単篇





  梅雨明け



じう じう 湧いては

濡れつたう光

その肌から吐息された

充溢のきらめき(しょっぱ、そうだ)

触れられなくとも 真実の

影すら匂い立たせて 君は

いる アイスを齧って

いる(ソーダ、西に梅雨明け)

吸い齧って

いる 居る 畳を射る汗

君という輪郭をなめらかに

照らして 降りつづく


未来 とは

置き去られた棒きれに

触れうるこの手

噛み潰された先端に

饐えゆく粘り気「甘、しょっぱそうだ」

日に日に高まる室温に

うんざりアイスを齧って

いた 君は東へ

梅雨と一緒に明けていく


さよなら そして


じう じう 湧いては

群れつ歌う蝉





​  てのひらのか



ぱち

泡の弾けたような

音 瞬間

手のひらで蚊が

死んで

血を流した

血を

腹いっぱい飲み終えた

充足の痕 からっぽな

死だけが手に摺りつき

むだ、と見えた

その血は


この皮膚にべにを挿したのは


お前か 手のひらの蚊

びいびい鳴きながら

飢えさまようだけが

飢えをしのいでは飢え

腹を満たせば膨らむだけが

命だったのか 言え

どうしてお前は

俺の血を流しているのか

俺以外の死から

噴きだした俺の血が

虫ケラほどの役にも立たないで

垂れ流されたのは


(皮膚にべに

 掻い掻くあかい蚊苦)


だれもかも

平たい無駄に押し均されること

泡の弾けたような

瞬間に染めあがった死生観

手のひらで蚊が

謐に証して





  クレヨン



あお——したたりおちて・あお)お)お)お)

空で呼びあう狼たちの深い喉の青


地を蹴って馳せた蹄から滾滾々々と鳴る血の赤


蜜蜂の翅の一挙に躍れば

くすぐらる風は身悶え笑って

野を耀い立つ音は黄いろ


草木は雨後 蒸れた子音で息をする


ペガサスの毛並みを照るE7sus4/A紫


平々凡々な土筆をからかう子猫が

爪を引っ込めている桃色な手





  走り書き



さよならと書き捨てた

首筋を切る風みたいな

筆跡で

 |

 伝えるなんていらない文字を

 切りつけるだけ

 そして傷は黒ずむだけ

      |

何年経っても瘡蓋

毟れば聞こえるさよなら

新鮮な血を噴く

まだここにわたしが居た

ノートの平原から

閉じた空をずっと見ていた

        |

 もう風は微温いだろうか

 執り直したペンでなにを書くのか

 それでも

 切れ 切られるべきを見て

 |  |

 |  与えられた言葉に

 |  当て嵌めた心に

 |  させられる自死とか

 |  死にきれるかよ

 |

 伝えるなんていらない

 言葉にはしない文字を

 切りつけるだけ

 意味は知られず意義は見出されず

 ノートへ身を投げ遥か死後

 わたしなど忘れた空を開いてくれる朝が

 訪れるまでさよなら

      |

      首筋を切る風みたいな





  Doer



I do something

Absorbed in it only

Not saying what will emerge

Not even saying what emerged 

I do at this point

They say

"You are useless" 

"You are helpless" 

I am just a doer

have only the act itself


I do something

No one wants it 

Hence it isn't snatched

—— unseen

—— unreceived

—— unretrieved

Since no one remembers

I am Time

I live in now

Time is a futile doer

Even if some impose role and status on me

These will pass

I do something as a snowflake

No one is able to call its beauty 


As if nonexistence, I existed

I am writing a poem