ステップ1. すべての女性と赤ちゃんに、共感的で、尊敬と尊厳をもった態度で接しましょう。
身体的、言語的、情緒的な虐待があってはいけません。一人ひとりの女性の習慣、価値観、自己表現する権利、インフォームド・チョイス(十分に情報提供を受けたうえでの選択)の権利、プライバシーが守られる権利を尊重し、個々の文化を十分に配慮したケアを提供しましょう。
ステップ2. 妊娠・出産・産後の時期すべてを通して、差別がなく、無料あるいは少なくとも支払い可能な額のケアを受ける権利がすべての女性にあることを尊重しましょう。
どんな状況であっても、未払いという理由で母子のケアの提供を拒否したり、産後に身柄を拘束してはいけません。
達成度の指標の例:
支払い能力がないことを理由に母児がケアを拒否されたり、治療後に拘留されたりしないこと
請求料金は公に案内された料金と合致し、追加料金や現物の支払いを求められないこと
出産ケアにかかる料金についてのポスターが分娩棟の玄関と会計の場所に見やすく掲示されていること。その掲示物は家族が理解できる表記方法であること。また、病院がその指針に違反したり、つけ届け(わいろ)を要求された場合の報告方法の情報も含まれること
ステップ3. 助産の実践および哲学を統合した母子と家族のための妊産婦ケアモデル*を常に提供しましょう。
これは、医療レベルや場の違いにかかわらず、あらゆる医療専門家により実践可能です。
(*訳注:モデルとは一連のケアの方法のこと)
達成度の指標の例:
医療者や管理者がこのケアモデルについて知識があること
このケアモデルと、それに関連したケアが実際にされている様子が見られること
このケアモデルが実践されていることが、産後の女性へのアンケートやインタビュー結果から証明されていること
ステップ4. 出産中を通して産婦が継続的な支援を受けられる権利を認めましょう。継続的な支援の利点を母親に説明しましょう。
産婦本人が選んだ担当医療者および付き添い者からそのような支援を受けられることを保証しましょう。
達成度の指標の例:
出産施設は、産婦の出産付き添い者を歓迎しますという指針を、言葉と絵の両方でわかりやすく掲示し、妊婦健診で口頭でも説明すること。
すべての産婦が継続的な支援を受けることができる様子が見られること。
女性や家族のインタビュー回答やアンケート結果から、出産の付き添いが推奨され、支援され、産婦本人が選んだ付き添い者のためのスペースがあったという記述があること。
ステップ5. 陣痛中に薬を使わずに安楽に過ごす方法や痛みを和らげるための方法を、安全な第一選択として提供しましょう。
薬による産痛緩和法が利用可能で、産婦が使用を希望する場合には、その利点とリスクを説明しましょう。
達成度の指標の例:
出産中の快適な過ごし方や産痛緩和法について、手順書があること。無痛分娩を行う場合には母児のモニタリングが増える必要性も書かれていること。
スタッフが産痛緩和の手順の知識があり、出産中の快適な過ごし方やいろんな産痛緩和法について研修を受けていること。
出産中の快適な過ごし方や産痛緩和法が実際に提供され、適切なモニタリングが行われていること。
きちんと行われていることを確認するために、カルテを監査する可能性がある。産後の母親へのアンケートやインタビューで、産痛緩和法が利用できたかを調べられること。
ステップ6. 妊娠・出産・産後の時期すべてを通して、科学的根拠に基づく、母子と家族に有益なケアを提供しましょう。
達成度の指標の例:
産婦が飲食、歩行、動き回る様子を示したポスターを目立つように掲示すること。上体を起こした姿勢や他の自然な分娩体位も示しましょう。出産付き添い者に支えられている様子も含むこと。
バースボール、椅子、分娩椅子、床マットや座布団、壁にはしごや産み綱など、さまざまな体位をとりやすくするための道具は、陣痛室や分娩室内のわかりやすい場所にあり、産婦が利用しやすいこと。
プライバシーを守るための仕切り壁やカーテンがあること。
外回転術や骨盤位経膣分娩のスタッフ研修がされていること。
母児が肌を直接合わせて過ごすケアが出産直後やその後も実施され、母児同室、臍帯をすぐに切らない、新生児集中治療室(NICU)に入院した赤ちゃんに母親がいつでも会えてカンガルーケアができること。
さまざまな出産体位のポスター:「すべてのあなたのお産、私たちが応援しています」ポスター 多言語版
LINEスタンプもあります「ポジティブな出産体験のためにin Japan」
ステップ7. 日常的あるいは頻繁に用いた場合に利点がリスクを上回るという科学的根拠が十分になく、害をもたらす可能性があるような処置や実践は、正常な妊娠・出産・産後の経過にある母子におこなわないようにしましょう。
身体的、言語的、情緒的な虐待があってはいけません。一人ひとりの女性の習慣、価値観、自己表現する権利、インフォームド・チョイス(十分に情報提供を受けたうえでの選択)の権利、プライバシーが守られる権利を尊重し、個々の文化を十分に配慮したケアを提供しましょう。
慣例的におこなうべきでないケア
浣腸、卵膜剥離、人工破膜、会陰切開、内診を頻繁にあるいは繰り返しおこなうこと、飲食の禁止、産婦にベッドで過ごすよう指示する、あるいは体動を制限すること、仰臥位や砕石位、大人数の支援者が入れ替わり立ち替わり入室すること、支援者が努責(いきみ) を誘導すること、子宮底圧迫(クリステレル胎児圧出術)、出生直後の臍帯結紮、母子分離
ローリスクの女性にとっては有害である可能性があるケア(=緊急事態や特定のハイリスクのケースには役立つあるいは不可欠で、医学的な必要性がある場合のみ適応されるべき介入)
陣痛の誘発・促進、静脈内輸液(点滴)、継続的な胎児心拍モニタリング(分娩監視装置)、膀胱内留置カテーテル、鉗子分娩、吸引分娩、子宮内遺残物のを用手的除去で探索すること、新生児の吸引、帝王切開術
達成度の指標の例:
各処置の実施率が、国際的に許容される範囲内であり、そのデータがあること。実施率は、搬送の実施状況や施設のレベルによって異なるでしょう。
他の施設や国とのデータ比較(評価)が可能であること。
医療介入や処置が産婦に提案された場合には、必要な理由について説明があり、本人の同意が求められたことが、インタビューやアンケート結果によって示されていること。
ステップ8. 健康増進と疾病予防のための様々な方法を実施しましょう。
例えば、栄養改善、清潔な水、衛生管理、家族計画、病気や合併症の予防、産前産後の教育などを、母子や家族に提供しましょう。
達成度の指標の例:
上記の基準を満たす産前・産後教育、教材や掲示物があること。
職員・医療者は、母子の健康増進と疾病予防のための方法(公衆衛生や衛生管理、家族計画の選択肢の提供など)についての研修を定期的に実施し、常に最新情報を保っていること。
女性へのケアが上記の基準を満たしていることが、アンケートやインタビュー回答によって示されること。基準を満たすケアの提供に必要な設備要件も施設や実践内容によって満たされていること。
新生児のケアについての家族への教育や退院準備が行われ、記録されていること。
ステップ9. 必要時には、産科、新生児科、救急の適切な治療を提供しましょう。
危険な状態や合併症(およびその可能性)を見きわめる方法、効果的な治療法や病状を安定させる方法について、スタッフは訓練を受けましょう。スタッフから専門家への相談経路と、安全で効果的な搬送システムを確立しておきましょう。
達成度の指標の例:
緊急時の治療に用いる薬剤・医療機器・物品*)がわかりやすく備えられていること。これは救急ケアや搬送についてのスタッフ研修が継続的におこなわれていることの証拠になる。
搬送手段と情報提供方法についての指針とガイドラインの文書。
自宅・助産所・開業医から病院へ搬送した場合に、搬送先の施設で非難されることなく快く受け入れられ、母児を尊重したケアが受けられたと、アンケートやインタビュー回答から示されること。
緊急時に必要なすべての手続きについて、継続的な研修と実践が行われている証拠があること。
*)硫酸マグネシウム、子宮収縮剤、バルーンタンポナーデキット、救命ラップ(NASGs)、蘇生器具、酸素ボンベ、病気の新生児を搬送するための保育器など
ステップ10. 支援的な人材管理方針を備えましょう。
熱心なスタッフをリクルートし保持するための指針を万端にし、スタッフが安全で、安心でき、尊重される環境で働くことを保証しましょう。良い労働環境を備えたうえで、スタッフが良質で連携的で個別的なケアを確実に母児に提供できるようにしましょう。
達成度の指標の例:
指針が開示でき、スタッフの安全を確保し、スタッフを守り、異動やローテーションの免除に対応していること。
スタッフが指針を理解し、有効な指針であると認めていることが、スタッフへの調査やインタビューの回答によって示されること。労働安全の状況や全体的な労働環境の問題についてスタッフが情報提供できること。
ステップ11. 職種間連携をとりながらケアを提供しましょう。
あらゆる医療レベル間でコミュニケーション、相談、搬送がうまくいくような計画および実行のための後方支援を確立し、すべての関連する医療従事者、施設、組織で協調的なケアを提供しましょう。
達成度の指標の例:
連携や搬送の指針が文書化されていること。
医療施設と地域の専門家の間で、コミュニケーションが定期的におこなわれ、良好な関係が構築されるようなメカニズムが確立され、運用されていること。
院外で働く医療者も、この施設の指針や実践を知っていること。この施設と協働した経験について調査できること。
実際に連携がとれており、少人数の担当者により継続ケアが提供されている、とスタッフや妊産婦が認識していること。
ステップ12. 2018年に更新された新「赤ちゃんに優しい病院戦略(『母乳育児がうまくいくための10のステップ』*)」を達成しましょう。
妊産婦ケアを提供する施設では、母乳育児を保護し、促進し、支援しましょう。
達成度の指標の例:
母児の肌を合わせた接触や、できるだけ早い母乳育児の確立をスタッフが促していること。
母親へのケアと赤ちゃんへのケアをバラバラではなく一緒に提供していること。母児2人に十分な広さのベッドやスペースを提供すること。コット(新生児用の移動式ベッド)も手元にあるのが良い。
ミルク会社の宣伝ポスターを掲示しないこと。退院時に人工乳をお土産に渡さないこと。
母児が肌を合わせて触れ合う様子や母乳育児についてのポスターを目立つように掲示すること。ポスターはその文化に合った内容で、写真や絵をたくさん使い、なじみの言語で書かれていること。早期母児接触や母乳育児の利点についての説明も含むこと。
12ステップを20分で説明した動画
(2021年のFIGO(国際産婦人科連盟)世界大会の前日ワークショップ、アンドレ・ラロン医師とスエレン・ミラー助産師、日本語字幕あり)
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