単一細胞の温度を
測る & 制御する
測る & 制御する
温度は細胞の多くの反応に影響することが知られています。たとえば温度が高くなると細胞分裂の周期は短くなり、心筋細胞の拍動は早くなります。ここでの温度とは、溶液全体の温度など、細胞にとって「大きな温度」です。
一方で、私たちは細胞内部の局所的な温度、「小さな温度」に注目して研究しています。そのために、① 細胞の局所的な温度を測定する方法と、② 細胞に局所的な温度変化を与える手法を開発してきました。
私たちは蛍光色素の明るさ(蛍光強度)が温度によって変化する性質を利用して、蛍光顕微鏡観察から温度を測定しています。温度感受性のある蛍光色素をガラス微小管につめて温度を測るミクロ温度計(図1)を開発し[1]、HeLa細胞1つに接触させて、細胞内Ca2+上昇にともなう1 ℃の微小な温度上昇を正確に測定することに成功しています[2]。また、蛍光強度が温度以外の環境因子(pHやイオン強度など)に影響しないナノ温度計粒子も開発しました(図2)[3]。
図1. ミクロ温度計. ガラス管に蛍光色素を封入.
図2. 細胞の局所温度を測る温度計. (左) ミクロ温度計. ガラス管に蛍光色素を封入.
私たちは赤外光レーザーを金属粒子に集光し、局所空間(数10マイクロメートル)の温度変化をすばやく(数10ミリ秒以内)生み出す方法(ミクロヒーター)を開発しました(図3)[1]。この手法でHeLa細胞に熱パルス(2秒間の温度上昇)を与えたところ、わずか0.2 ℃の温度変化で細胞内Ca2+上昇が起こることを見つけました[4]。最近では、水に直接吸収される波長の赤外光レーザーを用いて、心筋細胞に熱パルスを与え、収縮・拍動させることにも成功しています[5]。
図3. ミクロヒーター
熱パルスを与えた際のHeLa細胞内Ca2+の上昇の様子。左中央の明るい輝点は熱源、右上の“Open”はレーザー照射時を示す。
熱パルスを与えた際のラット心筋細胞の収縮。下にあらわれる黒点は、水に吸収される赤外レーザーの集光点。スケールバーは20 μm。
ナノ温度計がエンドソームに包まれて細胞内を輸送されている様子。赤外レーザーで加熱すると、蛍光強度が下がり、移動速度は上昇する。スケールバーは5 μm。
①と②を組み合わせて、細胞内のナノ温度計を包んだ顆粒(エンドソーム)の移動速度が、熱パルスによって加速することも見つけています(細胞内を歩くナノ温度計)[3]。
このように、局所的な温度を測定・制御することで、細胞の新しい発熱現象や温度感受性を明らかにしてきました。私たちの研究を通して、「細胞が局所的な温度変化をいかに生み出し、感じて、有効に利用しているか」の実験的証拠が、ひとつひとつ、明らかになりつつあります。
参考文献
[1] Zeeb, V. et al., J. Neurosci. Meth. 139, 69-77 (2004) [article]
[2] Suzuki, M. et al., Biophys. J. 92, L46-L48 (2007) [article]
[3] Oyama, K. et al., Lab Chip 12, 1591-1593 (2012) [article]
[4] Tseeb, V. et al., HFSP J. 3, 117-123 (2009) [article]
[5] Oyama, K. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 417, 607-612 (2012) [article]