私たちの暮らしは、医療、農業、環境保全、日用品など、あらゆる場面で「材料」に支えられています。しかし、これらの多くは石油由来の化学物質に依存しており、環境負荷や健康への影響が社会的な課題となっています。さらに、気候変動や資源枯渇が進む中で、持続可能な社会を実現するためには、安全で環境にやさしく、再生可能な資源からつくる新しい材料が求められています。一方で、天然資源には本来、抗菌性・生体適合性・環境浄化能力など、社会や健康に役立つ優れた機能が備わっています。しかし、そのままでは使いにくかったり、性能が十分に引き出せなかったりするため、産業利用が進んでいないのが現状です。こうした課題を解決するために必要なのが、天然資源の価値を科学の力で引き出し、社会に役立つ材料へと変換する研究です。井澤研究室では、キチン・キトサンなどの天然由来バイオマスを分子レベルから理解し、機能を最大限に活かす“ものづくり”を通して、医療の安全性向上、農業の持続性、環境浄化など、社会と健康の未来に貢献する材料の創出に取り組んでいます。
キチン・キトサン科学の深化と進化
キチン・キトサンは、カニ殻や昆虫の外皮から得られる天然高分子です。キチンは、N-アセチルグルコサミンがβ-1,4結合で直鎖状に連なった繰り返し構造を有し、そのN-アセチル基を加水分解するとキトサンが得られます。しかし、加水分解は完全には進行しないので、市販されているキトサンには5~20%程度アセチル基が残存しています。キチン・キトサンに特有の科学は、このアセチル基にあり、アセチル化度で溶解性や粘度などが大きく変化します。また、我々はキトサンのアミノ基をグアニジル化したグアニジル化キトサンの合成方法を確立し、アセチル化度と分子量の制御により、水溶性グアニジル化キトサンが得られることを発見しました。キチン・キトサンの科学は、長年の研究によりやりつくされているように思えますが、注意深く実験データと向き合うことで、まだまだ新しい発見に出会います。基礎研究を重視し、キチン・キトサン科学の深化を進化につなげるべく日々研究を行っております。また、その知見を活かしてキチン・キトサンの産業利用に貢献する材料研究を行っています。
生体高分子を用いるドラッグデリバリーシステムの開発
ガンのような難治性疾患の治療や患者のQOL (Quality of Life) 向上を目的に、薬物を目的のタイミングで目的の場所に届ける『ドラッグデリバリーシステム(DDS)』の開発が求められています。当研究グループでは、本学獣医学科や医学部と連携しながら、キチン・キトサンやシクロデキストリンのような生体高分子を素材に用いて、新しいDDS用の開発に取り組んでいます。
宮崎県の特色を活かした材料の開発
宮崎県に根付いた産業を活かした研究シーズを発掘することで、研究を通した地域貢献を目指しています。例えば、宮崎県はブロイラーなど食肉用の鶏の生産が日本一で、鶏の鶏冠(トサカ)には、高付加価値なヒアルロン酸が含まれています。このような地域に根ざした素材を活用したものづくりを行っています。