埼玉大学教育学部

自然科学講座理科分野

日比野研究室

本研究室では棘皮動物の胚や幼生を用いて、生体内で起こる免疫のしくみを研究しています。棘皮動物がもつ独自の免疫機構の発見や、ヒトへとつながる免疫機構の進化の解明を目指しています。また地域に密着した研究として、埼玉県宝蔵寺沼に生息するムジナモを保全するとりくみや学校現場で活用できる生物教材の開発もおこなっています。

<研究内容>

① 棘皮動物の発生過程における免疫機構の解明

② ムジナモ自生地宝蔵寺沼における水生動物相調査

③ 免疫のしくみや環境保全への理解を深める生物教材の開発

① 棘皮動物の発生過程における免疫機構の解明

  ウニやヒトデなどの棘皮動物は、発生の過程で透明な胚や幼生の時期をもつため、古くから実験動物として使用されてきました。今から約140年前、海産無脊椎動物の発生学を研究していたイリヤ・メチニコフは、ヒトデの幼生にバラの棘を刺す実験を行ったところ、バラの棘が食細胞によって包囲されることを観察しました。彼はこの現象に「貪食作用」と命名し、細胞性の免疫機構が生体防御の主役であると主張しました。メチニコフはこの発見により、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。しかし免疫学はヒトの免疫のしくみを解明することや、感染症や免疫疾患を克服することが中心であり、近年までメチニコフの研究はあまり重要視されてきませんでした。

  私たちの研究室では、棘皮動物の免疫機構、特に貪食作用に再び光を当て実験・研究を行っています。透明なウニやヒトデの胚・幼生を用いるからこそ、得られる知見があると考えています。現在はタコノマクラとバフンウニをメインに実験を行っています。タコノマクラ胚では原腸形成以前に間充織細胞が油滴を貪食します。つまりバフンウニやヒトデよりも早い発生期に貪食作用が開始されます。棘皮動物の貪食作用の比較を行うことで、発生過程における免疫細胞の分化のしくみや、免疫細胞の異物への遊走のしくみなどを明らかにしたいと考えています。

② ムジナモ自生地宝蔵寺沼における水生動物相調査

  埼玉県羽生市に位置する宝蔵寺沼は、水生の食虫植物ムジナモ の国内最後の自生地として国の天然記念物に指定されています。しかし1966年のこの指定以降、さまざまな環境要因により、かつてのようなムジナモの繁茂は見られなくなってしまいました。そこで2009年から宝蔵寺沼ムジナモ自生地の緊急調査が行われてきました。私たちの研究室ではさいたま水族館と連携し、宝蔵寺沼の水生動物相を調査しています。具体的にはサデ網や四手網、網受け、投網などの漁具を用いて水生動物を採捕し、宝蔵寺沼にはどのような種がどれだけ生息しているかを調べています。ムジナモ消失の要因の一つとして、ウシガエル幼生とコイによるムジナモの食害による影響が浮かび上がってきました。羽生市教育委員会、地元のムジナモ保存会、そして埼玉大学などが、宝蔵寺沼の環境改善を取り組むことで、絶滅に瀕していたムジナモの株数は大幅に増加し、2015年には約1万株、2016年には約15万株に達しています。

 私たちの研究室では、宝蔵寺沼の水生動物相とその変化を明らかにするため、水生動物相調査を継続して行っています。また採捕による調査では、大型魚類や底生魚類が採捕しにくいという問題があったため、水中に存在する生物由来のDNA(環境DNA)を用いて水生動物の特定も行っています。

③ 免疫のしくみや環境保全への理解を深める生物教育教材の開発

  私たちの研究室では、自分たちが行ってきた研究やその成果、あるいはそれらの研究を行うにあたって学んだ専門的な知識をもとに、生物教育教材の開発に取り組んでいます。これまでに作成した生物教育教材は、

などを行っています。詳しくは教材開発のページをご覧ください。