『日本の海はなぜ豊かなのか?』2012 北里 洋著(科学ライブラリー188、岩波書店)1,500円
『深海、もう一つの宇宙 しんかい6500が見た生命誕生の現場』2014 北里 洋著(岩波書店)2,415円
『深海―極限の世界 生命と地球の謎に迫る』藤倉克則、木村純一・編著(ブルーバックス)1,210円
『なぞとき深海1万メートル 暗黒の「超深海」で起こっていること』 蒲生俊敬・窪川かおる 著 (講談社)1,980円
『深海世界 海底1万メートルの帝国』 スーザン・ケイシー著、棚橋志行訳 (亜紀書房) 3,080円
本書は海の深淵(深海)に挑んできた開拓者(フロンティア)たちのドキュメントである。
著者は現場に居合わせ、開拓者たちに語らせる。人はなぜ深海に挑むのか?
本書を読むと、深海への挑戦はリスクをものともしない開拓者たちが担ってきた。
彼らは、それぞれの時代にあって深海に想いを馳せ、道具を作り、挑戦したのだ。
本書に登場するVictor Vescovo 氏が率いる民間チームが世界最深部まで潜航できる潜水艇を作り、2018〜2019年にかけて世界の5つの大洋の最深部海溝に潜航する”Five Deep“ Expedition に成功した。彼らは、”Five Deep“ に飽き足らず、”Ring of Fire“ Expedition と名前を変え、世界に数多ある海溝に潜航する航海を始め、紅海、インド洋、太平洋の海溝への潜航を行っている。ここまでは本文中に書いてある通りだ。
じつは、このExpedition の一環として、2022年8月から9月後半には”Ring of Fire 2022, Japan Exhibition” と称し、琉球海溝、小笠原海溝、そして日本海溝にかけて計7回潜航し、64回の投げ込み式ランダーを用いた調査が行われた。航海には日本側から計10数名が参加。3名が潜航し、海溝を実際に観察した。ビデオ撮影を行い、生物や若干の堆積物を採集することで、生物と地質の多様性と機能が見えてきた。本書の口絵に「海底にしがみつく有茎ウミユリ」という写真があるが、これは水深9200m の房総沖三重会合点に聳える3000m級の崖に群生するチヒロウミユリである。日本近海にはこういった絶景がいくつもある。
私はVescovo チームのAlan Jamieson, Rob McCallumらに、この航海全体のコーディネーションを依頼された。彼らと議論を重ねながら、約1年かけて調査計画を作り、地点の選定と日本政府の関係機関との調整を行った。実際に潜航もした。この航海に参加して、やはり、研究者自身が超深海を訪れて、観察し、測り、生物・堆積物・岩石を取って分析することの大切さを理解した。
いまから数年後にはアメリカのフルデプス潜水艇が再度来日する可能性が高い。それに向けて、どこで、どういった科学を、どういった装置で行うのかを考え、さまざまな準備をしておきたい。
自然は、実際に訪れたものにしか真実は語ってくれない。
私たちはお行儀よく客席にいるだけでいいのだろうか。It is our turn (次は我々の番だ)――開拓者たらんと思うものの心からの叫びである。
東京海洋大学客員教授・北里 洋