私はレゲエ, ヒップホップ, その他ポップスなど多少幅広く音楽を聴くほうだと思うが, 少し違う理由でゲーム音楽も大変好きである. わけは単純で, プレイしたゲームの音楽を気に入ることが多い. とくに, 小学生時代などにプレイしたものなどは所謂「思い出補正」が掛かっているのも伴って好きな楽曲が多い.
個人的に, 自分がプレイした中で音楽の面でもっとも優れたゲームは「スーパーマリオギャラクシー」である. ゲーム自体の位置づけとしては所謂狭い意味での「スーパーマリオ」シリーズの系譜にあるものだ. 世界でもっとも有名なゲーム音楽といえばかの超名作「スーパーマリオブラザーズ」(ファミリーコンピュータ, 1985年) の地上BGMだ, と言って異論のある人はそう居ないと思うが, この楽曲を含めてスーパーマリオシリーズのBGMといえば20年以上にわたって近藤浩治氏の手によるものである. 他にも人気の高い「スーパーマリオワールド」の地上BGM, 「スーパーマリオ64」の Dire, Dire Docks (ウォーターランド) なども例に漏れず近藤氏の作品なのであるが, この「ギャラクシー」はシリーズ史上はじめて近藤氏ではない作曲者, 横田真人氏がほとんどを手掛けている. 横田氏はいままでのマリオ音楽にない本格的なオーケストラによる演奏を導入し, それが同作の「宇宙, 銀河」というモチーフと見事なまでにぴったり合っているのである. 同作内でもっとも人気の高い Gusty Garden (ウィンドガーデンギャラクシー) ももちろん横田氏の作品である. 「ゲーム音楽には疎いがオーケストラを聴くのは好きである」という知り合いが一定数おり, そういう人たちにこの Gusty Garden を何度も推しているが, みな例外なくすばらしい楽曲だと言ってくれる. 「ギャラクシー」には近藤氏はわずか数曲しか参加していないのであるが, そのように数少ない氏の担当楽曲のひとつである Egg Planet が作品全体を通しての人気曲の一つになっているのは, 近藤氏のすさまじい実力とパイオニアならではのシリーズへの理解度を思い知らされる.
ということで, 任天堂 (とくにマリオシリーズ) の大ファンである私にとって, リスペクトするゲーム音楽のコンポーザーと言われれば真っ先に近藤氏と横田氏の名前が挙がる. 任天堂元社長の岩田聡氏 (2015年没) は生前に「社長が訊く」と称して様々な自社ゲームの開発スタッフに社長自らインタビューを敢行する, という企画を行っておられたが, なんとその企画内で「スーパーマリオギャラクシーの音楽スタッフにインタビューをする」という回があり, 近藤氏, 横田氏および川村昌史氏 (同作のSEなどを担当) へのインタビュー記事 (link) がある. 何度読んでも心を揺さぶられる.
そのほか, 私の思い出に深く刻まれているゲーム音楽たちはたくさんあるが, それら作品や作曲者についていくつか紹介したい.
まずは「MOTHER」シリーズの楽曲群である. このシリーズの楽曲は田中宏和氏および鈴木慶一氏によるものが大半を占める. 鈴木氏は言わずと知れたバンド「ムーンライダーズ」のボーカルであるあの鈴木氏である. 初代「MOTHER」はサウンドトラックが発売されているが, ゲーム内の楽曲をそのまま収録しているのではなく, バンドで演奏して, さらに英詞をつけてボーカルも入っている立派なアルバムである. 同作ではとくに「Pollyanna」や「Eight Melodies」が人気の高い楽曲であるが, 私のいちばんのお気に入りは「Wisdom of the World」(原曲はクイーンマリー城) である. 第二作「MOTHER2 ギーグの逆襲」がゲームとしてはもっとも思い出に残っている. 同作の楽曲といえばバンド「相対性理論」のボーカルであるやくしまるえつこ氏が歌唱を担当したED曲アレンジ, 「Smiles and Tears」が有名であろう. 私は長らく原曲およびこのボーカル版しか知らなかったが, なんと元ピチカート・ファイヴの野宮真貴氏によるカバー版があるようで, そのライブ映像がYouTubeにアップロードされている. 凄まじいコラボレーションである. 私個人が好きなBGMとしては「摩天楼に抱かれて」がある. こちらは「フォーサイド」という大都会ステージのBGMであるが, 同ステージは「スマブラ」シリーズにも登場しているので, そこでのBGMとして記憶に残っている方も多いと思う.
次に「マリオ&ルイージRPG」シリーズを挙げたい. 私がプレイしたのは第二作, 第三作および最新作の「ブラザーシップ!」であり, また初代も実況プレイ動画を繰り返し見た. 同シリーズの音楽は言わずと知れたゲーム音楽界の伝説のひとり, 下村陽子氏が手掛けている. 下村氏ははじめカプコンでゲーム音楽家としてのキャリアをスタートさせ, 以後スクウェアを経て現在はフリーの作曲家として活躍されている. もともと任天堂とスクウェアの共同プロジェクトとして「スーパーマリオRPG」があり, 当時スクウェア側の所属であった下村氏が同作の楽曲をすべて担当していた (ニコニコ動画で人気を博した「Beware The Forest's Mushrooms」で知る人も多いと思う) が, 氏はそれを続けるかたちでこの作品から分岐した続編シリーズである「マリオ&ルイージRPG」も担当されている, というわけである. 下村氏の代表的な作品といえば「キングダム ハーツ」シリーズや「ファイナルファンタジーXV」などがあり, 日本のゲーム音楽家として真っ先に名前が挙がるうちの一人であると思うが, 氏の作品としてマリルイシリーズに触れる人が比較的少ないのはファンとして残念なことである. 私のお気に入りでいうと, もちろん人気曲である「Grand Finale」(イン・ザ・ファイナル) や「Tough Guy Alert!」(ちょいと強い奴らに要注意!?) も好きだが, 一番はぶっちぎりで「The Wind Blowing at Cavi Cape」(ゲプー岬に吹く風は) である. 話題にされることは少ないが, 知らない人はぜひ一度 YouTube などで聴いてみてほしい. まったくの余談であるが, 同楽曲をリミックスしてアメリカの MC がラップを乗せた楽曲がリリースされている. 任天堂および下村氏に許諾を取っているのかは知らないが, ストリーミングサイトで聴いた限りは良質でカッコいいアレンジであった.
最後に, 「ロックマン」シリーズのBGMに少し触れる. 私がプレイしたのは所謂「無印」シリーズの一部である. 同シリーズは作品ごとに作曲担当が変わることでも有名である. とくに人気が高いのは「ロックマン2 Dr.ワイリーの謎」であると思う. これのBGMはほぼすべて立石孝氏によるものである. 人気になったことには, 一時のニコニコ動画でブームとなった「思い出は億千万」(同作「Dr. Wily Stage 1」のアレンジ楽曲) の影響も大きいであろう. 私の好みは第三作, 「ロックマン3 Dr.ワイリーの最期!?」の楽曲群である. この「3」のメイン作曲者のひとりである藤田晴美氏は最近 YouTube や TikTok などで「おかんP」として活躍されており, 様々なゲーム音楽のオマージュ楽曲をすばやく作るパフォーマンスで人気を博している. 同氏の作品, とくに「Geminiman Stage」などを好んでずっと聴いてきた身として, 伝説のひとりが媒体を変えて活躍していることには深い感動を覚える. なお, 藤田氏は, 先述した下村氏とはカプコン在籍当時に先輩と後輩の関係であったらしく, 当時を思い出す形で二人が対談する動画がおかんPのチャンネルに上がっている. これも必見である.
当時のカプコンには藤田氏, 下村氏をはじめとした女性サウンドスタッフが数多くおり, 彼女らを中心として Alph Lyla というバンドが結成された. 結成当時 (藤田氏がリーダーであったそうだ) から様々なサウンドトラック, イベント等に参加するごとに男性も加わったりなどメンバー編成は変化しているが, 先述した二人以外にも初代「ロックマン」で知られる松前真奈美氏, 「ファイナルファイト」にも参加した藤田靖明氏, 「ロックマン4 新たなる野望!!」の全曲を担当された藤井美苗氏など, 錚々たるメンバーが集っている. さながらジャパニーズレゲエでいうところの Tokiwa Crew である (このたとえが通じる人がどれだけいるかわからないが...).
完全に余談であるが, この「4」を担当された藤井氏はちょっとした知り合い (というのも烏滸がましいが) である. もう少しだけ言うと私の父の知人であり, 最近はなかなか機会がないが, 私が小学生時代は父の縁もありよくお会いさせていただいたものであった (断っておくが父はゲーム業界の直接的な関係者ではない). 当時からファミコンで出たロックマンシリーズ6作品は (VCなどの媒体で) プレイしており, 氏の作品は知らず知らずのうちに私の脳に刷り込まれていた. そのため, 私からすれば完全にプライベートな人脈内にあった同氏が元カプコンで, かつ「ロックマン4」のコンポーザーであると聞いたときは腰が抜けるほど驚いたのを覚えている. 藤井氏の作品でいえば当時から「Dustman Stage」がダントツのお気に入りである. どちらかといえばネガティヴなニュアンスのある「ゴミ」というモチーフ, そしてゴミ処理場をテーマとしたステージに見事なまでにぴったりの, 哀愁あふれる (それでいてシリーズ楽曲ならではの疾走感もきちんと備えた) 大名曲である. 先述した下村氏の Cavi Cape をご存知の方なら私がダストマンの曲を気に入るのは納得がいくだろう.
他に, 再び「ロックマン4」から「Brightman Stage」も大変な名曲である. イントロ部分で初代 (つまり松前氏の作品) Fireman Stage をサンプリングしているように聴こえるのだが, 意図通りなのだろうか? いつかまた藤井氏にお会いする機会があれば伺ってみたいことの一つである.
無印ロックマンシリーズは「8」の発売 (PS, 1996年) から随分間が空き, 2008 年に Wii でようやくナンバリング作品の続き (9) が出た. その後まもなくして「10」も同じく Wii ウェアの媒体で発売されたのだが, なんと「10」ではこれまでと違い, 歴代のコンポーザーが集って各ステージの楽曲を担当している. したがって, 最初に松前氏の曲を聴いてニトロマンに挑み, 立石氏のつくったステージクリアファンファーレを聴き, 続いて藤井氏の曲を聴いてコマンドマンと戦い, ... といったことができるのである. こんな贅沢な話はない.
以下は余談の二つ目である.
私の共著者である関真一朗氏 (現在: 青山学院大助教) はことあるごとに「スーパードンキーコング」シリーズの楽曲をフェイバリットに挙げている. 氏の一番のお気に入りは「Stickerbush Symphony」であるそうで, 「とげとげタルめいろ」のBGMとして知る人も多いと思う. 同楽曲を含めたシリーズ通してのコンポーザーは David Wise であるが, 元カプコンであるおかんP (藤田氏) とレア社所属の Wise がコラボした動画が最近 YouTube に上がっているのを見てたいへん驚いた.