
第1回(5月18日):「日本人とは何か?」
船曳 建夫『「日本人論」再考』(講談社学術文庫) http://amzn.to/1OxqgsE
阿満 利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』(ちくま新書)http://amzn.to/1Nwv7PY
加藤周一『日本人とは何か』(講談社学術文庫)http://amzn.to/1XwuZSL
第4回(6月13日):教育分科会
日本の教育格差の現状と発生要因、近年の学習指導要領改正の帰結、プログラミング/IT教育、英語/グローバル教育、日本の教育政策の特徴や大学入試改革と大学教育が抱える諸課題について文科省資料や書籍を基にリサーチ。
第5回(6月20日):経済・ビジネス分科会 テーマは日本の技術経営、モノづくり経営、対馬市の地方創生政策。
第6回(6月27日):政治分科会 テーマはマイナス金利政策の妥当性、福祉レジーム論による日本の社会保障政策分析、労働生産性向上政策(アベノミクス第三の矢)の国際比較、安全保障政策における「切れ目のない体制」の整備。
第7回(7月3日):社会分科会 「移民」をテーマに、将来移民が日本に移住する仮定についての議論と、その仮定を設定した上で移民が来る前に住んでいた人々がいかなる対応をすべきかを議論。
第2回(5月5日):「超高齢社会日本」における地方創成を考える~群馬県南牧村の未来
第3回:日本人の美意識・感性を日本美術に探る
第4回(5月22日):「日本の宗教」を考える/伊勢神宮の成り立ちと発展〜観光とサステイナビリティ〜
課題図書:『日本宗教史』(末木文美士)
課題論文:伊勢神宮と観光 http://www.sjc.or.jp/kikanshi/vol102_4.pdf
伊勢神宮とサステイナビリティ
http://www.dir.co.jp/research/report/esg/esg-report/20160624_011010.pdf
第3回(5月20日):「原発事故後の福島を知る」 原発避難とその影響、福島の食への風評被害と東日本大震災と報道をテーマに情報共有し、議論しました。
第4回(7月10日):「日本のLGBTQ文化」 日本におけるLGBTQ文化の歴史、同性婚を巡る現状、日本の「恥の文化」について学びました。
第1回(4月3日): 「原発について考える」
東日本大震災をきっかけに起きた原発事故について、ディベートという形式を用いて原発に対する見識を深めることを試みました。
第2回(4月18日):「ジェンダーについて考える」
日本におけるジェンダーギャップ指数に低下やジェンダー問題への関心の高まりを踏まえ、身の回りのジェンダー差別について議論し、それらの課題を解決しうる政策立案を行いました。
第3回(5月9日):「宗教について考える」
靖国問題などの宗教に関わる事例について考えた後、日本人の宗教観が日常生活に及ぼす影響や、宗教的タブーに触れた経験やその対処法などについて議論しました。
第4回(6月5日):「世界と戦っている日本企業」
日本経済の歴史などについて学んだ後、海外で活躍している日本企業について、なぜ日本企業は成功したのか、企業は今後どうしていくべきかについて議論しました。
過去の勉強会の様子