沿岸部の街では比較的規模の大きい大船渡市。宿をこの場所に取っていた私は、山間部から街に向けて暗い国道を進みます。
周囲に住宅や店舗が増え、途中まではそこが街である事が明確に分かります。ところがある小さな橋を越えると、突如周りが真っ暗になってしまいました。建物が消え、そこが津波の被災地である事に気がつかされるのです。
さらに先へ進むと、ビジネスホテルやスーパーなどの真新しい建物が見えてきました。地震の後、新たに商業エリアの再構築が進んでいるエリアのようです。特別大きく見える”ルートイン大船渡”ホテルや、巨大なショッピングモールと勘違いするほどの”スーパーマイヤ”が非常に印象的です。
ここへ至るまでに様々な風景を見てきたので、私にはそこが「かつてに何かがあった場所」である事を容易に想像する事が出来ます。私個人の気持ちですが、どうしても誰かの家であった場所や、誰かを踏んでいるような気がして心苦しさが残ります。
【Google map空撮写真より参照】
今のところGoogle mapやストリートビューは新しい写真や、古い写真が混在しています。現場に立ちながら写真を見ると、どんな形で復興が進んでいるか良く分かるのです。
車で走り出してから豪雨が続いていた岩手。朝目覚めると朝から汗ばむ程の陽気です。今回宿泊したのは”大船渡プラザホテル”。ルートインでも良いかと思ったのですが、何となく魅かれるものがあり直感で選択しました。
真新しいホテルの建物にふと疑問を持った私。寝る前にベッドの上でホテル名を検索してみると、古い毎日新聞の切り抜きを発見しました。タイトルは『私たちの職場必ず再建する』。
記事によると、元々存在したホテルの建物が浸水し、一時的に再開後の再雇用前提で従業員の方達を解雇したそうです。しかしながら元従業員の皆さんで津波後のホテルを片付け、その後古い建物で営業を再開したとのこと。そして2016年の3月12日には、現在の新しい建物でリニューアルオープンを果たしています。
建物が新しいので気持ちが良いのはもちろんですが、若い方を中心に従業員の方の対応が素晴らしく、非常に好印象を持ちました。考え過ぎかもしれませんが、この場所を盛り立てていくぞ!という強い気持ちを感じたのです。
ホテルの表玄関を出ると、すぐ目の前がロータリーになっていました。ロータリーから一段上がった場所にあるのが”BRT(Bus Rapid Transit バス高速輸送システム)”の大船渡駅です。元々鉄道が通っていた場所ですが、津波で駅舎や線路が流され、専用の道路を走るバスによる復旧がなされています。
真新しい”駅”ですが、残念ながら鉄道の駅舎のような立派な建物ではなく、待合室はあるものの簡易の域を超えない水準です。過去の駅舎の写真と比較すると、少々寂しい印象を持ちます。
時刻表を見ると1時間に1〜2本の運行。バス=本数が多いと勘違いしていましたが、運行数は最低限度に抑えられているように見えます。
駅側から大船渡プラザホテルを眺めます。周囲では新たな建物の建設が進んでおり、この場所を中心として復興整備を進めている事が良く分かります。
公共施設らしき建設現場。震災から6年が経過し次のフェーズに進む街造り。何十年もかけて作り上げた街を、再び立ち上げるのは大変な苦労だと思います。公共施設は今後も順調に復旧していくでしょうが、”市民側”の街並みをどのようにやり直してゆくかが、今後のキーになると感じます。
周囲を眺めているとすぐに気がつくのは「意外にも山が多い街」である事です。平地はそこまで多くなく、少し進むと山にぶつかるような地形になっています。
手前の平地には新しい建物が目立ちますが、崖の上には築年数が経過した建物が目立ちます。普段であればわずかな高低差に見えますが、この差が状況を分けた事が分かります。
テレビや新聞を見ていると”街全体が崩壊した”というニュアンスが先行しがちですが、現場を見ると決してそのような事実はありません。
同じ街なのに、一方の家が崩壊し、一方は残ったといった事が実際に起こっているのを見ると、住民の方の心理的な負担がとても大きいのではないでしょうか。自然現象であって誰が悪いわけでもないのに、私であれば罪悪感を抱いてしまいそうです。
復興という目に見える回復は今後も進んでいくでしょうが、見えない部分のケアやフォローも決して忘れてはいけないと思います。
先のホテル側に戻ると、キャッセン大船渡という商業施設でイベントが始まろうとしていました。現地の若い人たちの元気な声を聞くと、こちらまで元気が湧いてきます。
「さんま詰め放題」や塩焼きを提供されていたので本当は購入したいところですが、レンタカーが大変な事になりそうなので断念。生鮮品は東京でも美味しくいただけますが、”臨場感や面白さ”は地場に行かなければ伝わってきません。
残念ながら時間の都合上ここで移動する事になりましたが、イベントを見る限り大船渡市には海鮮の他にも沢山の資源がありそうです。
これまで私の中では(失礼ながら)大船渡市は地味な印象でしたが、行ってみて「大きな街だ!」と大変驚きました。インターネットやマスコミの情報では分からない事がまだまだ沢山あります。地震のネガティブな印象も強かったのですが、来てみれば”物事が動いている事”が良く分かります。
国道45号線沿いの街ではどこでも同じ事を思いましたが、『今後も定期的に訪れて見続けたい」というのが私の素直な今の気持ちです。
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