海中を観測するための海中ロボットや漂流ブイ、自動船舶などのプラットフォームは、近年小型化が進んできている。そこで、それらに搭載される観測機器にも当然小型化が要求される。一方で、今日では多成分同時計測や分子認識が可能な革新的なセンサ技術が登場してきている。多項目を同時に計測できるセンサがあれば、対象成分毎に異なるセンサを搭載する必要がなくなるため、小型の海中観測プラットフォームへの搭載が容易になる。そこで現在、「ナノトランジスタ技術」と「分子認識センサ技術」の海中計測への展開を目指した研究を進めている。
ナノトランジスタはその名の通り、ナノメートルスケールまで小型化されたトランジスタ型のセンサである。これまでにもISFET(イオン感応性電界効果型トランジスタ)などを用いたpHセンサなどが開発され、海中環境にも応用されてきた。ナノトランジスタはその中心的な機能要素である半導体トランジスタを、ナノメートルスケールにまで小型化している。従来型のセンサデバイスは、対象成分に特異的に反応するようにするため、イオン選択膜をトランジスタ表面に配する必要があった。一方で、ナノトランジスタの場合、ナノスケールの空間における各種イオンの振る舞いの違いを検出することが可能であることが判明した。これにより、原理上イオン選択膜が不要になるという特性がある。そこで現在、ナノトランジスタ技術の研究で世界をリードする研究者の一人であるクレモン・ニコラ博士(東京大学生産技術研究所・LIMMS/CNRS)と共同で、この新たな計測原理とマイクロ流体技術を組み合わせて海中計測に応用することで、多成分の同時計測が可能なセンサの実現を目指している。
参考:シリコンナノトランジスタによる血清中イオン濃度の計測に成功〜新しい表面化学を利用した高機能センサの実現に前進〜(NTT)
もう一つ、革新的なセンサ技術として注目しているのが、自己組織化型分子認識材料を用いたセンサの実現である。ターゲット分子を認識することで色等の特徴が変化する材料を用いればセンサとして利用できるが、検出ターゲットを特異的に認識できる材料を真っ正面から設計するには多大な労力を必要とする。一方で、分子の自己組織化現象を応用することで、複雑な設計を行うこと無く、低コストかつ迅速に目的とする分子認識材料を得ることができる。つまり、海水中に溶解している多様な無機・有機成分の網羅的な検出が可能なセンサデバイスが低コストに実現できる可能性がある。そこで、超分子材料のデザインとセンサデバイスへの応用の第一人者である南豪先生(東京大学生産技術研究所)にご協力いただき、海中で使用できる新たなセンサデバイスの実現に向けた検討と開発を展開している。
共同研究:東京大学 生産技術研究所 物質・環境系部門 超分子デザイン分野 南豪 研究室
研究支援:科学研究費補助金、クリタ水・環境科学振興財団