光線力学療法・診断において、薬剤である光増感剤が腫瘍にある程度選択的に集積する物質が選ばれます。
しかし、正常組織への分布を完全に抑制することは困難です。
光増感剤は可視~近赤外光に応答し活性酸素種を生成するため、正常組織中に光増感剤が残留したまま患者が明るい場所に出ると、正常組織に対してもダメージを与え、光副作用を生じてしまいます。
そのため、現時点ではこの治療を受けた患者は一定期間、暗所での生活を余儀なくされてしまいます。(個人差あり)
また、光診断(高専力学診断)時にも正常組織が光ると誤診断の原因になりえます。
そのため、正常組織中での光増感剤の作用を減らす取り組みも重要です。
東京大学の浦野泰照教授らは2008年に酸性条件でのみ蛍光を発する蛍光プローブをpH応答型蛍光プローブ(activatable flourescence probe)を開発し、ガン細胞のみを光らせることに成功しています(Nat. Med. 2009)。
このアイディアを光増感剤にも導入し、光活性をON/OFFスイッチさせるActivatable photosensitizerが注目されました(Chem. Rev. 2010)。
ここで、高い光治療効果を示しつつ、光副作用を抑制するには、ON状態とOFF状態の光活性の比が大きいことが重要となります。
従来のON/OFF型の光増感剤は光を吸収した後に、1O2を生成する効率(量子収率)をON/OFFスイッチングさせ、20倍程度のON/OFF比を報告してきました。
私たちも同様な手法を改良し、400倍以上の化合物も報告してきました。(ChemPhotoChem 2019)
しかし最近新たに、生体組織と最も透過しやすい近赤外光(740 nm)に対応し、量子収率のON/OFF比を200以上を達成し、更に光を吸収する効率(分子吸光係数)も同時にON/OFFスイッチングする分子系を発見しました。(J. Photochem. Photobiol. A 2020)
これによりtotalのON/OFF比は80,000以上と著しく高いON/OFF比の実現に成功しました。
しかも蛍光量子収率も高い比でON/OFFスイッチング可能で、光線力学療法・診断のガン選択性を飛躍的に高め、高い治療効果・診断性能を持ちながら、光副作用や誤診断を極限まで減らせるポテンシャルを持っているといえます。
現在はこの分子系を生体応用できるように研究を進めています。
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