飛騨では古墳時代より漆を使っていたことが確認されています。歴史が長い地産漆ですが、昭和に入り栽培が衰退します。昭和42年(1967)に漆山の造成が協議され2万本強が植樹されましたが、景気後退による造成組合の解散や需要低下などにより継承されず、2021年には飛騨河合におよそ300本ほどが自生するのみとなっていました。
このような状況に危機を感じ、奇しくも同じタイミングで漆の栽培に取り組み始めた有志が集まり2022年春に「飛騨漆の森プロジェクト」を設立、2023年にはNPO法人として体制を強化し、ウルシ600本の植樹を15年間続けることを目指し活動しています。
循環型の暮らしからの乖離による気候変動や災害などに対し自然環境保護のために今できること、そして豊かな営みを築くために、地域と連携して漆の森づくりに取組み、すぐ先の未来につなげたいと考えています。
発芽から漆液が採取できるまでおよそ15年。育ったウルシで漆掻きができるのは1シーズンのみですが、その後伐採した木の切株から「ひこばえ」が芽吹いて成長し、また15年後に漆液を採取することができます。その後も繰り返し繰り返し循環していきます。一度育まれた人と森の共生を持続させるために手入れをし続けることが必要です。
プロジェクトメンバーは家具製造者、伝統工芸士、工芸作家、研究者、森林保全従事者など幅広い分野にわたります。また、教育機関と連携した後継者の育成を目指しています。これらの活動に賛同してくださる個人や企業、団体の輪が拡がり多くの方に協力をいただきながら進めています。
生産量の減少と後継者不足により国産漆の供給は国内使用量の10%に満たない状況が続き入手困難なものとなっています。当プロジェクトでは、春慶塗や祭り屋台の伝統技術、寺社をはじめとする建築物など、飛騨に数多くある文化財を地産漆でつないでいくことを目指しています。
漆は椀や盆などの漆器として広く知られていますが、抗菌効果のある塗料として家具やドアノブ、水回りの仕上げなどに使われる他、金継ぎに用いられるように天然の接着剤という側面も。また、ウルシ材は腐食しにくく軽いという特徴があります。環境にやさしく機能的な素材として、新たな活用方法が期待できます。
当プロジェクトは、日頃の活動に参加する「正会員(個人・団体)」と、寄付によって活動を支援する「賛助会員(学生・個人・団体)」にて構成されています。また、会員以外にも植栽地提供や活動連携など、様々なご協力をいただき運営しています。