生体は、多種多様な分子が各々の役割を果たすことで機能しているため、生命現象を包括的に理解するためには、複数の分子を同時に観察し、それぞれがどのように関連・相互作用しているかを調べる必要があります。蛍光イメージング法は、生きた生物試料における生体分子の挙動をリアルタイムに観測することができるため、生命科学研究に欠かせない研究ツールとして汎用され、様々な生命現象の解明に役立ってきました。一方で近年になり、蛍光イメージングの「色数の壁」(同時に検出できる標的分子数が4-5種類程度)を打破し、生きた生物試料における多数の標的分子を同時検出する手法として、アルキン・ニトリル・ポリインなどの官能基を有するラマンプローブを用いた多重検出法が注目を集めています。しかしながら、これらのラマンプローブによる多重イメージングには、①10分以上の計測時間を要するため、時々刻々と変化する生体分子情報をリアルタイムに計測することが困難である、②常に同じラマンシフト値・信号強度を示す“Always-On”型のプローブであるため、その用途が標的構造の可視化に限定される、という課題がありました。
そこで本学術変革領域B「革新ラマン」においては、新たな機能性ラマンイメージングプローブ群の開発、高速・多色ラマン分光顕微鏡の最適化と高度化、開発した技術を用いた生物応用に取り組むことで、生物試料中における生体分子を、従来法を凌駕する性能で多重検出するラマンイメージング法を世界に先駆けて確立することを目的とします。特に、ラマン信号のOff/Onを精密に制御し、生体の機能を可視化することができるようになれば、ラマンイメージングの生体解析ツールとしての有用性が飛躍的に向上すると期待されます。
2年間半の研究が実りあるものとなるよう、領域の枠にとらわれずに、幅広い分野の先生方との連携・情報交換・共同研究を推進し、本邦発のイメージング技術の開発に貢献していきたいと考えております。皆さまのご支援を賜りたく、どうぞよろしくお願い申し上げます。
東京大学 大学院医学系研究科 神谷真子