サンゴ礁地質学の研究をしています。日本だと沖縄や奄美の島々は、島の一部、あるいは全てが、昔、海の中にあったサンゴ礁が陸に上がってできています。そのため、何十万年も前のサンゴや貝の化石が身近にあります。そして、年代の違うサンゴ礁がそれぞれ別々の段に分れて階段状になったサンゴ礁段丘が広がっています。もともと海の中で生きていたサンゴや貝、その集まりであるサンゴ礁が、いつ、どのように生きて、それが隆起して陸に上がり今に至るのか?その過程を調べると、過去に起きた大地震のことや、海面の位置と気候がどう変化してきたのか、地球や生命の歴史の一端を復元することができます。
もともと研究者を目指していた訳ではありません。小学生の頃から「なぜ?」を考えたり、理屈を説明してくれる理科が好きでした。大学進学時には一番たくさんの謎が残っていそうな地学を選びました。そこで出合った恩師に“ダマされ”たことをきっかけに研究者を志しました。
「このサンゴから世界ではじめての年代が出るかもしれない!」と研究に誘ってもらったのですが、いざ測ってみると予想と全く違う結果に…はじめはダマされたと思いました。しかし考察を進めると、宇宙からの放射線が関係していることが分かり、研究対象が目の前のサンゴの化石から宇宙にまで広がったのです。そこで研究の面白さに魅了され、今に至ります。
サンゴ礁の美しさは言うまでもありません。その美しさの源泉は、多種・多様な生命がサンゴ礁という狭い空間にひしめき合い、その生命がみな関係を持ってつながっていることです。サンゴ礁地質学では、ハンマーやルーペを持って崖を登ることから、大型の調査船で2ヶ月海の上で過ごしたり、船酔いと戦いながら(負けてしまったのですが…)漁船に乗って水中ロボットを操作し、ボンベを背負って水深30mまでダイビング、そして実験室では白衣を着てガラス器具を使った実験と、サンゴ礁を中心にして様々な活動をしてきました。どんな関わり方もできる、多様性を受け入れてくれるのがサンゴ礁の魅力だと思います。
普段生活しているエリアから少し離れた違う場所に行ってみてください。自転車で少し遠出するのも良いでしょう。そこでいつもと違う景色や音、風や匂いを感じてください。そして、ぜひサンゴ礁にも足を運んでください。五感をフル活用して感じたコトが、将来、芽を出す皆さんの可能性の大切な栄養になると思います。