教材開発

「TLRカードゲーム」

高等学校生物の免疫に関するタンパク質の単元において、自然免疫における病原体認識のしくみを学習するカードゲーム教材

細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入してきたとき、病原体を排除するために働くのがマクロファージなどの食細胞です。マクロファージは細胞表面にある受容体を使って、いま来た敵が「グラム陰性細菌」、今度は「RNAウイルス」など”敵の属性”を感知することができます。この感知にかかわっているのがトル様受容体(TLR)です。TLRは、病原体の保存された分子パターンを識別して敵を見分けるのですが、そのためにはTLRがダイマー(ペア)になる必要があります。そしてペアの作り方によって、異なる分子パターンを認識します。このペアを手札の組み合わせにすれば、カードゲームになるのではないかという発想から、TLRカードゲームが生まれました。

【ゲームの概要】

それぞれのプレイヤーは自分の手番に、手札から2枚のTLRカードをTLRダイマーとして食細胞上の病原体の横に提示します。このとき、病原体に対応したTLRダイマーを提示しなければなりません。TLRダイマーによる認識力は基本2ポイントです。病原体にはそれぞれ認識可能ポイントがあり、認識力の合計ポイントが認識可能ポイントを上回ったとき、最後のカードを提示したプレイヤーが病原体の認識可能ポイントを獲得することができます。例えば、認識可能ポイント5をもつウイルスの2本鎖RNAがマクロファージ上に提示された場合を考えます(下図)。プレイヤー①がTLR3・TLR3のペアを提示してポイントを5から3へ減らし、プレイヤー②も同様のカードペアを提示しポイントを3から1へ減らした。最後にプレイヤー③も同様のカードペアを提示してポイントを0まで減らしました。認識可能ポイントが0になると同時にその病原体は排除され、プレイヤー③が5ポイントを獲得することになります。つまり最後のカードを誰が提示するかにかかってくる訳です。最終的に得点の一番高いプレイヤーが勝ちとなります。特殊カードもあるので、さまざまな駆け引きが必要となります。

TLRカードゲームの配置とウイルス2本鎖RNAをマクロファージが認識するまでのゲーム展開例

【カードとアイテム】

●手札として使うカード=TLRカード(6種類・計74枚), 特殊カード(5種類・計19枚)

●机に置いて使うカードやアイテム=食細胞ボード(5枚), 病原体カード(9枚), 円形チップ(24枚)

参考:「自然免疫の異物識別機構への理解を促すTLRカードゲームの開発」日比野拓.埼玉大学紀要 教育学部, 65(2):261-270 2016.

http://webjournal.edu.saitama-u.ac.jp/list/065_02.html

「ムジナモ自生地宝蔵寺沼の水生動物相調査をもとにしたアクティブラーニング教材」

中学校第3学年「自然と人間」の単元において、調査データや資料をもとに生徒が話し合いの中から環境保全の方策を考える。

中学校理科第3学年の「環境と人間」の単元では、生態系と自然界のつり合いについてや、自然環境の調査と環境保全について学習します。自然界のつり合いはどのようにして維持されるのか、またそのつり合いがくずれた原因は何なのかを、環境問題の事例をもとに考えていきます。教科書にはいくつかの事例が載っていますが、地域に密着した環境保全問題を取り上げる方が、中学生が社会とのつながりを実感し、課題に向き合う能力を引き出すことができると考えられます。そこで、埼玉県に在住する中学生を対象として、国の天然絵記念物「宝蔵寺沼ムジナモ自生地」において行われている環境保全活動を題材として、アクティブラーニングの視点を取り入れた教材開発を行いました。

●授業展開

①ムジナモについての説明と調査活動の動画視聴.

②調査データや資料の説明(ダウンロード:環境全の授業資料.pdf)

③個人で気づきを見つけた後、グループで話し合い活動.グループで意見をまとめる.

④グループ2つを合わせて、話し合い活動.意見の相違を議論する.

⑤班ごとに保全案を発表する.

⑥個人のまとめと教員のまとめ.

※詳しくは、右の「環境保全.学習指導案.pdf」をダウンロードして参照してください。

環境保全の授業資料.pdf
環境保全.学習指導案.pdf
宝蔵寺沼の水生動物相調査 ~ムジナモの保全のために~(配信用).mp4

参考:「地域に密着した環境保全をテーマとした学習指導の開発─ムジナモ自生地宝蔵寺沼の水生動物相調査を事例として─」吉田 竜矢, 田端 雄樹, 伊藤 悠昭, 山本 孔紀, 矢辺 徹, 金子 康子, 日比野拓.埼玉大学紀要 教育学部, 66(2):609-622 2017.

http://webjournal.edu.saitama-u.ac.jp/list/066_02.html

「免疫理解で大冒険」

食品アレルギー、抗血清療法、エボラウイルスなど日常生活で耳にする題材を盛り込んだ、免疫と社会をつなぐ免疫カードゲーム教材

中等教育では、学習した科学的な知識や概念を自身の生活や社会と関連付けて定着させることが求められます。免疫学は感染症やアレルギーなど生活や社会と関連付けやすいものの、日常茶飯に実感できるものではありません。そこで免疫に関わるさまざまイベントが怒涛のごとく押し寄せるゲームを作り、そのゲームを通して免疫のしくみと社会とのつながりを実感させることを考えました。名づけて「免疫理解で大冒険」ゲームです。プレイヤーは冒険家となり、ゴールにある財宝を目指して冒険をします。冒険中には生命を脅かすさまざまな危険が待ち構えています。これらの危険を免疫の知識と治療薬を活用して乗り切っていくというものです。

教育学部の授業にて

【ゲームの概要】

このゲームはすごろく形式で、自分の手番でさいころを振り、ボード上の駒を進めていきます。スタート直後の街ゾーンでは、止まったマス目すべてで山札から「治療カード」を1枚引き、冒険のための治療カードを集め、その後のゲームを有利にします。街ゾーンを過ぎると未開ゾーンに入ります。ここでは止まったマス目すべてで山札から「イベントカード」を1枚引き、そのカードに書かれたイベントが発生します。イベントには危険な動物やウイルスとの遭遇や、食物の現地調達が含まれます。生命を脅かすような危険な状況に適切に対処する治療カードを手札から提示しなければなりません。たとえばヘビ毒には血清療法で対処し、アナフィラキシーショックになったら、アドレナリン注射薬で対処する必要があります。もし治療できない場合はスタート地点の救急病院に戻って最初からやり直しです。さまざまな危険を回避し、ゴールにある財宝を目指しましょう。

【セット内容】

すごろくボード:1枚、治療カード:8種類60枚、特性カード:4種類14枚、

イベントカード:11種類44枚、コマ:4~5個、サイコロ:1個