興生寺副住職の田村大地です。4月から新年度が始まりました。興生寺の桜も、無事に満開を迎え春の到来を感じております。
さて、私は今年の1月末から3月末までの2ヶ月間、京都にある本山智積院にて「加行(けぎょう)」というものを行っておりました。加行とは、総本山智積院(京都)や成田山新勝寺(千葉)で行われる修行のことで、僧侶となるために不可欠なものです。修行期間の2ヶ月間は、外部との連絡が一切禁じられるほか(携帯電話は没収されます…)、食事も厳しく制限され、肉や魚は食べられない精進料理のみを口にすることになります。また、修行の関係から朝早く起きなければならず、遅くとも深夜2時ごろに起床しなければなりません。とても苦しい修行ではありましたが、その分、得られるものも多かったと感じています。そこで今回は加行について簡単にご紹介させていただきます。
加行とは、正式名称を四度加行(しどけぎょう)と言い、僧侶が行う修行のことです。加行を行うものは「行者(ぎょうじゃ)」と呼ばれ、前述の通りの生活をするほか、1日に3回、行(ぎょう)と呼ばれる作法を行います。この行は全部で5種類あり、約2か月間の中で、そのすべてを修することになります。5種類の行の内容としては以下の通りです。
①礼拝行(らいはいぎょう)
我々が生きている中で積み上げてしまった罪を仏様に懺悔し、心身を清らかにすることを目的とする行です。具体的な内容としては、礼拝の文言を唱えながら五体投地(ごたいとうち)と呼ばれる所作を行います。五体投地とは両手・両膝・額(五体)を地面に投げ伏して行う礼拝の作法で、仏教における最上の敬意を表します。
②十八道(じゅうはちどう)
如意輪観音(にょいりんかんのん)と呼ばれる仏様を拝む作法について学びます。如意輪観音は煩悩を打ち砕き、様々な願いを叶えてくれるとされる仏様です。具体的には、十八の作法と真言(しんごん)を中心に学びます。これらは印明(いんみょう)と呼ばれ、仏様を拝むうえで欠かせないものとなっています。ここで学んだ印明をもとに、後述の③④⑤の行を学ぶ必要があるため、十八道は加行における基礎学習とも言えるでしょう。
③金剛界(こんごうかい)
金剛界では大日如来(だいにちにょらい)という、真言宗の御本尊様を拝みます。ここで拝む大日如来は、行者の煩悩を排し、人間の中に本来備わっている菩提心(ぼだいしん。簡単に申し上げますと、清く美しい心の事です。)を目覚めさせてくれるとされています。十八道と同じように、作法と真言を中心に行を行いますが、自分の心を見つめなおし、その中にある菩提心に気づくことが重視されます。
④胎蔵界(たいぞうかい)
金剛界と同じように大日如来を拝みます。作法と真言を中心に学ぶことは、十八道や金剛界と共通していますが、重視するポイントが異なります。胎蔵界では金剛界で学んだ自分の菩提心を育て、慈悲の心をもって、他の人に伝えていくことを考えることが重要視されるのです。
⑤不動護摩(ふどうごま)
不動明王(ふどうみょうおう)と呼ばれる、怒った顔の仏様を拝みます。不動明王は怒った顔をしていますが、人々の迷いの心を打ち砕き、その願いをかなえるとされる大変慈悲深い仏様です。不動護摩では、これまでの行とは異なり、行者の目の前で炎を焚きます。この作法のことを護摩(ごま)と呼び、これによって、自身の迷える心や弱い心を焼き尽くすことを目的としています。護摩は加持祈禱の際にも頻繁に行われており、加行で行う作法の中では、最も目にすることが多いかもしれません。
以上、加行の簡単な説明でした。様々な情報にあふれている現代社会において、仏事に専修できるチャンスとは少ないものです。そんな中、加行という機会を与えられたことで、私はこれまでになく、仏様や自分自身と向き合うことができました。こうした機会は当然に与えられるものではなく、私自身の家族や周囲の方々、そしてこれまで教えを紡いできてくれた先人の功績があっての事だと感じております。まだまだ修行中の身ではありますが、加行で学んだ教えや功徳を次の人々に伝え、こうした機会を与えてくれた恩返しができれば、これに勝る喜びはありません。
今後もしばらくは、こうした修行・研修は続きます。どこまでお伝えできるかはわかりませんが、自分なりの形で情報発信を継続していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
合掌
(参考)行者の1日スケジュール例
2:00 起床
2:30 後夜の行
5:00 御堂明け(寺院の開門や簡単な掃除)
6:00 朝勤行(https://chisan.or.jp/lodging/morning/)
7:30 朝食
8:00 作務(寺院、境内の掃除)
9:00 日中の行
11:30 昼食
13:00 伝授(行に関する授業)
14:00 初夜の行
16:00 作務(次の日の行の準備や洗濯など)
17:00 お堂閉め(寺院の閉門や簡単な掃除)
17:30 夕食
18:30 入浴
20:00 就寝