研究会活動アーカイブズ
HIM ACADEMY JAPAN
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2025年度
【学生研究成果シリーズ④】自院の救急体制の将来対応を考える ― 救急車搬入データが示す地域医療の役割
救急医療は、地域医療体制の中でも特に負荷が高く、将来にわたる持続性が問われる分野です。高齢者救急の増加は、全国的な課題となっています。
本研究では、2024年度の救急車搬入データを用いて、患者属性、搬送時間帯、搬送地域の特徴を分析しました。その結果、搬入患者の多くを65歳以上の高齢者が占め、搬送地域は病院所在地を中心とした半径約8km圏内に集中していることが明らかになりました。また、休日・夜間帯では搬送地域に有意な違いが認められ、時間帯による需要特性の差も示されています。
将来推計では、2030年に救急車搬入件数が増加し、特に75歳以上高齢者と特定地域からの搬送増加が見込まれました。注目すべき点は、需要の多い北部エリアが、病院の属する二次医療圏とは異なる医療圏に位置していたことです。これは、当該施設が医療圏を越えて救急医療を支えている実態を示しています。
本研究は、救急車搬入データが単なる実績管理ではなく、地域から期待される医療機関の役割を可視化する重要な情報源であることを示しました。今後の救急医療体制を考えるうえで、多くの示唆を与える研究成果といえます。
▶ シリーズを通して:4つの学生研究はいずれも、データを起点に地域医療の課題を可視化し、将来に向けた意思決定のヒントを提示しています。本シリーズが、各施設の将来対応を考える一助となれば幸いです。
2026.1
【学生研究成果シリーズ③】自院の診療圏の必要病床数を可視化する ― 診療圏を基盤とした必要病床数の再推計
地域医療構想では、将来の必要病床数が高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4区分で示されています。しかし、これらは二次医療圏単位で算出されており、個々の病院が実際に担っている診療圏の実態とは必ずしも一致しません。
本研究は、公表されている医療圏データを用い、田主丸中央病院の診療圏を基盤とした必要病床数の再推計を行いました。高齢者人口による按分モデルに、患者居住地分布を組み合わせることで、より現実的な推計を試みています。
その結果、久留米二次医療圏全体では病床過剰とされる中で、当該診療圏では高度急性期・急性期・回復期病床が不足し、慢性期が過剰であるという、異なる構図が示されました。この差は統計的にも有意であり、広域平均だけでは見えない地域内の偏在を示しています。
本研究は、「医療圏の数字をそのまま自院に当てはめてよいのか」という問いを投げかけています。診療圏という視点を取り入れることで、より納得感のある病床機能再編や地域医療連携の検討が可能になることを示した点に、大きな意義があります。
▶ 次回予告:最終回は救急医療がテーマです。救急車搬入データから、地域が病院に何を期待しているのかを読み解き、将来の救急医療体制のあり方を考えます。
2026.1
【学生研究成果シリーズ③】自院の診療圏は人口が減っても入院は増える?― 診療圏分析から考える将来医療需要
人口減少社会の到来は、多くの医療機関にとって避けて通れない前提条件となっています。しかし、「人口が減れば医療需要も減る」という単純な理解では、地域医療の将来像を見誤る可能性があります。
本研究では、田主丸中央病院の診療圏を設定し、公開人口動態データを用いて将来の入院需要を推計しました。その結果、診療圏内人口は減少傾向にある一方で、入院患者需要は増加するという結果が示されました。特に75歳以上の高齢者入院の増加が顕著であり、高齢化の影響が医療需要を押し上げている実態が明らかになりました。
2030年時点の需要影響分析では、平均在院日数の延長や病床利用率の上昇が予測され、現行の病床運用では需要を十分に吸収できない可能性が示唆されています。また、介護施設等への退院割合の増加も見込まれ、医療と介護の連携強化が重要な課題として浮かび上がりました。
本研究の特徴は、二次医療圏といった広域単位ではなく、「自院の診療圏」という現場感覚に近い単位で将来需要を捉えた点にあります。人口減少社会においても、地域特性によって医療需要の姿は大きく異なることを、データに基づいて示した研究といえます。
▶ 次回予告:続く次回では、公表されている医療圏データと自院の実態とのズレに着目します。「必要病床数」という数字を、現場視点でどう読み解くべきかを掘り下げます。
2026.1
【学生研究成果シリーズ①】自院の病床稼働データは何を語るのか?― 病床回転率に着目した病床再編案
ケアミックス病院は、急性期から回復期、慢性期まで複数の医療機能を担うことで、地域医療を支える重要な役割を果たしています。一方で、限られた病床数の中でどの機能にどれだけ病床を配分するかは、病院運営の質と効率を大きく左右します。
本研究は、田主丸中央病院を対象に、病床稼働実績データを用いて病床機能構成の課題を明らかにしました。分析の結果、病床利用率は99%以上と極めて高く、一見すると効率的に運用されているように見えるものの、新規入院の受入余力が乏しい状態にあることが示されました。特に、回転率の高い急性期病床と、平均在院日数が長い回復期病床とのバランスが、病院全体の受入能力に影響している点が浮き彫りとなりました。
そこで検討されたのが、地域包括ケア病棟を拡充する病棟再編案です。この再編により、平均在院日数の短縮、新規入院患者数の増加、空床確保率の向上が同時に見込まれる結果となりました。また、急性期から回復期への転棟許容率も有意に改善しており、院内での患者フロー円滑化に寄与する可能性が示されています。
本研究は、「満床=最適運用ではない」という示唆を、具体的な数値で示しました。病床稼働データを丁寧に読み解くことで、病床機能の再編という選択肢が、入院受入機能の強化につながることを示した点に、本研究の意義があります。
▶ 次回予告:人口減少が進むなかでも、医療需要は本当に減るのでしょうか。次回は、診療圏分析を通じて将来の入院需要を可視化し、調査対象病院の“これから”を考えます。
2026.1
4つの学生研究が始動――医療の未来を描く実践型プロジェクト、いよいよスタート
◆ 4つの学生研究が始動――医療の未来を描く実践型プロジェクト、いよいよスタート
今年度の学生研究がいよいよ本格的にスタートしました。
研究指導は、シニア・パートナーの小原仁(久留米大学)と、パートナーで調査協力施設のスタッフでもある水谷駿介(田主丸中央病院)の2名がタッグを組んで担当しています。
今年取り組む研究テーマは次の4つ。いずれも医療機関経営、地域医療政策、将来需要推計といった高度で実践的な領域です。
① 診療圏単位を基盤とした必要病床数の再推計
② 病院の将来入院需要対応に関する診療圏分析
③ 将来対応に向けた病床再編案の検討
④ 持続可能な救急医療提供体制の実態と課題
各テーマは3〜4名の学生で編成され、文献レビュー、地域医療データの収集・加工、診療圏分析、仮説検証に取り組んでいます。
◆ 研究計画発表会の様子 ― 論理的な議論と成長の手応え
先日開催された研究計画発表会では、
「本当に必要な指標はどれか?」
「仮説を検証するためのデータ構造は適切か?」
「研究成果を誰の意思決定に活かすのか?」
といった鋭い議論が飛び交い、発表会は熱気に満ちていました。
学生の提案に対して教員が問いかけ、学生同士がそれに応じて視点を深めていく——
その瞬間、研究が「課題を与えられる学習」から「自分たちが問いを生み出す探究」へと変化していくのが感じられました。
◆ “現場でも知らなかった発見” が生まれはじめている
発表会後のディスカッションで特に印象的だったのは、
学生が既に調査協力施設の関係者でも把握していなかった示唆を導き出し始めているということです。
データは嘘をつかない——
しかし、見ようとしなければ気づけない真実があります。
学生たちの視点は柔軟で、固定概念にとらわれず、データの向こう側にある医療の姿を掘り起こしていく。
その姿勢は、まさに未来の診療情報管理士の理想像そのものです。
◆ 研究の舞台は2026年度「第52回日本診療情報管理学会学術大会」学生セッションへ
4つの研究グループはいずれも、2026年度に盛岡で開催予定の第52回日本診療情報管理学会学術大会 学生セッションでの発表を目指しています。
現場の診療情報管理士や医療経営に携わる関係者、研究者の前で研究成果を示す絶好の機会です。
「学生の研究」とは言っても、その内容は既に専門家が参加する学術セッションに十分耐えるレベルに到達しつつあります。
今後どのような分析結果と提言が生まれるのか、私たち指導者も心から楽しみにしています。
◆ 最後に ― 診療情報管理士養成の本質は、知識ではなく“問いを立てられる人材”を育てること
学生研究指導は、単に研究の手法を教える場ではありません。
“医療にとって本当に意味のある問い”を生み出し、それをデータと論理で証明できる人材を育てる取り組みです。
今年の学生たちは強い意欲、探究心、そしてチームワークを兼ね備えています。
この1年でどれほど成長し、どんな新しい医療の未来図を描くのか——
研究会としても最大限の支援を続けてまいります。
2025.10