GRCS (Gambling Related Cognitions Scale)
Gambling Related Cognitions Scale(GRCS)は、Namrata Raylu博士、Tian Po Oei博士によって開発された、ギャンブル障害者の非合理的な考えを測定する自記式尺度です。世界各国でギャンブル障害者の非合理的な考えを測定するために用いられている他、ギャンブル問題、ギャンブル障害の支援、治療の現場でも回答できる尺度として利用されています。
各項目1~7点(1:かなりあてはまらない, 2:わりとあてはまらない, 3:少しあてはまらない, 4:どちらともいえない, 5: 少しあてはまる, 6:わりとあてはまる, 7: かなりあてはまる)、23項目合計で23~161点の範囲をとります。また、GRCSの特徴としては、以下の5つのギャンブル障害の非合理的な考え方を測定することができます。
GRCSS日本語版は、原版版権者のTian Po Oei博士から承認を受けて翻訳され、日本の一般人口を対象にした研究で妥当性、内的整合性が確かめられています。
ギャンブルに対する期待:ギャンブルをすることによって自分になんらかの利益がもたらされる、あるいは不利益が取り除かれる、という考えのことを指しています。具体的には、「パチンコをすると楽しくなる」、「競馬をするとストレス発散になる」、「競馬をすると、嫌なこと(仕事での失敗等)を忘れることができる」、「ギャンブルをするとお金が増えて、生活が潤う」といった期待があります。確かに、うまくいっている、つまり勝っている時は、一時的に楽しくなっていて、ストレス発散にもなっていて、仕事のことも忘れることができていて、お金も増えているのだろうと思いますが、しかしながら、ギャンブルの大半が負けにつながりますので、ギャンブルによって何らかのメリットが得られるという考えは、非常に非合理的であると言えます。
幻想的必勝法:ある特定の行動をする、あるいは特別な出来事が起きることによって、ギャンブルの結果を変えることができる、という考えのことをさしています(ここでいうギャンブルには、その日のギャンブル全体の勝負もそうですし、目の前の1レース、目の前の1回転、なども含んでいます)。つまり、ギャンブラーは自分が何かをすれば、あるいは何かツいていると思わせるという出来事が起こったときに、ギャンブルをすることが多いのです。例えば、以下のようなさまざまな幻想的必勝法をギャンブラーは持っています。周りからすると非常に幻想的であることがお分かりいただけるかと思います。「コンビニのレジで、おつりが777円だったので、今日はツいているかもしれない。」、「午前中に家事をたくさんしておいて、家族に奉仕しているほど、勝ちやすい。」、「友達と一緒に行くよりも、1人でいくといつもより集中できるので、勝ちやすい。」、「長い時間やると、自然とトータルで勝ちに近づいていく。」、「事前にスマホのニュースを読み漁り、情報をたくさん集めたときこそ、レースの予想はあたる。」、「熱いリーチが来たときは、できるだけ落ち着いていると、当たりやすい。」、「全く熱くない展開が続いたときは、トイレ休憩をすると流れが変わる。」、「連荘している時は、運気が逃げないように、できるだけ休憩をしない。」
誤った統計的予測:ギャンブル本来の確率を無視して、今までの結果だけから当たりが近づいていると考える、すなわち確率を低く見積もってしまうこと、を指しています。ギャンブラーがよく言うことのなかには、「パチンコをしていると、たまに全く熱い演出がない時間帯があるんです。そういう時間を過ぎると急に熱い展開が来ることが多いので、できるだけ、熱くない展開が続いても、打ち続けるようにしています。」であったり、「300分の1の確率の機種は、だいたい300回転以内に当たるので、200~300回転位は当たりやすい。」であったりは、誤った統計的予測を反映していると言えます。
ギャンブルを断つことの放棄:ギャンブルをしたいという欲求の強さを抑えることができない、と考えたり、ギャンブルをやめることそのものを難しいと考えたりする、すなわちギャンブルを断つことに対する誤った考え方、を指しています。ギャンブラーの多くが、ギャンブル欲求がどれほど強大で、それに抗うことが難しいのかを知っておりますし、ギャンブルを止めようとして何度も失敗してきましたので、依存度の高い人ほど、この考え方を持っている可能性が高いです。しかしながら、ギャンブルを断つことは決して不可能ではないので、治療が進むにつれて、「ギャンブルを止めることは何とかできる」、「いろいろな方法を駆使すれば、高まったギャンブルの欲求を抑えることもできる」と考えることができるようになっていきます。
かたよった解釈:ギャンブルで勝因を自分自身に帰属し、その敗因を外的な要因に帰属して解釈したり、自分自身の都合の良い(つまりは、勝った時の)記憶だけを思い出したりする、ことを指しています。ギャンブルの中には、スキルを必要とするものも中にはありますが、ギャンブルの勝ち負けはランダムな結果に基づいていて、かつハウス・アドバンテージ、つまりギャンブルを提供する側が相対的に儲かるような仕組みにもなっておりますので、スキルをどれだけ身につけても、勝ちに大きく影響するようなことはありません。したがって、勝ち負けの原因をどこかに帰属するという考えは非合理的であると言えます。加えて、多くのギャンブラーは、負けた記憶よりも勝った記憶を覚えています(勝った回数と比較して、負けた回数の方が多いにもかかわらず)。そのため、勝った記憶を思い出して、もう一度そのような体験をしたいとギャンブルが続いてしまうことも、負けた記憶を無視している、というかたよった考え方であると言えます。
用途
ギャンブルに関連する非合理的な考えのアセスメント
開発論文
Yokomitsu K., Takahashi, T., Kanazawa J., & Sakano Y. (2015). Development and validation of the Japanese version of the Gambling Related Cognitions Scale (GRCS-J). Asian Journal of Gambling Issues and Public Health, 5, 1. doi: https://doi.org/10.1186/s40405-015-0006-4
Raylu, N., Oei, T. P. (2004). The Gambling Related Cognitions Scale (GRCS): Development, confirmatory factor validation and psychometric properties. Addiction, 99(6), 757-769.
日本語版版権者
Kengo Yokomitsu
尺度の利用
非営利目的の場合、GRCS日本語版は開発論文の引用を条件に、日本語版版権者への許諾依頼なしに無償でご利用いただけます。臨床での利用についても、日本語版版権者への許諾依頼は不要です。Webサイトやスマートフォンアプリへの組込みなども非営利目的であれば無償です。営利目的の利用をお考えの場合はお問い合わせください。
文責:横光健吾
最終更新:2024-07-30