近年の光技術の進展によって、テラヘルツ光に比べ波長の短い中赤外光領域においても高強度な短パルスの発生が可能となってきました。高強度な中赤外光パルスを固体に照射すると、試料を破壊することなく非常に強い電場を瞬間的にかけることができるため、これまで観測されたことがないような極端な非線形現象が発現します。高次高調波発生はその代表例の一つで、入射した励起光の整数倍のエネルギーをもつ光が固体から放射されます。特に、従来の高調波発生を記述する摂動論から逸脱した高強度領域にまで到達できることが、注目を集める一つの理由です。このとき、非常に強い光電場によって(通常の光学応答にはほとんど寄与しないような)波数空間の広い領域まで電子がコヒーレントに運動し、その過程で高調波が放射されることになります。したがって、高次高調波は広いバンド空間上のキャリアダイナミクスを反映しているはずで、固体の電子構造や動的性質の新しい光学的プローブとなると期待されています。しかし、非摂動論的な高次高調波と、従来の摂動論的な高調波は、光として定性的に異なる特徴を持つのか?両者はどのように繋がっているのか?という問いに明確に答える実験はありませんでした。