3Dプリンタで製作した部材と、ポンプ・バルブ・電装系を組み合わせ、リットルレベルの処理が可能な自動濾過装置を試作。海域試験を進めている。
大きな構造から小さな構造まで一気に造形できる3Dプリンタ技術を応用して、マルチスケール流体技術の体系化を目指している。
マイクロ流体技術を用いることで、海中でPCR等の高度な生化学分析を行うことができるようになってきています。一方で、マイクロ流体技術における一つの課題として「扱うことができ流体の量に限界がある」という点が挙げられます。つまり、マイクロリットルやナノリットルレベルの超微少量の扱いには有利なマイクロ流体技術ですが、ミリリットルレベル、さらにはリットルレベルとなると、そのままではマイクロ流体デバイスの中で取り扱うのは困難です。例えば、海中微生物を対象とした分析であれば、1ミリリットルも海水を集めれば、そこには大量の微生物が含まれていますので、現場型遺伝子解析装置で実証したような自動遺伝子抽出からPCRによる解析まで、マイクロ流体技術のみで対応できました。一方で、魚類を対象とした環境DNA分析においては、数百ミリリットルからリットルレベルのサンプルを取り扱う必要があります。
技術的な対処法としては、単純に適当な現場濾過濃縮機能を組み合わせてやれば、マイクロ流体技術を応用した魚類環境DNA解析が可能になりそうに思えます。実際に海中の環境でプランクトンなどを濾過濃縮する装置はいくつか市販されている例があります。しかし、リットルレベルの海水からサンプルを濾過濃縮し、DNAを抽出・精製するには、ミリリットルレベルの流体を対象とした技術も必要になります。DNA抽出操作を経て初めて、マイクロリットルレベルのマイクロ流体技術の領域になってきます。つまり、魚類環境DNAのような、ある程度のサンプル量を必要とする分析の場合、その自動化には、リットルからマイクロリットルまで、まるでスケールの異なる流体の制御技術を集積化することが必要になります。
そこで私は、それぞれのスケール毎に異なる技術を用いてそれを組み合わせる代わりに、スケールの異なる流体制御に広く使用できるユニバーサルな技術として「マルチスケール流体技術」を提唱しています。
異なるスケール毎に異なる技術を用いるのではなく、様々なスケールに対応可能な技術を実現することで、リットルスケールからマイクロリットルスケールまで、効率よく分析の流れをつなげることが可能になります。その上、開発にかかるコストや、装置使用に関する技術習得も容易になると期待できます。
これまで、マイクロ流体デバイスの製作に用いられてきたマイクロファブリケーション(マイクロ加工)技術では、ナノメートルレベルの超微細な構造の実現まで可能ですが、技術の習得に時間を要し、それを行うにも大がかりな設備が必要になります。そこで現在積極的に用いているのが3Dプリンタ技術です。年々急速に発展する3Dプリンタ技術を用いることで、大きなものから小さなものまで、スケールを越えて一気に製作することが可能にあります。今は文部科学省、科学技術振興機構(JST)からの支援を受け、特にマテリアルジェット方式や光造形方式の3Dプリンタ技術をもちいて、魚類環境DNAを対象とした完全自動の現場計測装置の実現に向けた研究開発を進めています。
<参考文献・アウトリーチ>
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T. Fukuba, µTAS-Based in situ Marine Chemical and Biochemical Analysis, The 29th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences (µTAS2025) (Nov 2-6, Aderaide, Autrtalia), 2025(招待講演)
福場 辰洋「海を拓く新たな現場計測技術への挑戦〜これまでの研究開発と研究会のご紹介」第108回海洋技術連絡会(リモート, 2023,11,16)
福場 辰洋「環境DNA自動分析装置開発の現状と展望」Ocean DNAテック2023(千葉, 2023,11,2)
福場 辰洋「マイクロ流体技術分析で挑む海洋環境分析〜これまでとこれから」海を拓く現場計測技術研究会(東京・駒場, 2023,10,23)
T. Fukuba, S. Goto, M. K-S. Wong, Y. Minegishi, S. Hyodo, Y. Makabe-Kobayashi, Y. Sugai, K. Hamasaki, “Development and Evaluation of Automated Gene Collector – ATGC-12S for Environmental DNA Sample Archive at Aquatic Environments” Proceedings of OCEANS 2022 (Hampton Roads, USA, 2022.10.17) (口頭発表/リモート)
福場 辰洋「環境DNA自動分析装置開発の現状と展望」Ocean DNAテック2022(千葉, 2022,11,22)
福場辰洋「現場型自動装置を用いた環境DNA解析への展開」海を拓く現場計測研究会(リモート, 2021.10.4)
福場 辰洋「環境DNAサンプル自動採取装置の開発の現状と自動遺伝子解析への展開」Ocean DNAテック 環境DNA技術はどこまで進むか?(東京, 2021,6,30)
T. Fukuba, T. Fujii “Lab-on-a-chip technology for in situ combined observations in oceanography”, Lab on a Chip, 21(1), pp. 55-74. (Critical Review), DOI: 10.1039/D0LC00871K, 2020
T. Fukuba, Y. Sano, Application of 3D-Printed Microfluidic Device and Miniature Photodetection Technology Towards Photometry Based Biochemical Analysis in Deep Sea, The 23rd International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences (µTAS2019) (Oct 27-31, Basel, Switzerland) pp. 1158-1159, 2019
T. Fukuba, Y. Sano, H. Yamamoto, T. Miwa, and T. Fujii, “Development and improvement of miniaturized in situ bio/biochemical analysis systems towards multi-modal ocean sensing” UT’19 (Kaoshiung, Taiwan, 2019. 4.16-19), 2019
福場辰洋,「マイクロ流体技術による海洋化学・生化学計測」, 日本機械学会誌, 121, pp. 28-31, 2018