【2020年開催】サンゴ礁の研究室をオンラインで訪ねてみよう!について(記録)

開催日時

2020年11月22日(日)16:15〜17:45(日本サンゴ礁学会第23回大会オンライン企画②)

質問にご回答いただいた先生方

沿岸生態学・生態系モデリング】中村 隆志 先生(東京工業大学 准教授)

文化人類学・民俗学】高橋 そよ 先生(琉球大学 准教授)

サンゴの生物学】日高 道雄 先生(琉球大学 名誉教授)

【海洋生物学】安田 仁奈 先生(宮崎大学 准教授)

【サンゴ礁地球環境学】渡邊 剛 先生(北海道大学 講師)

参加者からの質問とそれに対する解答

サンゴの死骸や貝殻を、海(砂浜等で)たくさん拾う方法をを教えてください。

 私も良く貝殻や石を拾っていますが、台風の次の日などは、沖から砂が打ち上げられてきますので(逆に砂が運び去られてしまうこともありますが)、台風の次の日とかに砂浜に行くと、新しい貝殻などに出会えるかもしれません。ただし、台風直後は危険ですので、浜に出るのは台風が通りすぎて、十分に波風が治まった後にしましょう。(中村)

※沖縄県など、砂浜に打ち上がって死んでいるものでもサンゴなどを持ち帰ることが禁止されている場所もありますので、事前によく調べるようにしましょう。

砂浜で見つかるサンゴはどうして白いのですか?どれくらいの時間で白くなりますか?

 サンゴの骨は、炭酸カルシウムでできているため、もともと白いです。生きたサンゴでは骨の上に生きた部分(組織)がのっているのですが、サンゴが死ぬと骨だけになるので白くなります。サンゴが死んでも、死んだ組織が分解されて、完全に白くなるまでしばらく時間がかかります(おそらく数日間)。もっと時間がたつと、骨格に藻類がついて茶色っぽくなります。さらに骨格が壊れて、海中を転がっていく間に、砂浜で見るような白いサンゴに変わります。(日高)

 サンゴは生きているときは、茶色っぽい色をしていますが(厳密には主に褐虫藻の色)、骨格は炭酸カルシウムという成分でできていて、死んで骨だけになると白くなります。ただ、海の中ではサンゴが死んた骨格には藻が生えてしまい、あまり白っぽく見えないのですが、骨格が砂浜に打ち上げられたりすると、表面が波や雨風に洗われてきれいな白色になります。(中村)

サンゴは種がないのに、どのように生えるのか、知りたいです。

 サンゴは植物のような形をしていますが動物です。種は作りませんが、他の動物と同じように卵を産みます。卵からかえった幼生は数日から2週間程度海をただよい、適当な岩場などにくっついて、分裂しつつ骨格を造りながら大きくなります。また、樹枝状のサンゴなどは、折れた枝などからも大きくなっていくことができます。(中村)

 サンゴは、動物なので、卵と精子を作ります。卵と精子が受精すると、幼生になり、幼生が海底にくっついて赤ちゃんサンゴが誕生します。サンゴによっては体の一部が破片になっても、それが生きのびて新しいサンゴを作ることもあります。(日高)

サンゴは何を食べてますか?口はありますか?

 サンゴは動物プランクトンなどを捕まえて食べます。サンゴのポリプはイソギンチャクみたいに口が一つあり、その周りに触手(手のようなもの)が生えています。触手の先端にある毒針(刺胞と言います)でプランクトンを捕まえ、口に運んで食べます。(日高)

サンゴポリプはどうやって大きい魚を食べるの?

 サンゴが魚を食べるのをテレビで見たのでしょうか?私は、サンゴがゴカイや動物プランクトンを食べるのは見たことがあります。その場合、触手の刺胞(小さな毒針)で毒を注射して動けなくしたあと、口の方に運んで食べます。(日高)

サンゴはどうやって成長するのですか?

 サンゴの幼生が岩にくっついた後は、サンゴが分裂しながら、下に炭酸カルシウムの骨格を造って成長していきます。形も色々な形があって、木の枝のような形(樹枝状)や花束のように枝が広がった形(コリンボース状)、平な円盤のような形(テーブル状)、石ころや岩のような形(塊状)、コケのように岩に張り付いているもの(被覆状)など、色々な形に成長していきます。くわしいことは分かっていませんが、サンゴの形はおそらくサンゴのとっている戦略によってきまってくるものと思います。例えば、サンゴの成長には太陽の光が重要ですが、樹枝状はより少ない材料でより高いところへ成長できる形状と言えます。また、台風などで一部砂に埋もれてしまっても、全部が埋まらないようにするための生き残り戦略かもしれません。コリンボース状や枝テーブル状は、太陽の光を浴びやすくすることや、落ちてくる餌をキャッチしやすくするような戦略かもしれません。塊状や被覆状は、波や流れに対して頑丈な構造と言えます。(中村)

多くのサンゴは、たくさんのポリプがつながっている群体を作ります。群体サンゴでは、新しいポリプが芽を出すようにできて、ポリプの数が増えます。ポリプは自分で作った骨格の上にのっているのですが、骨格を作り続けますので、群体の骨格もどんどん大きくなります。
 クサビライシのような単体サンゴ(1つのポリプが1つのサンゴを作っている)では、ポリプもポリプの作る骨格も成長して、大きくなります。(マルクサビライシでは直径25 cm以上になるものもあるそうです)(日高)

一番生命力のある強いサンゴはなんですか?

 クサビライシの仲間は、一見死んだように見えても、ほんの少し生きた組織が残っているとそこからポリプが再生します。まるで不死身のようで、強いサンゴです。(日高)

サンゴには何故毒があるのですか?

 サンゴは刺胞という小さな毒針をもっています。口の周りに生えている触手の先端に刺胞がたくさんあります。またサンゴのポリプの中(おなかの中)には、たくさんの刺胞をもつひも(隔膜糸)がとぐろを巻いています。これらの刺胞は、動物プランクトンなどを捕まえて食べるときや、他のサンゴなどとけんかをするときに使います。刺胞の中には毒があり、刺胞から糸が飛び出るとプランクトンなどを貫通し、毒を注入します。(日高)

サンゴはなぜカラフルなのですか。

 サンゴがなぜカラフルなのかについては、いくつかの説があります。(1)体内に共生する褐虫藻の色(褐色)を草食性の魚にとって目立たないように、緑や青の色でカムフラージュし、草食魚に食べられないようにする、(2)強すぎる光から褐虫藻を守るため、(3)動物プランクトンをおびきよせて食べるため、(4)褐虫藻をひきよせるため(多くのサンゴでは、着生したポリプが海水中から共生する褐虫藻を取り込むことが必要です)。これらの説を確かめるため研究が続けられています。(日高)

サンゴの色はどうやって決まるの?

 サンゴの色のうち、褐色の色は体内に共生する褐虫藻の色です。それ以外の緑、青、赤、ピンクなどの色はサンゴの色素によります。サンゴの色は、シアン、緑、赤の蛍光色素と、青や紫の色素をそれぞれどのくらいもつかによって決まります。ポリプの場所によっても異なる色を示すことがあります。サンゴの色は、遺伝的に決まっていると思われますが、色の強さが光の強さなど環境によって変化することもあります。(日高)

サンゴの寿命って?(一番短いのはどのくらい? 長いのは何年?)

 岩のような形(塊状)のサンゴでは、1年にどれくらい成長するか(成長速度)とサンゴ群体の大きさからおよその年齢を推定することができます。塊状のハマサンゴでは、成長速度は1 cm/年程度ですので、高さ10 mのサンゴはほぼ1000年生きてきたことになります。実際に高さ12 mのハマサンゴが見つかっています。一方、ハナヤサイサンゴでは群体の大きさはせいぜい直径50 cmくらいにしかなりません。このようなサンゴの寿命は短いと思われます。
 深海に棲むタンパク質性の固い骨格をもつクロサンゴ(サンゴ礁をつくるサンゴとは異なる)では、1年に1 mmの数十分の一しか成長せず、大きなものでは年齢が4150年と推定されました。(日高)

サンゴを無重力下に連れていったとしたらどういう成長をみせると思いますか?

 面白い質問ですね。種によると思いますが、ミドリイシなど成長に光を必要とするものは、基本的には光のある方向に、ただし、まっすぐのびたら光を受けられないので、少し斜めにジグザクしながら枝が伸びていくのではないかと想像します。ただし、水の中を回転しながらふわふわ漂っている様な状態なら、全方向から光を浴びる可能性がありますので、放射状に枝が伸びてくのではないかと想像します。(中村)

サンゴは少しの環境の変化で、サンゴ自身がどう対応するのか知りたいです。

 様々な環境の変化があり、サンゴはそれらに対応するために様々な行動を見せます。例えば、近年の地球温暖化によって、サンゴが共生してる褐虫藻を放出してしまう白化現象が問題になっていますが、これもサンゴの高温ストレスに対する応答と考えられます。サンゴは褐虫藻を細胞内に取り込み、褐虫藻の光合成で得られたエネルギーの一部を受け取って生活しています。このようにしてサンゴは莫大なエネルギー源を得ることに成功したのですが、それにはリスクもつきものです。褐虫藻もふくめ植物は光合成を行う際に、活性酸素という有害な物質も放出します。サンゴは細胞内に褐虫藻を抱え込んでいるため、活性酸素によるダメージをもろに受けてしまうことになりますので、体内の活性酸素濃度が高くなりすぎないように、増えすぎた褐虫藻は適宜放出し、細胞内の褐虫藻密度を適切にコントロールしていると考えられます。高水温でかつ日中の強い光を浴びた時には、褐虫藻が出す活性酸素の量が増えることが知られており、それによってサンゴ体内の活性酸素濃度が高まると考えられます。活性酸素濃度の高い状態が続くと即死につながりますので、活性酸素の放出源である褐虫藻を体内から排出し、褐虫藻密度を減らすことで体内の活性酸素濃度を下げ、延命を諮っていると考えられます。ただし、これはあくまで緊急避難的な処置ですので、この状態が長く続くとエネルギー源を失ったことで餓死してしまいます。(あくまで個人の仮説ですので、間違っているかもしれません)
 他にも、赤土などが覆いかぶさってきたときにはサンゴは粘液を放出してからめとって身を守ったり、海洋酸性化によって炭酸カルシウムの骨格が造りにくい状況でも、石灰化する近傍の液体のpHを能動的に高めて高い石灰化速度を維持するなど、環境変化に対応するための様々な仕組みがあります。
 ただし、最近は、そのような仕組みでも対応しきれないような変化が起きており、色々な場所でサンゴ群集がいなくなっていっていることについて、真剣に考えていかなければなりません。(中村)

サンゴと褐虫藻の関係について教えてほしいです。

 褐虫藻は渦鞭毛藻という植物プランクトンの仲間で、海を漂っている生活していますが、サンゴに取り込まれることによって、サンゴの細胞内で生きているものもあります。サンゴは動物(イソギンチャクのなかま)ですが、細胞内に取り込んだ褐虫藻が光合成をすることで、その光合成によって作られたエネルギーの一部をもらって生活しています。サンゴ種や研究者によって見積もりはまちまちですが、サンゴが生活する上でのエネルギーの8割程度を褐虫藻からの光合成産物に頼っていると言われています。一方、サンゴ礁があるような熱帯/亜熱帯の海では、植物の成長に欠かせない栄養塩と呼ばれる養分が常に不足している状態なので、海の中で褐虫藻が増えることは厳しいですが、サンゴの体内にはアンモニウムなどの老廃物が多くあり、それが褐虫藻の養分になるので、サンゴの中にいることで、褐虫藻はサンゴ礁域の植物プランクトンにしては高密度に生息することが可能となっています。このように、サンゴと褐虫藻はお互いがお互いを助け合って生きていく関係であり、このことを共生関係と言います。(中村)

 サンゴは、褐虫藻が光合成をしてつくった栄養分の多くをもらいます。褐虫藻は、他の動物に食べられたりしない安全なすみかを得るだけでなく、サンゴの排出物を栄養として利用します。サンゴの骨格は他の生物の棲み場所を作りだし、サンゴの分泌する粘液は他の生物の食物となります。このようにサンゴが他のサンゴ礁生物を支えることができるのも、褐虫藻との共生関係のおかげです。ただ環境が悪くなると、この共生関係がこわれてサンゴは白化してしまいます。(日高)

高温に強い褐虫藻ってどんな種類の褐虫藻ですか?

 褐虫藻の分類はまだ研究途上で、完全ではありません。昔は、9つのグループに分けられており、クレードDと呼ばれるグループの褐虫藻は高温に強いと考えられていました。その後、褐虫藻がもっと細かく分類されるようになって、他のグループにも高温に強い褐虫藻がいることが分かってきました。中でも、海水温の高いペルシャ湾のサンゴに共生する褐虫藻(クレードCの中のC3というサブグループに属し、Symbiodinium thermophilumと名付けられた褐虫藻)が高温に強いことで有名です。(日高)

地球温暖化とサンゴ礁はどんな関係がありますか?

 サンゴは熱帯・亜熱帯の生き物ですが、なぜか高水温に弱く、高水温ストレスで白化現象を起こし、場合によっては死んでしまいます。そのため、熱帯・亜熱帯域のサンゴ群集は、地球温暖化が進むと死んでしまうかもしれません。一方で、大方のサンゴは大人になると岩にくっついていて動けませんが、幼生のうちは海を漂って新しい場所にたどり着くことが出来ます。サンゴのいくつかの種は、すでに温暖化に伴ってより緯度の高い涼しい方へ移動していることが確認されています。(中村)

主催:日本サンゴ礁学会教育普及啓発委員会

このイベントは日本サンゴ礁学会第24回大会中に行われます。
お問い合わせ:
coralreefseducationoutreachgmail.com
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