堀菜保子 (教育学研究科総合教育科学専攻)
日本社会の先住民族アイヌを取り巻く課題は山積みだ。現在も続く差別、明治以来の植民地政策に起因する経済的格差や進まない先住権回復、それらに起因する「歴史的トラウマ」などだ。解消には、無意識であってもこれらに加担している「民族的マジョリティ」である「和人」自身の意識・行動変容が欠かせない。「和人」に必要な学びを探求するための研究構想を発表する。
薄鋒 (人文社会系研究科アジア文化研究専攻中国語中国文学専門分野)
本研究は小説家・夏目漱石自筆の漢詩草稿を研究対象とし、草稿にある他者による添削と漱石自らの推敲の痕跡を考察することで、彼一生の漢詩制作で「静」を表現した過程の特徴、及びその生成要因を明らかにする。
林真衣(人文社会系研究科基礎文化研究専攻言語学専門分野)
在日フィリピン人第二世代が産出した継承タガログ語の調査に基づいて、本国タガログ語との比較からこの言語の移動表現の特徴を明らかにする。
波部龍人 (人文社会系研究科欧米系文化研究専攻フランス文学)
プルーストの代名詞と言えば、マドレーヌの味がもたらす無意識的記憶であろう。本発表では草稿資料に基づきつつ、『失われた時を求めて』で繰り返し描かれる無意識的記憶の場面の成立には、音楽的なイメージが多く関わっていることを論証する。
岡田進之介 (人文社会系研究科基礎文化研究専攻)
小説や映画、演劇などのフィクション作品の鑑賞において、特定の感情的反応が適切であるとはどういうことなのだろうか。本発表では現代の英米圏の美学(分析美学)の方法論によって、この問いを理論的に探究する。
葉宇軒 (人文社会系研究科アジア文化研究専攻)
本研究は「近代における漢字漢文の位相変化」という研究関心を背景とし、知識史・制度史の視点を兼ねて、明治時代の東京大学における中国文化学の成立を再考するものである。
鈴木朝香 (学際情報学府学際情報学専攻)
本発表は、中央アジアのトルクメニスタンに関する報道を行うニュースサイトに掲載された事故・災害関連記事を分析し、同国メディアにおいて事故・災害に関する単語がどのような文脈で使用されていたかを明らかにすることを目的とする。
鈴木 颯良 (人文社会系研究科 文化資源学研究専攻)
現代において伝統的な間仕切りとしての役割を失くし「美術品」と評価される屏風が、現代地域社会においてコミュニティ活性化を目的に用いられる事例に注目し、現代の屏風が地域社会において持つ文化資源的な価値を明らかにする。
樋口葵 (総合文化研究科地域文化研究専攻)
ミシェル・フーコーは、古代哲学(特にストア派)論を行うさい、彼の同時代のフランスの古典学者から何を摂取していたのかを、これまでフーコーとの関係では取りあげてこられなかった古典学者を中心に検討する。
井上国太郎 (学際情報学府学際情報学専攻)
ビデオ・エリシテーションを導入することで、インタビュー場面でのモノローグな発話を触発し、多声的なナラティブが編み込まれた民族誌映画を制作する。
浅間香織 (人文社会系研究科欧米系文化研究専攻)
言語モデルの感情点数化指示において、温度パラメータが出力結果に及ぼす影響を検証する。フリードリッヒ・シラーの戯曲を対象にMistral Nemoでパイロット実験を実施し、温度値の変化による感情スコアの分布を分析する。
髙井実奈 (総合文化研究科地域文化研究専攻)
本研究は、平和的関係の根源性を説いたレヴィナスの哲学の内部で、あえて戦争や暴力の位置付けを確認し、暴力から彼の「倫理」を捉え直す。一連の分析から、暴力とは何か、そして暴力を暴力として問題化することと、倫理の関係性を論じる予定である。
秋元涼之介・鈴木敦命 (人文社会系研究科心理学研究専攻)
人は、他者の顔からその人の信頼性を判断することがある。その評価は、個人差が強いことがわかっている(個人特異的)。本研究ではその個人特異性が、自動処理においても現れるかを、新たに作成した改良版AMP課題で検討する。
川﨑哲彦 (人文社会系研究科欧米系文化研究専攻)
作家アルベール・カミュの作品、とりわけ『カリギュラ』に登場する暴君カリギュラに、カミュが「不条理な人間」として称揚したドン・ジュアンの精神が反映されていることを考察する。
コヌープコバー・エリシカ (東京大学総合文化研究科超域文化科学専攻比較文学比較文化)
近世の菓子見本帳に収録された菓子の意匠や菓銘を対象に、歌ことばと和歌文学のモチーフがいかに受容され、視覚的・物質的文化に適応されたかを分析し、文学的虚構世界と菓子文化の接点を明らかにする。
大宮孟史 (人文社会系研究科文化資源学研究専攻)
Wikidataとジャパンサーチのデータ連携の発展可能性を検討する。具体的には、識別子欄への追加のみならずステートメントの編集も行うという方法を提示し、その際に生じうる課題を検討する。
梅川晏輝 (人文社会系研究科欧米系文化研究専攻)
本発表では古高ドイツ語の脚韻詩"Evangelienbuch"を音韻論の最適性理論の枠組みで分析し、その脚韻がどれほど理論のモデルに沿っているのか、逸脱している部分は何に起因するのかを議論・考察する。
胡玥 (教育学研究科図書館情報情報学研究室)
University library spaces have transformed since the mid-20th century, but the historical role of individual study spaces like carrels is often overlooked. This study examines the introduction, allocation, and use of carrels at the University of Tokyo General Library (1960s-1980s), focusing on their expression of educational values and institutional contradictions. It found that carrels embodied ideals of equity and academic focus, but their implementation was undermined by fragmentation, faculty hierarchies, and resource shortages. These tensions reveal the aspirations and limits of postwar university reform. The study offers a novel methodological approach to educational and library history by treating carrels as active historical artifacts.
小田島梨乃 (総合文化研究科超域文化科学専攻)
江戸時代に流通した略暦の一種である「大小」「引札暦」は、現代の年賀状や企業名入りカレンダーの起源とされている。本発表では、大小や引札のモチーフの変遷を追い、どのように現代につながっているのかを検討したい。
鄭徳峘 (人文社会系研究科アジア文化研究専攻)
詩人黄瀛は、日本語詩に中国語の歌謡を翻訳せず引用した。本発表は「亨利飯店にて」を対象に、この歌謡の引用が、詩の主題表現を深化させ、臨場感や音声性といった詩的効果をもたらしていることを明らかにする。
太田(塚田)絵里奈 (附属図書館UPARL)
15世紀アラビア語人名録『輝く光』における動詞「聞く(سمع)」の用法を対象に、大規模言語モデルによる自動分類と人文学的補正を組み合わせた語義識別を試みた。学習・伝承と一般的用法の区別を通じ、史的文脈における知識伝承表現の特徴と機械学習の可能性を検討する。
一色大悟 (附属図書館UPARL)
新しい思想の付加を軸に思想史を記述する加上説は、100年近く日本の仏教学の公理となってきた。本発表では、最新の発見をもとに加上説の限界を指摘し、次に可能な公理を模索する。
中井勇人 (附属図書館UPARL)
本報告では、15世紀東北アジアのツングース系集団・建州女直における首長層の人的構成を、同時代の外部漢文史料から復元・分析する。これによって、前近代東北アジアの森林地帯における「国家なき社会」内部の権力構造の様態に肉薄することを目指す。
笠原真理子 (ヒューマニティーズセンター)
本発表は、オペラ漫画の草創期を担ったU・マイアに焦点を当て、その手法と少女漫画への影響を明らかにする。西洋オペラが日本の大衆文化の文脈で捉え直された過程を検証する。
祝世潔(ヒューマニティーズセンター)
嗅覚表象は視覚優位の言語体系において周縁化されがちである。本発表は、文学における匂い記述の手法とその限界を検討し、言語化に生じる空白が読者の感覚と想像を喚起する可能性を示唆する。
山田理絵(総合文化研究科附属共生のための国際哲学研究センター)
本報告では、摂食障害の医療体制に関する課題を当事者の視点から検討することを目的とし、20代の摂食障害当事者・経験者に対して2019年12月~2024年3月に実施したインタビュー調査の内容について、KJ法を用いた質的分析の結果を発表する。
中里晋三(ヒューマニティーズセンター)
インクルーシブな場はどう生まれるのか。小中学校でのワークショップ(福島県双葉町)および若者による居場所づくりへの参加(愛知県名古屋市)、小学校での学習支援(東京都渋谷区)の経験から、その具体的な条件を考えたい。
関慎太朗(ヒューマニティーズセンター)
楽譜印刷技術は複製の作成という根本的な目的を共有しつつ、メディアの変化を捉えてその生産方法を変化させてきた。本発表では、デジタル楽譜作成ソフトウェアの登場に伴って生じた楽譜を取り巻くメディア環境の変化を踏まえ、デジタル技術時代における楽譜印刷と音楽文化のあり方を議論する。